自称ヒーロー

桜 桜餅

第1話 結成ヒーローチーム??

「よしっ、できた!」


 大学一年の夏、俺は一人山奥のプレハブ小屋に来ていた。

 耳の奥に蝉の鳴き声がこびりつき、あふれ出た汗のせいで若干臭う...風呂に入りたい。しかしこの後ここには人が来る予定だ。別日にすればよかったと後悔しながら辺りを見回した。


 プレハブ小屋だから多少は汚さはありつつも、蜘蛛の巣やらは取っ払い普通に生活ぐらいにはなっていた。中古屋で買いそろえた家具のおかげで家として機能するぐらいにはなっているのではないだろうか。めっちゃ暑いけどね!!我ながら最高の出来だと自画自賛してしまう。


 これで俺のヒーロー生活は幕を開ける。口だけじゃない。みんなを守る存在に、笑って助ける人間になるんだ。今日から俺はこの街のヒーローとしてみんなを、この街を守るんだ。そんな感じで決心していると外から足音が近づいてきていた。


「確かここだよね」


懐かしいようで昔とは違う女性の声が聞こえてきた。すぐに男が肯定する。こっちもまた懐かしいようで変わってしまった声が聞こえた。懐かしさを覚えながらブレハブ小屋の扉を思いっきり開けた。


「ようこそ我が秘密基地へ!!」


扉を開けると見るからに不機嫌な男女が立っていた。久しぶりの再会だというのにそんな顔をするのはいかがなものかと思うが、そんなことはどうだっていい。何より二人に会えたことが嬉しかった。


「二人ともひさしぶり。」


部屋に入り俺がそういうと少し間を開けて二人も久しぶりと返してくる。

その声は思ってたよりも怒りの念が含まれていた。


「太陽...久しぶりの再会だとは言え、なんでこんな暑い日に呼び出すのよ!!」


そう怒鳴った青葉日花里あおばひかりの横で浅黄裕也あさぎゆうやは全く持ってその通りだと言わんばかりにヘドバン並みに首を縦に振っていた。


「まぁまぁそんな怒るなって...見た目は変わっても中身は変わってなくて安心した」


にかっと笑って見せると、ヘドバン男も昔は乱暴だったんもんなと口を挟んだ。

しかし本人は昔からお淑やかな優等生だと反論してきた。一体どこがお淑やかなんだろうかと思ったが口には出さなかった。


「なるほど今はそういう設定なんだな。」


煽り口調でもなくポツンと言いやがった。やはりこの男馬鹿なのかもしれない。


「設定じゃない!昔から!!」


こうなるとめんどくさい。ただでさえ暑いこの空間が二人の声によってさらに蒸し返す。やれぶったたかれただの、あんたがこういったからだの、二人の口論はヒートアップしていった。・・・なんか頭痛い。


「あの時が一番楽しかったからな。」


ふと裕也が口を開いた。なにか懐かしむような、悲しいような。プレハブ小屋に沈黙が流れる。さっきまで聞こえなかった蝉の声がまた響き渡った。この空気が嫌いだ。


「何を言っている。またこうして集まれたではないか。」


先の事を考えようと一言言い放った。二人ははっとしたようにこちらを見てきたが、また何事もなかったかのようにさっきまでの顔に戻った。きっと気を使わせてしまったのだろう。


「それはそうと。なんで私たち呼ばれたのよ。」


気を取り直し、俺は本題に入ることにした。


「ふっふふ、俺たちでヒーローやろうぜ!」

「は?」


二人の声は見事にハモった。顔を見合わせて互いに不服そうにしていたがすぐに困惑の顔に変わった。そして俺は再度ヒーローという言葉を口にした。


「聞こえてるわよ。どういうことなの?」

「俺たちで部隊を作り、ヒーローとして人助けをするんだ!」

「なんか男心くすぐられるな。それ。」


流石は裕也だ。やはりヒーローは男の憧れであり、ロマン!!誰しもが一度は夢見たそんな存在。仮面を被った改造人間、カラフルな五人組、白黒の中学生。今でも子供たちに夢と希望を届ける。それがヒーロー!!そんなのなりたくないにんげんなどいな...


