第6話 触れるもの

新しい家に引っ越してきてから1か月。

家賃が安いという理由でこの物件に決めてしまったけど、引っ越してきたことを後悔している。というのも"何か"に触られてしまうという少し困った現象に見舞われている。

例えば、朝起きて部屋の電気をつけようとスイッチに手を伸ばした時、夜中目が覚めた時に時間を確認しようとして携帯に手を伸ばした時、トイレから出て電気を消そうとした時など必ず【暗いなかで何かが私の手にそっと触れてくる】のだ。


今日は仕事帰りに夜遅くまで営業しているネイルサロンに寄り、少し浮ついた気分のまま家に帰った。入ってすぐに廊下の照明をつけようとした時にスッと何かが手に触れた。今日は心なしか触れてる時間が長い気がする。ここで変な好奇心が出てしまった私は、何が触れてくるのか、ということが気になってしまい、携帯のライトで電気をつけようとした手を照らそうと考えた。なるべく物音を立てないように、そっとライトを起動させて手元に近づけていくと、そこにあったのは私の手に触れる誰かの指。


私の手、というか爪をなぞるその指先は赤いネイルをしているように見えたが、ライトで照らした薄暗さに目が慣れるにつれて爪が剥がれて血が固まった指先なのだと気づいてしまった。予想しなかったものを目にしてしまって動けなくなってしまったのだが、


「いいなぁ……いいなぁ……」


という生暖かい空気混じりの声が耳元で聞こえ、その声を聞いたと同時に爪をなぞるというよりかは力強くガリガリと削るように触られ、私は我に返ってそのまま家を飛び出して近所のファミレスで一晩明かした。大家さんに話すとすぐ次の部屋を探してくれるとのことで、何があったのか聞きたい気持ちもあったが余計な好奇心を抑えてすぐに引っ越した。

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