Crazy about you

@migimi

彼女 

「うげ…!」

 ゲームのコントローラーを操作する彼女が、可愛らしい顔に似つかわしくない声を出す。どうやら俺のキャラクターに妨害を仕掛けようとして失敗したようだ。

 ソファに座った俺の膝の間で、小柄な体をさらに小さく丸めて座る姿が、可愛い。

 彼女は同じ会社の、一つ上の先輩。そして、俺の恋人。

「あ~!」

 俺の操作するキャラクターがゴールすると、彼女が声を上げた。

「俺の勝ち」

「くっ…!」

 本気で悔しがる彼女の姿に、顔が緩む。緩んだ顔を見られると「ちょっと勝ったくらいで!」と怒られるのが分かっているので、気付かれないように、上を向いた。

 

 入社試験の日。受験者の控え室から面接会場まで案内してくれた女性社員。それが彼女。

「 小さい。そして、可愛い」

が第一印象だった。

 面接で緊張する俺と目が合うと、唇が動いた。声はなかったけど、それが「ガンバッテ」だと気付いたとき、もう、落ちていたんだと思う。

 無事に内定通知が届き、第一志望の会社に入ることができる嬉しさと

(また、会える…)

という、期待が膨らんだ。


 入社して、顔見知りになって、仕事仲間になって…。顔を合わせれば話したり、同世代の数人と一緒に飲んだりするくらいには親しくなった。

 事務処理が早いとか、いつものど飴を持ち歩いているとか、少し彼女のことを知った。よく食べるとか、酒が強いとか、意外な面も知った。知れば知るほど目が離せなくなった。 

「ちっちゃくて、かわいいよな」

「うん、優しいし、気が利くし…」

 俺の他にも、彼女を狙っているやつはいっぱいいた。

  

「可愛いよね。彼氏いるの?」

 ある日の飲み会で、同じ課の先輩が、彼女に声をかけた。少し離れた席にいた俺から見ても、先輩は、結構酔っていることがわかった。

「え…いない、です」

 彼女が苦笑いで返す。

 周囲の男たちが色めき立った。先輩は彼女に近付き、肩をくっつけながら

「じゃ、オレ、立候補しようかな~?」

と迫る。

「あはは…」

「いやいや、マジで。ちっちゃくて可愛いな~、って前から思ってたんだよね~」

「え~と…」

「やめなって…」

 近くにいた女性社員が窘めるが、酔って気が大きくなっている先輩は止まらない。イラついた。

「じゃ、俺も」

 気付いたときには、二人の間に割り込んでいた。

「立候補します」

 先輩は、特に気にする素振りもなく、今度は俺に肩を付けて、

「な~、ちっちゃくて、かわいいもんなぁ~?」と、へらへらしている。先輩の言い方にもイラついていた俺は、先輩の方を向いて、

「『小さいから』可愛いみたいな言い方やめてもらっていいですか…?ちっちゃかろうがそうでなかろうが、彼女、可愛いんで」

 その場が静まり返った。

 

(俺も、かなり酔ってたんだろうな…)

 あの時のことを思い出すと、顔が熱くなる。

 先輩を窘めた女性社員が、

「優勝」

と、俺の手を掴んで高く掲げ、他の女性社員は頷きつつ拍手していた。

 そしてそのまま、

「あとは、お二人で」

と、会場から出されてしまった。

「…帰りますか」

「うん…」

 駅までの道を歩きながら、改めて彼女に伝えた。

「えっと…本気です、俺」

「…嬉しい。お願いします…」

「!」

 そして、今に至る。


「う~、もっかい!」

「はいよ。コースは?」

「そのまま!」

 この後何度か勝負し、勝ち負け半々くらいだったが、彼女は不満気でコントローラーを手放す気はなさそうだった。どうやら俺をコテンパンにしないと気がすまないらしい。

(意外と負けず嫌いなんだよな…)

 付き合うようになってからも、彼女の新しい面を見つけて、ドキッとすることがある。負けず嫌いな面もそうだ。

 俺は静かにコントローラーを置いた。

「もう一か…お?」

 彼女を後ろから抱きしめる。

(「お?」って…)

