Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜

黒犬狼藉

一章上編『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』

プロローグ

 昨今、よく言われる言葉として


『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』


 と言う言葉がある。

 発祥としては、SF作家アーサー・C・クラークが定義したクラークの三法則であり他に


『高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。』

『可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。』


 と言う物がある。

 今から語る物語は、この『クラークの三原則』に基づいき行き過ぎた科学技術を会得したとある世界の物語である。


 まず、舞台世界観の説明をしよう。

 この世界は、2937年4月13日に脳神経外科の第一人者【ハワード・F・ラヴクラフト】が発見した脳の全てのデータを操作可能な特殊な脳波(この世界ではそれをカスルブレホード波と呼ぶ)に基づき可能となった偉業。

 すなわち、フルダイブ型VRバーチャルリアリティシステム。

 は瞬く間に世界に革新をもたらした。

 視覚異常者に世界の情景を見させ、腕が無くなったものに新たな肉体を齎す。

 それに留まらずカスルブレホード波の規則や周期、細やかな発生条件などに留まらず生命のブラックボックスや生物の神秘とまで言わしめた脳及び脳の働きが必要不可欠な人体の仕組みを解明し、そのデータを使い50年で人間と遜色ない行動を電脳上とは言え可能なAIを作成、さらに僅か20年で同一性仮想現実(現実と遜色なく仮想運営した世界)を作り上げ、医療用として一般に特殊型VRゴーグル(通称、VRC)が連日連夜ニュースやワイドショーで取り上げられる事となった。

 またさらに10年で同異性仮想現実(現実ではあり得ない状況下で仮想運営された世界)が作り上げられ同年から家庭用VRCが販売、コレを利用した会社や学校も即座に乱立し一家に一台どころか一人一台と言わしめるまでになった。

 そして、そこから5年後、3022年10月にゲーム界に革新を齎すVRMMORPGこと『Deviance World Online』のβ版が配信され同年11月に正式サービスが配信され始めた。


 何故、『Deviance World Online』がゲーム界に革新を齎したのか? 答えは一つ。

 運営と言う外なる神が、介入せずAIでしかないNPCに運営と同じような権限を与え管理させると言う暴挙に出たのだ。

 従来のゲームは運営が一から世界を作成、維持、調整していた為その労力は計り知れず必然的にゲームの代金は割高となり民間に幅広く行き届いていていたVRCであったがその割高な代金のせいで一部の富裕層しかプレイ出来なかった。

 だが、この『Deviance World Online』はその特異性から人件費を大幅に削除可能であり必然的に安くそれでいながら他のゲーム会社と同じクオリティーのモノを販売するに至ったのである。

 また、異常なほどの上質なグラフィックや現実的な肉体との連動性、それだけでなくの動きも感覚的に操作可能なこと、更には指数関数的に増えていった人口を受け入れる為の大規模な宇宙開拓も一旦落ち着いた時期であった事も人気に拍車をかける一因となり3年もすればめでたくミリオンタイトル入りとなる事だろう。


 そんな、『Deviance World Online』が配信される11月19日20時00分……、の5分前である19時55分に慌てて家に駆け込みVRCの電源を入れて仮想現実に入った少年『黒前 真狼くろまえ  しろう 』が面白おかしくで自由気ままに遊ぶ物語である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしてこうなったぁぁぁぁぁあああああ!?」


