第31話_役割

 息を切らしている生徒会メンバーで2年の美馬が足を止めた。

 「伊藤、和久井さんを見つけたぞ」

 「え?」と涼介は美馬の方に顔を向け、足を止めた。

 「このあたりの地図を出せるか?」

 いつの間にか美馬の目元から後頭部にかけて、顔の上半分が黄色いマスクのようなものに覆われていた。目元は塞がれ、代わりに額の部分に、手書きで雑に書かれたような大きな目があった。

 美馬のアニマ「千里眼」が顕現していた。


 美馬は涼介の方に顔を向けることなく、手書きの大きな目で、遠くまっすぐ見ているように見える。

 涼介は顔を近づけ、美馬の顔をまじまじと見る。

 目は見えているのか?

 涼介は美馬の顔を覗き込もうとした時、「伊藤、地図は準備できたか?」と言われ、慌ててスマホを取り出し、地図アプリを開いた。

 「美馬先輩、地図アプリ開きました」

 「よし。この方向にまっすぐ行った先にスーパーはあるか?駐車場の広いスーパーだ」

 涼介は手元の地図を動かした。すぐにスーパーを見つけた。確か、このスーパーは、田舎特有の駐車場が必要以上に広いスーパーだったはずである。

 「そこの駐車場の隅っこだ。店舗から一番離れているところ。そこに黒色のワンボックスがある。和久井さん、車の中に押し込まれそうだ」

 「え?めっちゃヤバくないですか?」

 「ああ、めっちゃヤバいな……おい、お前の感想なんていらないんだよ。さっさと地図をみんなに送れ」

 涼介は地図アプリでその駐車場に印をつけ、生徒会メンバーのメッセージグループに送信した。


 すぐに、美馬以外の全員の既読が付いた。


 「既読になったか?」

 「はい」

 美馬は大きく息を吐きながら「もう大丈夫だろう」とアニマの顕現を解いた。アニマに締め付けられていたのか、顔の上半分が赤くなっていた。境目もくっきり出ていて……笑える。

 涼介はバレないように顔を背け、思いっきり咳ばらいをするふりして……噴き出すのをこらえた。

 「どうした?」と美馬がこちらに顔を向ける。

 涼介は奥歯を食いしばり「大丈夫です」と返事をした。

 涼介は、美馬の方を見るふりをしながら「急ぎましょう」と言うが、美馬は首を横に振った。

 「伊藤、言ったよな?オレは戦えない。だから、オレができるのはここまでだ。オレの役割は見ること。それだけだ」

 そう言いながらも、美馬はスーパーがある方向に向かって歩き始めた。

 涼介は、美馬の斜め後ろをついて行く。

 美馬は振り返ることなく「この後は世良か、久原がどうにかするだろう」と言った。

 美馬にとっても世良と久原は先輩のはずなのだが、呼び捨てにするところが美馬っぽい。涼介への態度も相まって美馬の人物像が固まってきた。



 美馬のゆっくりした歩調に追いつきそうになる涼介。並ぶと笑ってしまう可能性があるので、その距離に注意しながら歩いていると、ふと美馬が言った。

 「久原と和久井さんは付き合っているのか?前の襲撃の時は久原が助けたと聞いた。今日は日曜日の朝なのに、襲撃に気付いたのは久原だから……」

 「付き合っているっていうのは聞いたことないですが……ペアだからでしょ?」

 「ペアだからって?俺と伊藤が一緒にいるのは今日が初めてだろ?あのペア決めから何日経ってる?ぺアだったとしても、こんなものだろ」

 今日が初めてになったのは、お前が無視するからだろ。

 涼介の頭の中でよぎった。が、せっかく釣り上げた美馬の機嫌を損なうわけにはいかない。釣り上げるために、5万円の借金を負ったのだから。

 だが、美馬が言う通りお昼の時間に近い時間帯とはいえ、日曜日に久原が和久井といたということは、何かありそうだ。かといって、久原を茶化すと後が怖いので……涼介は、後で星太に聞くことにした。



 涼介と美馬は目的のスーパーに着いた。

 メッセージ送信して10分ほど経っていた。

 スーパーの駐車場に行くと、美馬が言っていた黒いワンボックスはすぐに見つかった。ワンボックスの近くに人影が3つ。

 そこに近づくと、泣いている和久井と抱きしめる生徒会会長の木下。副会長の世良はその近くでワンボックスの方に視線を向けていた。

 ワンボックスのスライドドアが開いており、車内を覗くのと同時に、久原がワンボックスから出てきた。


 「美馬、涼介よくやった」と久原が白い歯を見せた。

 久原がワンボックスから離れると、その後部座席には横に倒れている中年の男の姿があった。動く気配はなかった。

 久原がこの中年のアニマを喰ったのが分かる。久原のアニマが暴れている気配がした。

 世良が「熱中症か……」と言い、その言葉に木下が頷きながら「熱中症ね」と言った。そういうことにしようというやり取りであった。

 「前回、会長が対応したので、今回は私が対応する」

 「そうね。また、私が対応すると怪しまれてもいけないからね。世良君お願い」

 世良は頷いた。その後、世良の視線が動いた。

 「会長」と呼ぶ世良の言葉に、木下がその視線を追った。


 その先に、上田と星太の姿があった。


 上田がこちらに駆け寄り、その後ろに続く星太は服が少し破れているうえに、擦り傷程度のけがを負っていた。

 「何があった?」と世良が声をかける。

 涼介は美馬の方を見た。美馬は首を横に振りながら「見たいと思わないものは見えないと言っただろ?」と鼻をふんと鳴らした。

 上田の話によると、ここに向っている途中で、3人のコロッセオ参加者と思われる人に襲われたとのこと。帽子を深くかぶっており、顔は見えなかった。星太は上田をかばいつつこちらへ向かい、駐車場に到着する少し手前で、3人は追いかけてくるのをあきらめたとのことであった。


 「狙われたわね。もしかすると、生徒会メンバーがコロッセオをに参加しているのがバレたのかもしれない」と木下が大きく息を吐いた。

 「どちらにしても、この場を離れましょう。世良くん、お願いね」

 木下の言葉に「ああ、分かった」と世良が頷き、スーパーの

方へ向かった。

 「それじゃあ、みんな行きましょう」

 木下の誘導で、その場を離れた。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生


・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。

・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生。同級生

・池下美咲:高校1年生。同級生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬龍之介(千里眼):生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査

・古賀星太(ベルゼブブ):高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・斎藤真一:スカウトマン・テタルトス。崎山高校生徒会顧問

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス



■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生

・火神直樹:赤髪

・藤田一郎:黒髪パーマメガネ

・桜井敏弥:桜井千沙の弟。中学生



■特殊武装部隊(十二神将)

・日高司:特殊武装部隊隊長

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・花村美咲:特殊武装部隊隊員

・伊藤康介:特殊武装部隊隊員、伊藤涼介の兄

・岡田紗弥:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身

・鈴木翔:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・名前不明:特殊武装部隊隊員

・野崎文雄:特殊武装部隊隊員、エンジニア

・名前不明:特殊武装部隊隊員、アメリカ出身、エンジニア

・イシャ・ラナウト:特殊武装部隊隊員、インド出身、エンジニア


■不明

・水野七海:日本刀を持つ女

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