 色気のない声に、また顔が緩む。

 こういう雰囲気に、全く慣れていないっていうのも付き合うようになってから知った。彼女の反応が面白くて、おかしくて、そして

「今日も可愛いな…」

 耳元で囁けば、彼女の頬が、首が赤く、熱くなる。俺の方は顔が緩みっぱなしだ。

「こうやってすっぽりおさまるサイズ感とか、やわらかい髪とか、俺シャツ着てるとことか、たまんないんだけど…」

「~~~!」

「もう、ゲームはおしまい。はい」

「わ…」

 抱き上げて膝に乗せる。いつも思う。何でこんなに軽いんだろう。

「…や、休まなくて、いいの?」

 仕事が立て込んでいて、彼女とここ二週間ろくに会えなかった。気遣ってくれるのはありがたいが、休むくらいなら、彼女に一秒でも長く触りたい。

 同じ会社なのに、外回りや出張が多かったせいで、偶然顔を合わせるといったこともなかったし。

(いっぱい触りたい。全身で感じたい。感じさせたい。声、聞きたい)

「ん、全然大丈夫…それより、充電」

 彼女の肩に顔を埋めるように、首筋に唇を寄せる。前に会ったときの俺の痕跡は、もうどこにも見当たらない。

「ひゃん…ひゃ…」

(可愛い声…)

 それが聞きたくて、チュッとわざと音を立てながら、耳たぶや首筋、肩に何度もくちづけ、 新しい痕跡を残していく。

 仕事が忙しいのはありがたいことでもある。しかし、彼女に触れない日が続くのは、

「つらい…」

 再び彼女の肩に顔を埋めて思わず呟くと、彼女が、そっと俺の頬に手を添えた。顔をあげると、ちゅっと唇が触れ、恥ずかしそうに微笑んでいる。

「その顔は反則…」

「ひゃ、あ…」

 胸元に手を伸ばす。柔らかい感触を、てのひらで包み込む。

 すくいあげたときの質量と彼女の肩越しに見える豊かな膨らみに興奮する。

「エロい…」

「!…言わないで…あん…」

 そのまま手のひらでこねるように感触を楽しんで、また、首筋に吸い付いた。「俺のもの」という印をつけていく。

「あ、あん…」

 彼女の声が、吐息が、徐々に甘く、切なくなっていく。

(さっきまで、「うげっ」とか言ってたのに…)

「可愛いすぎる…」

 シャツで隠れた白い太ももにも手を伸ばす。

「…ん、ん」 

 内側をなぞるようにして這い上がる。足の付け根、中心が、しっとりとして温かい。

 一枚布を隔てたそこに指を這わせると、彼女が体をピクッと震わせた。

「ん…」

 付き合うことができた嬉しさから、あまり慣れていない彼女の「いいところ」を、貪欲に探った。だからたぶん、もう全部知っている。布越しでも、見つけられるくらいに。指先でつついたり、弾いたり、その度に彼女が恥じらって、体をピクリとさせる姿が愛らしい。焦らそうと直接触れずにいたが、もどかしさを感じているのは俺の方で…。

「きゃっ…」

「ダメだ、ベッドに行こう」

 リビングではここまで。彼女を横抱きにして立ち上がる。彼女が俺の首に腕を回してきた。顔を見られるのが恥ずかしいのか、俺の肩に顔を埋める。

「可愛い…」

「………や」

 そのまま首を横に振るからくすぐったい。

(思う存分彼女を堪能したい)

 休日前夜。しかも、二週間会えなかったのだ。今までの経験から、今夜これから自分がどうなるか、彼女も覚悟を決めたらしい。顔を上げ、俺の首に両腕を絡ませると耳元にくちびるを寄せる。

「…いっぱい、愛して…」

 彼女からの、甘い不意打ちに踞りそうになりつつ、なんとか持ちこたえる。もう、余裕なんてなかったが、彼女をベッドに優しく下ろすと、俺は自分のTシャツを脱ぎ捨て、彼女を組み敷くように、ベッドに乗り上げた。

「…優しくできない、かも…」

「いいよ、好きにして……ん」

 深く深くくちづける。今夜は久しぶりで…。大好きな、可愛い彼女を前に、もう昂りが押さえられない。

「愛してる…」

「ん、んん…あ、あぁ…!」

 体中に、唇に、敏感なところに、たくさん触れ、くちづけしていく。抱きしめて、つながって…。もっともっと触れたくてたまらない。

(まだまだ足りない…)

 彼女を俺で、俺を彼女で満たしたい。溢れてしまうまで、繰り返し愛し合いたい…。

(もう、彼女に夢中…)



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