戯れ、惑う、骸の遺跡

「遅かったじゃないか、ノワール。」


 部屋の前まで行くと、ちょうどそこにレオトールが立っていた。


「問題が起きた、早くあそこに戻るぞ。」

「問題? どう言った形の物だ? 少なくとも今現在脅威となり得る事柄はないだろう。」

「レイドボスがPLプレイヤーに発見された、俺に協力していてくれていたヤツがな。彼曰く、1日も経たないうちに三百を超えるPLが殺到するってさ。」

「兵法も戦術もあった物ではないな。物量による圧殺など時代遅れにも程が有る。」

「だが、有効だ。そうだろ?」


 黒狼の問いに、眉を上げて返事とする。

 そして剣を触りながら先に赴く。


「早く行くぞ、人の欲望は非常に恐ろしい物だからな。」

「わぁってるって、俺も急ぐ。」


 そう言いながら骨の体躯で洞を駆ける。

 自身が持つ槍と棍棒がその動きを邪魔するが必要経費と諦めながら。


「そこまで遠くなくて助かったな。」

「ああ、マジで助かった。で、扉がどうのこうのって言ってたけど……。」


 そう言い惑いながら二人とも同時に扉の中に入り込む。

 すると、突如床が光だし……。


「ナニッ!? 魔法的罠マジックトラップだとッ!! 不味い、今すぐ出なければ……ッ!?」


 慌てて叫んでいるレオトールの言葉を耳に二人は落下した。


*ー*


「う……、く……。ここ、は?」

「目が覚めたか、ノワール。」

「!! もう目が覚めているのか? レオトール。」

「ああ、とは言っても大差ない時間だがな。」


 そこまで言うと、レオトールは黒狼に何かを投げ渡す。

 パッと見は石だ、だがレオトールが意味深にただの石を投げ渡すはずがない。


「なんだコレ?」

「そこらに落ちていた魔石だ。 心当たりは?」

「魔石擬き、ってなんだよ。」

「……ああ、ソレも知らないのか。魔石擬きと言うのはな低級のモンスターが作り上げる魔石になれないほど微弱な魔力の溜まりだ。人間風に言うのなら血石か? 唯一違うのはモンスターにとってこの塊は有益な物で有ると言う点か。」

