第39話神託の撤回

 レオンたちがレゼルの心の中から戻ると、部屋に近衛騎士たちがどっと押し寄せてきた。

 レゼルはきっぱりと、

「静まってくれ。目を覚ましてから、通信球でガレットと話をしてね。エマが処刑されそうになっていると知ったんだ。で、詳しい事情を知りたいから、エマの奴隷に頼んで、エマをさらってきてもらったんだ」


 大臣が、

「陛下! そのようなことは命令を」

「時間がなかったんだ」

「そうですか。とにかく、心配しましたぞ。部屋には入れませんでしたし」

「あぁ。それも奴隷に命令して、そういう魔法をかけさせた」

 レゼルがなんらかの魔法か竜の力を使ったんだろう。


 レゼルは、

「すぐに円卓の間に枢機卿や教皇、大臣を呼んでくれないか? 大事な話がある。至急だ」

「は、はい。ただいま」

 大臣は部屋を出ていった。


 レゼルはニコリと笑って部屋の隅に立つレオンとエマに対して、

「二人も呼ばれるまで部屋を用意するからそこで休んでてよ」

「感謝いたします」

 エマは頭を下げた。


 そういうわけで、用意された部屋で茶でも飲みながら、だべっているとエマとレオンも円卓の間に呼ばれた。


 円卓の間は王や国の偉い人たちが会議や大事な話をする場だ。

 今日はレゼルを初め、大臣やら教会やらのお偉いさんたちがいる。ちゃっかり神父のジジイも座ってやがる。


基本的におっさんとジジイばかりの加齢臭空間だ。


 エマとレオンは加齢臭がしていないしおっさんでもジジイでもない上に、偉くもないので円卓に座ることは許されなかったが、特別に王の背後に立つことは許された。


 お偉いさんたちの顔を隅から隅まで見渡すことができる見晴らしのいい立地であるが、ジジイの顔を眺めても楽しいことなんて何もない。


 そして、最後に入ってきたのはユージェニーだった。彼女はうつむき、今では恐怖に怯えている。


 レゼルはそんなユージェニーに対して、厳しい視線を向けた。

「エマは国家に危険をもたらす人物だという神託が降ったというが、それは真のことか?」

 随分と真面目な声だから、仕事モードと言った様子だ。


 レオンはエマを伺うと、真面目な顔をしていたが、だいぶ、飽きてきているのが伝わってきた。

 正直、もう帰りたいと思っているのだろう。同感だ。


 ユージェニーは答えない。ただ、うつむいて、震えるばかりだ。

 教会の偉いおっさんたちもユージェニーを見て、顔をこわばらせる。


 レゼルは再度、

「聖女にして王妃ユージェニーよ。もう一度問う。汝が受けた神託は真のものか?」

「あ、あなたは、くる、狂ってる! 人間じゃない! 化け物!」

 ユージェニーは答える代わりに叫んだ。

 一同がユージェニーを驚きで見つめ、神官長は静止しようとする。


 レゼルが、

「ユージェニーは聖女と王妃という2つの重圧から精神的にまいってしまったのだろう。神託もそんなプレッシャーから生まれてしまったのではないだろうか。今、彼女には休息が必要なようだ。しばらくは精神の療養所で休んでもらおう」


 神官長も頷いて、

「そ、そうしましょう!」


 暴れるユージェニーを兵士たちが取り押さえ、部屋から連れていった。

「そういうことだから、エマ殿の処刑は撤回ということにしよう」

「し、しかし、それでは体面が……」神官長が言った。

「聖女が信託を受けたのは別人のエマであり、すでに死亡していた。しかし、王国の兵士が勘違いをして、前王妃のエマをを捕まえたということにしましょう」


 レゼルは神官長と枢機卿、法皇に向かって笑顔で言った。

 神殿や教会側は大きな貸しを作ることになった。


 こうして会議は終わり、エマの処刑は撤回、ユージェニーは療養という名目で遠くの療養所へと連行されることが決まった。


 エマとレオンとレゼルとジジイは王の部屋へと戻った。

 レゼルが改めて、

「エマ。今回のことはすまなかった」

「いいえ。王のせいではございません」

「これから、またあの小さな村で暮らすつもりかい? 春までここにいたらどうだい? あの村は寒いだろう」

「お気持ちはありがたいですが、私には田舎暮らしがあっております」


 レゼルは残念そうに、

「そうか。残念だな。僕が安心して側においておける数少ない人間なのに」

「陛下は今は力をコントロールできておられるのですから、昔のように多くの人が犠牲になることはないのではありませんか」

「まあね。できなくなった時は僕は自我を失い、完全なる邪竜になって、国を滅ぼす時だよ」

 笑顔で言うからたちが悪い。

 エマも微笑んでいる。


 ジジイもレゼルに向かって、

「ワシも村へと戻ります。あの村はワシがいないと成り立ちませんのでな」

「そうか。残念だな。時々、竜になってそっちの村に遊びに行こうかな」

「なんのおもてなしもできませんし、陛下はそれができるほどの暇もありませんでしょう?」

「まぁ、そうなんだけどさ」


 こういう世間話が終了後、レオンとエマ、ジジイは村人たちへのお土産を調達し、村へと戻ることとなった。

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