「あんたたち久しぶりに会って変わったなって思ってたけど根本的なところは全然変わってないのね。大学生にもなって馬鹿じゃないの?」


いた。めっちゃ身近にいた。なんなら一緒にヒーローやろうとしてた人の中にいた。


「大学生いいんじゃないか。人生の中で一番自由にできる時間。どうせお前ら暇なんだろ。恋人もいないし。」

「まぁそうだけど、って一言余計よ。そういうあんたは?」

「いると思うか。」

「いや、まったく。」

「即答なのね!」


流石というべきかツッコミの切れだった。逆にここまでスパッと入れると先の言葉を予見していたのかと思わされるが...日花里ならあり得るか。

すると裕也が口を開いた。


「大学生か。なんかいいな。」

「どうした、お前も大学生だろ?」

「いや、俺違うけど。」

「え、なんかごめん。ってかそれならこんなところにいないで受験勉強しなさいよ。」

「待て待て。なんで俺が大学落ちた前提で話を進めるんだよ。」

「何だ?違うのか。」

「仮に落ちてたとしてら、ここにきてねぇよ。」

「確かに、じゃあなんだ?専門学校か?就職?」

「あぁ芸人だよ。」

「芸人!?」

「つってもまだまだ駆け出しの身だけどな。」

「なんか裕也らしいというか。あってるんじゃない?」

「そーいえば昔から言ってたよな。芸人になるって。」

「あぁまあな。ってか覚えてるのかよ。」

「今思い出した。せっかくだし、なにか芸を見せてくれないか?」

「あ!私も見たい!」

「お、おう。仕方ねぇなちゃんと見とけよ。」


そうして裕也は一発芸を始めた。結果として到底夏とは思えないほどに小屋の中が冷えかえった。ただひたすらに沈黙が続いた。日花里が横でフォローしようと口をパクパクさせていたが言葉が見つからず顔を伏せてしまった。


「なぁ感想は?」


その感想を考えている最中なんだが...あたり触りのない台詞を考えていると日花里が口を開いた。


「な、なんかいいね。」


絞り出したかのような声に雑な感想が添えられていた。これが限界だろう。ありがとうと心の中で強く感謝を伝えた。


「なんかって何だよ。つーか全然笑ってくれねぇじゃん。そんなに面白くなかった

か?」

「い、いやそんなことはない。目の前に本物の芸人がいて、つい関心してしまった。」

「いや、どういうことだよ。」


俺にもさっぱりわからない。


「なんかいいわね。成りたいものがしっかりしてるって。」

「なんだよその言い方。日花里だってなんかやりたくて大学行ったんじゃないの

か?」

「全然。・・逆にやりたいことがわからないから取り合えず大学は行っておこうって感じ。」

「なるほどなぁそういうので大学行くでもありだったかもな。太陽はなんか理由とかあんの?」

「俺か?人助けがしたい。っていうのはあるんだが何になればいいのかよくわからなくてな、福祉系なら人のためになれるだろうって、そっちの大学に行った。まぁ別のことが浮かんだらそっちの道に切り替えればいいかなって。」

「あの太陽が、将来の事を考えてる!?ヒーローとか言ってる人が、そんな将来の事考えてるなんて...」


そこまで言われることは無いと思うのだが...仕方ないのでヒーロー活動の説明を始めた。活動内容、給料等色々聞かれたが何も決まっていないと伝えると二人は頭を抱えていた。


「ボランティアかぁ。」

「町の為にさ!!色々世話になったんだし。」

「そうなんだけどね。」


 すると電話の音が鳴り響いた。無事電話線が引けていたことに安堵しつつ意気揚々と赤石太陽おれは受話器を持ち上げた。


「[もしもしこちらヒーロー赤石だ。・・あぁ後藤おばあちゃん。どうした?   

お醤油か分かった。他に必要なものはあるか?・・・わかった今から向かう。いや、気にしなくていい。人間一人じゃ生きていけないんだ。協力だよ協力。あぁまた後でな。]

というわけだ。今から三丁目の後藤おばあちゃんのところに行ってくる。二人は少しくつろいで行ってくれ。加入するかどうか考えておいてくれるとありがたい。じゃあまたな。」


後日二人はボランティアヒーロー活動に協力してくれることになり、その日からヒーローチーム赤石は活動を始めた。


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