第50話 放免

 リハーサルのつもりの『宣戦布告』は、操作ミスで生配信されてしまった

 例えるなら『テロリスト』の犯行前声明風の出来だった

 それに気づいたティセは、流石にマズいと皆に黙っている事にする・・・

 そこへ捕虜を連れて向かってた後続部隊が、王都へ到着した


「グレーイズ様、アズディニ様が到着されました!」


「よし、誰か領主を呼んできてくれんかのぅ?」


 ノートンは2階で休んでいたノアに報告をし、皆をギルド前で迎えた


「2人共ご苦労であった、疲れたであろう!」


「はっ! 捕虜と共にってのが、緊張感がございました!」


「2人はもう少し頑張ってくれ! 先ずは、兵と捕虜たちに食事を頼みたい

 我々はあちらの酒場で、食事と休息をしてるが、流石にそれ程の食料は無い

 違う宿屋や飲食店などから、接収しても構わん

 兵士100で食料の調達と食事の用意、捕虜たちに食わせてから兵士たち

 2人と鬼は最後になるが、それまでは鬼と共に捕虜を監視しててくれ


「はっ! しかし接収などしてもよろしいのでしょうか?

 領民からの反発があった場合、どう致しますか?」


「その心配は、無用だ… 【トーラ】の人々は、全て連行されてしまったようだ」


「全てでございますか!?・・・」


「まぁ、それは後ほど話す 皆の食事を頼んだぞ!」


「はっ!」「はっ!」


 2人は兵士たちに指示を出し、食料調達と食事の用意をさせる


「ティセ… 捕虜たちに『向こうから捕虜は要らん』と言われたと嘘を付くのだな?

 そして『どちらの兵士』か尋ねるのだったな?」


「はい、そうです 殆どは【ヴァルガウス】で少しだけ【モワベモタナ】な筈よ」


「よし、では聞くとするか」


 ノアは、凡そ1500人余りの捕虜に対して、質問を投げかけた


「此度の戦闘で、こちらは多大な被害を被った訳である

 責任の所在は『オルキニース』と、王国を裏切った『マイヤーズ卿』であると、

 私は考えておる

 それでな、お主たちの『身代金』と、被害の『賠償金』を奴らに求めたのだがな、

『そんな捕虜などは知らないし要らない』と返答してきたのだ・・・

 お主たちも気の毒であるな… 私も同情する・・・

 どのような経緯があったか、私には分からないが、命令のままに動いたのであろう

 しかし、お主たちが金銭の代わりにならないのであれば、

 このままこちらに置いていても、仕方なかろう


 皆の食事を用意させているので、それを食べたら早々に立ち去るが良い

 お主たちは何れもどこの兵士であるか、教えて欲しい

 帰りは魔物もいるだろうからな、集団で帰るのが安全であるからな

 それではどこの所属かで分かれてみてくれ」


 ノアの合図で、捕虜たちはどの勢力の兵士か判明した


【モワベモタナ】の兵士が273名

 それ以外は全て『マイヤーズ卿』の兵士だった


 ティセが耳打ちをし、頷くノア


「【モワベモタナ】の兵士諸君、もう少しで食事ができるので、

 西門そばの広場に移動してもらう グレーイズ、皆の誘導を頼む」


「はっ!」


【モワベモタナ】の兵士273名は、西門そばの広場に移動した

 ノアも続いてこちらに来た


「【モワベモタナ】の兵士諸君、私は泡沫国【ハルヨシ村】領領主ノア男爵だ

 皆に伝えたい事があって、こちらに移動してもらった

 グレーイズ、皆を縛る糸を切ってやれ!」


「はっ!」


【モワベモタナ】の兵士たちは、拘束を解かれた


「皆に伝えたい事とは、この王都の領民全て『オルキニース』へ

 連れて行かれてしまったのだ…

 お主たちは元々、王都直轄地の兵士であろう

 それが『マイヤーズ卿』の軍に落とされ、利用されてるだけであるからな

『オルキニース』の王は、魔物だそうだ

 その魔物たちに、王都の領民は連れて行かれてしまった

 なので順序を、よくよく考えて欲しい

『オルキニース』はお主たちを使って、王都の者を連れて行った

 その次は【ヴァルガウス】で、その次は【モワベモタナ】なのは明白である

 我々は近い内に『オルキニース』は元より、【ヴァルガウス】【モワベモタナ】

 にも攻撃を加える

 お主たちが負けた部隊でな

 ただ、協力してくれるならば、こちらとしてはもの凄く助かる

 家族が残っている者もいるであろう、友人や知人も仲の良い者も沢山居るであろう

 そんな者たちを連れて、こちら《王都》に逃げて来てはくれないだろうか?

