暗殺

 初撃の槍の投擲、それによってランプを砕く。


「なっ!?」

「へ?」

「コレは……。」


(非常に申し訳ないが、此処で殺させてもらう。)


 口には出さず、両手に携えた棍棒を振るう。


「ッ、早く明かりを出せッ!! 攻撃されてやがるッ!!」

「今やってますよッ!!」


 振るった棍棒は避けられた、がそれすら計算の内と言わんばかりに追撃を行いサイと言われた男を弾き飛ばす。


「グッ。テメェ、何者だッ!! 少なくとも蜘蛛じゃねぇだろ!!」


 答える口は敢えて持たない。

 此処にいるのは、闇に紛れた不死者。漆黒を味方にした暗殺者。

 弾き飛ばされ、動きが制限された男の頭を棍棒で叩き割る。


 グシャッ!!


「ヒッ!? き、聞いてないわよッ!! 契約違反よ!! 違約金を払いなさいよッ!!」

「生憎と、契約書には戦闘の旨が記載されています。違反にはなり得ません。」

「そんなこと知らないわよッ!! 早く払i……、あ。」


 揉めている隙に、さっと槍を拾い女の胸に刺す。

 なにやら文句を言っていたようだが、正味関係のない話だ。

 何せ、女が胸から生えたナニカ槍の穂先を確認した瞬間、ポリゴン片へと変化したのだから。


「で、話は聞かせてくれるか? 探求会?」

「あれ? プレイヤーの方ですか? 後、私のことは知っているご様子ですが……。」

「失礼で悪かったが、話を聞かせて貰った。幾つか情報を売る代わりに……。」


 重みの消えた槍を静かに、目の前の人物に突きつける。


「情報を買い取らせてもらおう、さん?」

「おや、どうしてバレました? キッチリと偽名を使っていたはずですが……。」

「鑑定をかけさせて貰った。名前ぐらいならこのゴミスキルでも解るようでな?」

「鑑定ですか……。初期では使えないスキルで有名ですが、よもや取得している方がいるとは驚きですね。」

「予想外で驚いたか? そりゃありがたい。で? さっきの話、受けてくれるか?」

「あー、情報の売買は本部以外で行えません。ご理解をお願いしますね?」

「生憎と、俺の問題でそれはできねぇよ。」

「……、街への入場が不可能ってことですか? ふむ、レッドマーカーの場合は取引を断らせて……」

「ちげぇよ。……、とはいえ安易に言いたくもないしな。お前より上のやつを出してくれ。」

「はぁ? 傍若無人にも程がありませんか? お客様は神様とはいえ流石にそれは許容出来ませんよ。」

「勝手に言っとけ、だが少なくとも俺はお前らが絶対手に入れていない情報を持ってるぞ? ソレを捨てて良いのなら交渉は終わりだ。」

「……、そうですね。ではその信用の対価となるモノをまずは出してください。些細な情報でも構いませんよ?」


 告げられた言葉には警戒が多分に含まれている。

 鼻から信用する気はないと言っているようにも思える。

 

「じゃあ、一つ目。錬金術の製作物を製作途中で別の人に渡した場合自動失敗になるのは?」

「事実ですか? 確認を……。はぁ、未検証? とりあえず、バルカンさんに検証のお願いを。細かな条件ですか? ふむ、少し待ってください。すみません、詳細条件は判明して……。」

「知らん。」

「ですよね、はい。詳細条件は不明らしいですが……。検証終了? ああ、自動失敗すると言う警告文が出たのですね。はい、お騒がせしました。」


 そう言うと、パラスは空中に指を這わせる。


(側からステータスを操作してるとこんな風に見えるのか。)


 内心新鮮な感覚を味わいながら警戒心を強め、余地強く槍を握る。

 