 洞窟の奥でスポーンした一体のヒト型スケルトンレッサー・スケルトンが肉なき骸の姿で叫ぶ。

 どうして、こうなったか。

 その答えは、最初のチュートリアルを見れば溜息と共に納得できるだろう。


*ー*


 急いで帰って来てすぐにベッド横で充電しているVRC(Virtual Reality Connection)を頭にかぶりながら専用のイスに座り込む。

 10秒も待てば、慣れ親しんだ奇妙な感覚と共に真狼は電脳の仮想世界。

 その中でも真狼が割と凝って作成した待機ルームに到着した。


「あと、1分ッ!? あぶねっ!! もうすぐで間に合わなくなるところだった……。」


 別に、多少遅れても誤差でしかない時間に間に合ったことに安心し胸を撫で下ろす。

 そして気が遠くなるほど長く感じた1分を超えた瞬間、空中に新たなパッケージが現れる。

 タイトルは分かっての通り、『Deviance World Online』だ。

 友人からβ版の体験を聞き即座に自分もやると決めたゲーム。

 それへの期待感は何よりも重く、今までにないほどの背筋を這う緊張感とそれ以上の高揚感に身を包ませながらパッケージを手に取りロードをする。

 何の抵抗もなく入ったパッケージは、一瞬の間を置き空間を書き換えた。

 それは、まさに真狼が待ちに望んだ瞬間。

 あらゆる幸福感が全身を駆け巡り肌に鳥肌という形で浮かび上がる。


 そして、いよいよ覚醒した視界がとらえたのは燦々さんさんと輝くロゴ。

 その下に佇む1人の管理NPC女神

 周囲は少年しろうが手ずから作り上げた簡素な部屋の比ではなく、剣と魔法のファンタジーを体現するかの様に作られた神殿の内部であるのが窺えるだろう。

 あまりの物珍しさと共に隠し切れない興奮を伴って呆けた思考は一瞬の間を置き言葉を出そうと動き始めた。

 だがそれより尚早く、管理NPCが言葉を告げる。


「『Deviance World Online』へようこそ!! 我らが世界において異邦となる旅人よ。」


 透き通る様な、では表現できない。

 それはまるで、春先に仄かな暖かさを持って降る雪の様な声に微かな緊張を持って答える。


「えっと、よろしく……?」


 言葉が出ない。

 他者と話すことに不慣れという訳では無いが、と言うわけでもないが絶世の美女が目の前に立っているというあまりに不可解な事実に脳は処理しきれず、故に真狼は多少しどろもどろになりながらもありきたりな返答を返す。