「つまり、魔石擬きなんだな?」

「さっきからそう言ってるではないか。」


 ラノベの魔石を連想して理解した黒狼がそう聞き返すと呆れたように首肯する。


「で、ソレはなんの魔石なんだ?」

「分からんから聞いているのだ、魔物の体躯を持つ貴様なら何か分かるかと思ったが……。」

「生憎と答えることはできないぞ? マジで分からん。」

「ハァ……、使えんな。」

「おい、その言葉は聞き捨てならね……、?」


 ……ガ…ャ……シ…………


 音が聞こえる、骨の音が。


「この音は……、なんだ?」

「警戒しろ、恐らくスケルトン。つまりお前の同族だ。」


 静かに剣を抜き放ったレオトールが、鋭く息を吐き警告を促す。

 直後、風切り音が鳴り、


「質も疾さもまるで足りん。」


 剣で飛来した矢を叩き落とした。


「三体か、ニ体任せた。」

「了解、手早く済ませよう。」


 直後、二人は動き出す。

 距離にして約10メートル、薄ら暗い洞に潜むスケルトンに肉薄する。


「弓兵は後方に置く、定石を考える程度の脳はあるみたいだが……。」


 まずは一閃、盾と剣を持つスケルトンを切り伏せる。

 そして後方に立つ弓を持ったスケルトンに狙いを定め


「『フライ・エッジ』」


 斬撃を飛ばした。


「オッラぁぁあああ!!」


 その横では黒狼が槍を三度振るいスケルトンを破壊する。

 明らかな実力差がそこにはある事が一見して分かる。


「やっぱ、お前強いな。」

「フン、この程度の事で強さを測ったつもりなら貴様の底が知れるな。」

「馬鹿言え、俺と比べてみろ。遠距離攻撃の癖に一撃で倒したお前と3回攻撃しなきゃ倒せもしない俺、どっちが強いか何ぞ見るまでもないだろ。」

「確かにな、で? 此処が何処か察しは付いたか?」

「いんや、全く。地下空間なのは分かるがそれ以上はな?」

「そうか……、と。魔石か、これは幸先良いな。」

「レアドロなのか?」

「……、レアドロ? ああ、珍しいということか。それならばそうだ、中々出なく高値で売れるからな。擬きならば兎も角、純正はそこそこ珍しい。」


 そう言いつつ、エフェクトを発生させながら魔石を仕舞う。

 淡い光に右手が包まれながら消えた魔石から視線を外し周囲を見渡す。


「妙に明るい……? ノワール、お前にダメージは無いのか?」

「え? 明るいのか?」

「……、ッチ。厄介な場所に来たようだな。」

「は? どういう事だよ。」

「断言は出来ない事を前提にしてくれ。まず貴様は光に弱いのだな?」

「ああ、真っ暗な状況でも無ければ常にダメージが入る。」

「という事ならばだ、この明かりは光では無い。」

「ちょっと待て、矛盾しかないぞ? 明るいのに光では無いって。いや、言いたい事は分かるんだが……。」

「……、言ってしまえば我々には常に暗視のスキル効果が入っているような状態だ。」

「……、あーはいはい、理解した。」

「話を続けるぞ、このような状態になる場所は私が知っている限り一つしかない。」


 言葉を区切り、息を飲み込む。

 そして眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら推測を述べる。


「十中八九、迷宮ダンジョンだ。しかも、光苔も生えぬほどの深層領域。言い換えるのならば、より世界と乖離している場所だ。」


 黒狼は、脳裏に浮かんだ疑問符と無数の質問を一つを除き飲み込む。

 彼にそれらを聞けば答えるだろう、だがそれは今すべき事では無い。

 今やるべき事はただ一つ。


「危険度は?」

「分からん、ただあの程度の雑魚が溢れ出てくる可能性は十分ある。下手をすれば100体単位でな。」

「……、此処は安全なのか?」

「私に聞かれても何も言えんぞ?」

「……、だな。」


 溜息を吐きつつ、黒狼は槍を握りしめる。


「迷宮に関する知識量はお前の方が多い、だろ? だから此処からの行動はお前に任せたい。どうだ?」

「構わん、と言うか此方から提案しようかと思ってたところだ。下手を打たずとも普通に死ぬ、そのような場所で知識のない人間に先導されるのは御免被る。」

「……お前、ナチュラルに暴言吐かない?」

「ナニ、お互い様だ。貴様も程々に口が悪かろう?」


 互いに苦笑し、目の色を変える。

 暖色から寒色に。


「早速、お出ましじゃねぇか。」

「サポートを、消耗は極力避けるぞ。」

「応とも。」


 洞窟のY字路、その先から音が聞こえる。

 未だ姿は見えないが、確実に音が。


「逃げるか?」

「……いや倒す、挟み撃ちは避けたい。」

「了解。」


 短く返すと黒狼は片手を開けもう片方の手で槍を握り込み、腰を据える。


 カシャ……カシャ……、カシャ。


「ダークボール!!」


 見敵必殺、モンスター相手ならば手心を加える必要はない。

 生成した黒玉をスケルトンの顔面に投げつける。

 豪速球とまではいかないものの速球であるその球を避ける事は困難であり、スケルトンの意識外からともなれば不可能に等しい。

 つまるところ、成す術なく顔面に黒玉が当たったという事だ。


 そして、一拍。


 その後に体勢が崩れたスケルトンを一見するなり、間合いを詰めて剣を一閃。

 間も無く、追撃を放ち二閃。

 此れ似て三体を倒し切り、そして三体目。

 振り上げた剣を振り下ろし、金属製の柄で頭蓋を叩き壊した。


「決して強くないのは救いだな。」

「いや、そんな事はないと思うぞ……。」


 呆れながらそういうと、消えていく骨の中にある消えていかないアイテムを拾う。


「骨に魔石? に頭蓋か。いい感じかねぇ?」

「まぁ、悪くは無かろう。売りに出せば日銭程度は稼げるさ。ただし、迷宮の中彷徨っている事を考えなければな。」

「……、確かに。」


 今必要なのは武器やテントであり間違っても換金素材ではない。

 そして敵がスケルトンである以上、そんなもの望めるはずがない。


「「はぁ。」」


 同時に溜息を吐きこれからの事を不安に思いつつ黒狼はアイテムを仕舞い、レオトールは武装を解除した。

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