「新情報の提供、ありがとうございます。後ほどお礼を……。」

「礼は取引のおける信用だ。さっきも言ったはずだが?」

「ソレとコレは違いますね。ソレは情報が信じるに値するかと言う信用であり、コレは情報に払う対価です。対価を払わぬ情報屋はすぐ潰れる。常識ですよ?」


 理解に苦しむ理論だが、相手を納得させられたと言う事実を一応受け止めた。


「そうか。まぁ、この程度の情報で得られる対価なんて高が知れているだろうけどな……。」

「ソレより本命の情報を話してください。まさか……、嘘ということは有りませんよね?」

「勿論、だがその前に一つ聞きたいんだが……。この世界の宗教は一神教か?」

「いえ、11の神がこの世界を収めていますね。」

「それぞれの名前は?」

「さぁ? なんでしょうね?」


 含みを持たせた薄ら笑いを浮かべそう答えたパラスに、黒狼は凡そ自分の考えが間違って居ないと確信を抱く。


「なぁ? ソレってコッチDWOの神話に登場する神の名前だったか?」

「ふむ……、凡そ察しがつきましたが……。ソレは此方でも把握している情報となりそうですね。」

「……つまり、欲しい訳か。」


 黒狼が提供できる情報は確実に希少価値が高いと、そう確信した。

 故に確信を抱く、己が推論に。

 早る鼓動を落ち着かせるように、如何に自分が知っているかを装う様に尊大に振る舞う。


「ハハ、さてソレはどうでしょうかねぇ?」


 空笑いでその質問に答えたパラスはゆっくりと、握る手を開く。

 そして、半歩。

 思わずと言った様に下がり……。


 ザシュッ……。


「謀を行うのであらば、もう少し周囲を警戒するべきだな。」


 影より出た騎士に刺された。


「……、彼が情報ですか?」

「フン、戯け。元より汝等の手には私の情報程度集まっているであろう? いや、集まっているな。そして、この先に眠るモノの情報すらも。」

「いえ? 何かあると言うことだけは知ってますがそれ以上は。」

「そうか。」


 それだけ聞くと黒騎士は、己の剣を軽く振り上げパラスを真っ二つに両断する。


「ふん、嘘すら真と思えるその精神性。まともとは思えぬな。」

「聞き飽きてるよ、その手の異常者扱いは。」

「そう穿った取り方をするな、多少は誉めているのだぞ?」


 そう言うと、黒騎士は近くの岩に座る。

 ガシャンと音が鳴り、洞窟に軽く鳴り響く。


「闇魔法の成長は順調だな。」

「光を吸収する魔法だってな。聞いてないぞ? そんな話。」

「言っておらんからな、何より現時点では意味がない。」

「意味がない……? なんで?」

「逆に聞くが、全身を覆うほどの闇を常に出し無限とも思える光量を常に吸収できるのか。」

「あっ(察し)」


 つまりはそう言うことである。

 使えないものを今告げても無駄という話で有り、最初から言わなくても結果は変わらないと言う話だ。


「降らん話は終わりだ、ソレより貴様に提案がある。」

「なんだよ、提案って。」

「簡潔に言おう、此処を出て行く気は無いか?」


 は? と言おうとして言葉に詰まる。

 その提案に乗っかるメリットが見えてこない。

 即座に断ろうと考え、一旦思考を止める。


「理由は?」

「凡そ、数百に及ぶ敵がきているぞ? 全く、情報伝達が早いにも程があろう。」


 呆れたように告げられた言葉、ソレに驚きを隠せずに問いただす。


「どう言うことだよッ!?」

「私の情報が露呈した、いや違うな。この場合正しくは私と言う存在レイドボスを餌にしたのだろう。ソレと、汝の連れの話もな。」

「レイドボス……、まさかっ!? そう言うことかっ……!!」


 つまりは、

 全くもって、道理がなくソレで居ながら納得できる話だ。


「納得したのならば早く連れを連れてあの石室に向かえ。戸は開いてある、時間的猶予はまだあるが1日と経たずして此処に数多の異邦人が訪れるぞ?」

「ソレは親切か?」

「まさか、ちょっとした戯れだ。」

「そうか、わかった。今は大人しく従っておくよ。」

「そうするといい。」


 それだけ告げると黒騎士は音もなく消えた。


「俺もあの部屋に戻るか。」


 黒狼も静かに立ち上がると、部屋に向かうように歩き始めたのだった。

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