「はい、よろしくお願いします。」


 そんな、緊張している様子がありありと窺える真狼に対しても微笑み優しく返答を返す様はまさに自称とは言え女神を名乗るに相応しい。


「では、早速キャラメイクをしましょうか。」


 だが、そんな夢見心地はその一言を聞いただけで砕け散る。

 あまりに人間離れした美しさから人間性を見出していたが故に、人間でないという事実がはっきりと浮き出た事がより認識に差を付けた。

 幾ら人間と等しい人間性を持とうが所詮はAI。

 人間にはない……、いやこの場合はと言うべき、そんなナニカを感じ取ってしまい真狼は深層心理で根本的な拒絶をしてしまう。


 そう思ってしまえばどれほど眉目秀麗、深窓の令嬢如く麗しい見た目をしていようと興奮は冷めてしまうモノ。

 中にはそれすら受け入れる剛の者もいるが生憎、真狼にはそれほどの異常性も無ければ好き者でもない。

 何を目的としてコレを始めたかを再認識し、未だ微笑み掛ける女神にやる事を聞く。



「ああ、まずは名前か?」


 高圧的で無いにしろ、相手をただのコンピュータと認識したが故の合理性を持った声色で聞く。

 正直、ただのコンピュータには興味はない。

 そんなことより、早くゲームをやらせろ。と深層心理がそう叫ぶ。


「はい、どの様なお名前が宜しいでしょうか?」


 高圧的な質問に答える様に、真狼の前に名前の入力欄が現れた。

 いつも通り、良く自分が使用するユーザーネームである【黒狼こくろう】を入力する。

 己が名前に含まれる文字、それを雑に繋ぎ合わせただけだがシンプルが故に使いやすいと言えるだろう。


「そのお名前で宜しいでしょうか?」


 決定ボタンを押すと目の前のAIが反応した。

 ああ、と頷くと別画面が開きそこの名前という欄に【黒狼こくろう】とファンタジー的な演出を起こしながら焼き付けられる。


「では、黒狼様。次は種族をお決め下さい。」

「種族? 人間以外もあるのか?」

「はい、ヒト族以外にもエルフ族、ドワーフ族、ビースト族、デミヒューマン族、アンデッド族、アンヒューマン族が御座います。」


 次々と告げられる言葉と共に黒狼の周りにそれぞれの種族の姿が現れる。

 視線を向けるとそれぞれの長所や短所が書かれたタブが現れ、その中でも一般的に人外と呼ばれるデミヒューマン族、アンデッド族、アンヒューマン族に興味が向けられた。


「一つ聞きたいんだけど、この中で一番プレイ人口が少ないのはどの種族?」

「……はい。今の所具体的な人数は言えませんがアンデッド族が最も少ないですね。」


 その言葉を聞き、どうせやるならば奇をてらったプレイをしたいと思っていた黒狼はアンデッド族に即決する。

 ナンバーワンよりオンリーワン、人としての安直且つ簡単なプレイより人外と言う一癖も二癖もありそうなプレイの方が彼の好奇心を強く揺さぶる事となった。


「本当によろしいのですか? アンデッド族にはデメリットがございますよ?」

「大丈夫だ、問題ない。」


 フラグの様なセリフと共にYesとボタンを押す。

 すると、見本の様に現れていた様々な種族の姿が消え一目見てアンデッドだと分かる様な種族が大量に現れる。


「どれがよろしいでしょうか?」


 アンデッド族……、不死者に類するモノはキワモノのキワモノであるが故に最初の選択の段階から10個程の選択肢が示されている。

 どれらも一長一短、ピーキーな性能を発揮すること間違いなしの説明が書かれている。

 それぞれの説明を読み込み、じっくり思案する黒狼だがその思考は管理AIこと女神の声によって遮られた。


「お悩みの様であれば、お先にスキルを決めてしまいますか?」

「そんなことできるんですか!?」


 即座に食いつく黒狼。

 現状、袋小路に迷い込んでいるのは黒狼なのだ。

 ならば、打開策として挙げられた提案に乗るのも吝かではない。


「では種族は一旦保留としまして、此方がスキル一覧です。」


 そう説明すると同時に、新たな画面が現れて大凡1000個のスキルが表示される。


「この中からお好きなモノを10個お選びください。」

「10個……、か。」


 オウム返しの様に呟き、スクロールをしながらスキルを選んでゆく。

 全て初級というべきか、初心者用なのは間違い無いのでゲーム内でも比較的簡単に取れるであろうモノしかない。

 ならば、その中でも取得の難しそうな魔力系統や錬金術系統を優先して確保する。

 そうすれば、自ずと自分の向かう方向性が見えた様な気がし始め最終的に黒狼はアンデッド族のスケルトンにすると決定した。

 そこからは取得したスキルの効果を確認しつつ、自分に最終確認を行う。

 本当にコレでいいのか? と。


「ま、ダメかどうかは未来の俺が決めるだろ。」


 ウジウジ悩んでても仕方ない。

 コレはゲームであるのだ。

 なら、やりたい様にやれば良い。

 そう結論付けて、ポップアップされていた画面に映る決定ボタンをポンポン通してゆく。

 あれだけ悩んでいたモノも一度決めて仕舞えば一瞬で決まっていく。


「よし、こんなところか。」


 そうして完成したステータスはこんな感じとなった。


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*ステータス*

 名前:黒狼こくろう  Lv.1

 性別:男

 種族:アンデッド族

 生命力:ー(なし)

 耐久力:10 *種族特性です

 魔力:20

 スキル

  光耐性(反転)Lv.10 *種族特性です

  打撃耐性(反転)Lv.10 *種族特性です

  魔力視 Lv.10 *種族特性です

  状態異常無効 Lv.ー(上限) *種族特性です

  錬金術 Lv.1

  調合 Lv.1

  闇魔法 Lv.1

  光魔法 Lv.1

  魔力操作 Lv.1

  魔力活性 Lv.1

  解体 Lv.1

  鑑定 Lv.1

  暴走 Lv.1

  棒術 Lv.1

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 一部ヤバそうなスキルが見え隠れするが基本的には後衛型魔術師と言ったスキルの割り振りだろう。

 

「準備はできましたか?」

「あ、はい。できました。」


 そう答えると、女神の背後に空間が開く。


「では、旅立ちなさい。異邦より訪れた旅人よ。その道に幸あらん事を。」


 その言葉に嬉しく思いながら、空間を潜る。

 その先は燦々たる日光に照らされた穏やかな平原で……。


「ん? 日光……?」


 次の瞬間、キルログが流れリスポーンまでの時間が表示される。

 幸いにも、10秒で済んだリスポーンまでの時間。

 死んだ理由は考察するまでも無い。

 何度か、リスポーンを繰り返して最終的に洞窟に辿り着き黒狼はこう叫ぶ。


「どうしてこうなったぁぁぁぁぁあああああ!?」

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