 こちらの陣営に加わるならば、兵士でも農民でも… 例え奴隷でも受け入れよう

 なので皆を誘って、こちらに避難してくれ

 勿論【モワベモタナ】に残る事は自由だが、その場合命の保証は無いのでな・・・

 それだけを頭に入れてくれ それでは食事はもう少し待ってくれ

 食べたら自由に帰ってくれて構わない 以上だ!」


 

 ノアとティセは、再びギルド前の捕虜の前に向かう

 向かう途中で、やり取りの確認を済ます


「皆の者、今一度聞いて欲しい 先ほども言った通りだが、

 責任の所在は『マイヤーズ卿』にあると思っている

 そんなお主たちを、『オルキニース』の王は『要らない』と申した訳だが・・・

 だがな… 幸せな私たちの生活を脅かす『不埒な者たち』は、私も要らない!

 お主たちを、そこにいる鬼たちの食事にしようかと思ったのだが、

 こちらに居らせられる『聖女様』に咎められてな、それは止める事にした

 ※ノアの勝手なアドリブ

 ここ王都の領民たちは、『オルキニース』と『マイヤーズ卿』に、

 連れて行かれてしまったのだ・・・

 噂では、『オルキニース』の者たちの『養分』にされたそうだ・・・

 とても恐ろしく、やるせない気持ちである…

 お主たちを帰すのは良いのだが、【ヴァルガウス】の領民たちもその内、

『オルキニース』の魔物たちの食事になってしまうのだから・・・

 こんなに悲しい事はない!

 悪い事は言わない! 逃げてくるなら、助けを求めるなら、私は手を貸そう!

 残してきた家族 友人知人、皆を誘って王都へ急いで来てくれ!

 何人でも受け入れる 兵士は勿論、王都で好きな商売を始めるのも良いだろう!

【ヴァルガウス】の領民が、少しでも多く助かる事を、皆には考えて欲しい

 だが、『マイヤーズ卿』と共にと覚悟を持つ者は、【ヴァルガウス】に残るが良い

 そうなった場合は、私も手を抜く事はできないのでな・・・

 近い内に兵を出す お主たちが負けて捕らわれた軍団だ!

 良く考えて結論を出すが良い! それでは食事まで少々待たれよ!

 アズディニ、こちらへ」


「はっ!」


 ノアは小声で話す


「アズディニ、捕虜は1200人以上いる 鬼たちの警戒も緩めずに監視せよ

 ただ、拘束は解いてやれ 反抗するなら殺しても構わん」


「はっ!」


 それから2時間ほど経過した頃、食事が振る舞われた


 ギルドの職員がティセを尋ねてきた


「先ほどの依頼物は、出来上がってる頃合いでございますよ」


「あぁ… そうだった、ありがとう!」


 2人でギルドに向かう


「出来上がったようですね!」


「ありがとうございます! ほんと!綺麗にできてる!?」


 

 王都から近い場所に位置する【モワベモタナ】の兵士たちを先に開放する

 西門広場の捕虜たちを見張るグレーイズに、話しかける一団が来た


「あの… お話よろしいでしょうか?」


「どうしたのだ?」


「ここに居る私共は、皆独り身でして… 近しい者も財もございません…

 戻っても何も無いので… こちらで働ければと思いまして・・・」


「何名おるのだ?」


「・・・18名でございます」


「そうか! ノア様も喜ばれるであろう!

 では、他の者が王都を出るまで、暫し待たれよ!」


「はい!畏まりました!」


 西門広場にいた『捕虜』273名の内255人は、王都を出た

 グレーイズは監視用の鬼と、残った18名と共にノアの居る南門へ向かった


「ノア様、西門の捕虜 解放が完了致しました

 この者たちは、自らの意思でここに留まると決意したとの事でございます」


「そうか、グレーイズ… 苦労であった! ここの鬼たちを纏めに居る、地上部隊の者たちに引き渡し、鬼たちに食事を摂らせよと伝えてくれ

 そしてお前も食事を摂ったら、今日は休んでくれ! ありがとう!」


「はっ!それでは鬼を纏めます 失礼します!」


「おぉ、しっかり休んでくれ!」



 その頃、『グラ・ディオルカ』王都:グランドール 国王:スナイデル三世


「何だと!? 【レビド】ごときが落とせなかったと・・・」


「はっ! 我が方は【レビド】を完全に包囲したそうですが…

 その拍子に運悪く魔物が多数現れたようで、為す術がなく一方的に蹴散らされたと

 の事でございます・・・」


「それでは【トーラ】まで進軍できなかったのか?」


「左様でございます…」


「何と悪運の強い奴等だ・・・ 10日以内に戦力を整え【レビド】へ向かわせよ…

 がら空きの【トーラ】は、御主人が来るのを待っているのでな・・・」


「はっ! 畏まりました!」



 次回 第51話 王都編『複製』

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