光と影の距離

大根初華

光と影の距離

 教室の男性陣はもちろん女性陣も少しソワソワしているように思えた。放課後とはいえ、そのソワソワ感が朝からずっと続いていた。

 机に突っ伏して、周りのざわめきが耳に届く。どうやら今日は2月14日。いわゆるバレンタインデーだ。

 この高校はおそらく普通の高校とは少し違うものの、そういうイベントごとに反応することは一緒らしい。正直オレには関係ない話だ。いじめとか受けているわけではないが、色んな理由がある。

 部活が始まるまでに少し休もうと机に突っ伏す体勢を整えていると、肩を叩かれた。

「寝てるところごめんね。ちょっと良い?」

 同級生の女の子だった。真っ白な肌が特徴的だ。こんなオレによく話しかけてくれる文字通り天使のような人。

 少し怪訝には思ったけれど、もしかすると明日の日直についてなにか大事ななにかがあるに違いない。うん、と頷き、彼女のあとついて行くと、あまり人が来ない理科準備室のようだった。戸棚にフラスコやビーカー瓶がぎっしり詰まっていて、地震が来たら嫌だな、と変なことを考えた。西日が差し込んで、いつも暗い部屋が明るくなっていた。

「これ、今日バレンタインだから」

 そして、彼女から茶封筒を差し出される。マチが広げられていて、大きく膨らんでいる。無言のまま俺は受け取る。ずっしりと重い。たくさん入っているのがわかる。

 彼女の顔がりんごのように真っ赤になっていく。恥ずかしいのはもちろん、もしかしたら西日の光に照らされたせいかもしれない。

 男しては単純に嬉しい。だが、ーーーー。

 純白の羽根と頭に黄金の輪を持つ種族、天使の彼女。そして、漆黒の翼と鋭く尖った牙を持つ種族、悪魔のオレ。

 種族の違い。高い高い壁。触れ合ってはいけない。好ましく思ってはいけない。それが昔から天使と悪魔で交わされた約束。

 彼女のその赤く染め上がった顔を見て、オレは溶けてしまいそうだった。

END

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光と影の距離 大根初華 @hatuka_one

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