第17話_見つける者(田中一成2)

 田中一成は、偶然会った鳴海玲奈と連絡先を交換し、後日会う約束をした。

 次の日の早朝、鳴海からメッセンジャーアプリでメッセージが届いた。

 田中はまだ起きる時間ではなかったが、すっと顔をあげ、スマホに手を伸ばした。そのメッセージを見たいという衝動が抑えられなかった。



 「2人っきりでいる時は玲奈。それ以外は、スカウトマン・デウテロスと呼んでね」


 田中は「わかったよ、玲奈さん」とすぐに返信した。返信が完了した自分のメッセージを何度も見返した。『玲奈』と自分が入力した文字を何度も見返した。

 その後しばらくしてから、すぐに鳴海から「次会う時、楽しみね」とメッセージが返ってきた。



 その後、予備校に向かうが勉強が手につかなかった。田中は休み時間のたびにスマホをチェックする。必ず鳴海からメッセージが入っていて、すぐに返信した。

 授業中、ポケットに入れているスマホが振動する。スマホを触るのは禁止なのだが、その禁止を飛び越えたくなる衝動を、歯を食いしばってこらえた。

 休み時間が待ち遠しい。授業が無駄な時間にさえ思えた。



 数日後。約束の日、約束の場所で田中は鳴海の姿を見つけた。

 「田中君」と鳴海は手を振った。

 玲奈……と呼びたかった。だが、呼べなかった。メッセージでは呼べるのに。

 「鳴海……さん」と手を振り返した。

 近づいてきた鳴海は「玲奈でいいよ」と優しい笑みを浮かべた。

 「田中君、行こうか」

 「どこへ?」

 「力を手に入れに行きましょう」と言われ、田中は手を引かれた。



 「ここって……」

 田中は、目の前に独特の派手さをもつ看板があるビルの前に立っていた

 「……ホテルよ」

 鳴海の言葉に、田中は唾を飲み込んだ。

 「あ、田中君、意外とエッチだね」と言われ、さらに鳴海に手を引かれ、部屋に入っていった。



 鳴海はホテルの大きなベッドの上にジュラルミンケースを置いた。

 「田中君。今日はおあずけだよ。前にも言ったように今日は田中君に力を渡すのが目的だからね」

 鳴海はジュラルミンケースを開けた。その中には、卵が入っていた。


 その後、田中は鳴海に言われるまま血液を採取され、ジュラルミンケースに入っていた卵に血液を垂らした。その後、ホテルの部屋が少し白くなるほど湯気が出たかと思うと、その中心からタコのようなものが見えてきた。

 鳴海は田中の横にぴったりとくっつき「田中君、このタコを食べて」と耳のそばでささやいた。

 田中は鳴海に言われるまま、そのタコのようなものを噛んではちぎり、噛んではちぎって食べ、すべてを飲み込んだ。



 その後、鳴海と別れた後くらいから、田中の視界が大きくゆがみ始めた。ひどいめまいと、高熱にうなされることになった。

 病院で診察を受けたが原因不明。数日間、高熱をうなされることになったが、やがて、熱が下がった。その後、嘘のように視界が晴れた。視界が広く、世界が明るくなった。




 翌日、鳴海からコロッセオというゲームに参加することと、アニマという魂に宿った魔物について説明を聞いた。まるで、ラノベの世界のような話だが、鳴海の言葉はなぜか信じることができた。それに、自分の中でそれを感じることもできた。その後、数日間をかけて鳴海からそのアニマの扱いを教わった。



さらに日が進んだ。

 「田中君、そろそろ実践練習をしよっか」と鳴海は笑った。その笑顔は、田中のすべての嫌な気持ちを忘れさせる。なんでもできそうな気持にさせてくれる。

 鳴海に腕をひかれ、田中は市内のショッピングモールに入った。

 平日なので、客はまばらだった。鳴海は迷うことなく店内を進んで行った先で指を指した。その先には田中より少し年上の女性が歩いていた。

 田中の肚の奥の方でぬるぬるとうごめく。鳴海にアニマの制御の方法は習ってはいる。が、抑えられない。それでも衝動を抑えようとお腹を強く押さえた。

 鳴海が「大丈夫?初めてだから、制御しきれないのは仕方ないわ。それよりも、この感覚を覚えていてね。アニマ同士が近づくとこうなっちゃうから」と田中の背中をポンと叩いた。

 「さあ、喰っちゃおう」


 鳴海は視線の先の女との距離を取ったまま尾行した。田中もそれに続く。

 女性はショッピングモール内を複雑に移動し、出口付近にさしかかると、飛び出すように外に出て走り始めた。

 おそらく、女のアニマも騒いでいるのだろう。こちらのことは気付かれている。

 田中は追いかけた。女の足が速いのか、アニマの能力なのかはわからないが、追いかけても、追いかけても、前を走る女との距離が縮められなかった。

 田中の息が上がる。限界に近かった。

 だが、視界の先で鳴海が立っているのが見えた。目の前の女を追いかけるのに夢中で、鳴海が離れていたのに気づいていなかった。女が鳴海の横を通り過ぎようとした時に、わざとらしく鳴海が「えいっ」とその女を突き飛ばした。

女はその通り沿いなる小さな公園の方へ押し込まれる形となり、その場で転んだ。

 田中は女に駆け寄り、馬乗りになった。女は抵抗しようとしたが、田中はその女の両手を掴み、そのあとすぐに鳴海が駆け寄りその女の足を抑え、女は完全に身動きが取れない状態となった。

 抑えられていた女はアニマを顕現した。が、田中はすぐにその女のアニマを制し、それを喰った。


 激しい吐き気と共に、興奮を覚える。

 感じたことのない高揚感。

 鳴海は「おめでとう」と笑顔を見せた。

 そのまま鳴海は田中の耳元に口を近づけ、小声で話しかけた。

 田中は鳴海のその申し出を断る理由なんてなかった。

 田中は鳴海に連れられて、街中へと消えていった。




 数日後。

 「ねえ、田中君。見つかった?」

 鳴海は、田中のスマホの画面をのぞき込んだ。

 「へぇ。この子なんだ」と頷いた。

 田中の目には、高校時代に自分をいじめていたやつらのリーダーの写真が映っていた。SNSのアカウントを見つけた。そのアカウントをたどり、その仲間の3人のアカウントも容易に見つけることができた。


 幸せそうなそれぞれ4人がアップされていた。

 田中は、そのくだらない投稿を読み続けていた。

 その中の1つで、目にひっかかったものがあった。

 田中は無意識のうちに声が漏れていた


 「4人とも夏祭りに行くのか。そうか、そうか……楽しみだよなぁ。楽しいだろうな、きっと」

 田中は、自身のカレンダーアプリに夏祭りの日付を登録した。



 「8月4日。楽しいだろうなぁ」

 田中は笑う。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・鳴海玲奈:スカウトマン・デウテロス。社員。

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■コロッセオ参加者

・田中一成:予備校生


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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