40 辺境の村
ここまでの道のりを考えればさほど時間もかからず小さな村にたどり着いた。
こういう辺境の村は丸太を刺しただけの壁に覆われているイメージがあったのだが複数の家の周りに畑が広がっているだけで壁が無い、こんな無防備で大丈夫なのだろうか?
とりあえず問題が起こると悪いのでフォレコ達は準備部屋で待機してもらいクルスとダリアだけ連れて村に近づく。
「何者だ!移住希望者か?」
作り途中の門と壁の前に座っていた男に
「いや、ただの旅人何だが道に迷ってな。街の方角を教えてもらえると助かる。」
「それなら完全に逆方向だ、残念だったな。」
「地図で今どの辺か教えてもらっていいか?森を越えてきたから全く分からなくて。」
「森を?ゴブリン共が巣食っていて大変だったろう。」
「ああ、こっから少し行ったところの巣なら1つ潰したよ。多分この辺だと思うんだけど。」
「ああ、村はここだから合ってるな。最近群れが大きくなってきて街道まで出てきて悪さするから困ってたんだ。」
「なら良かった。ゴブリン共が食料が入った樽やら服やらを持ってたから商人が襲われたらしい。」
「何?その話村長に話してはくれんか、そろそろ来るはずの商人が来ていないんだ。」
「分かった、まあ知ってることは対してないんだけどな。」
門番?さんに案内してもらい畑の間を抜け、密集した家々の中で1番大きな建物に入る。
「村長ー!いるかー客だ―!」
「なんだやっと商人が来たか?」
「いや、旅人だ。商人が襲われたかもしれんらしい。」
「初めまして、ショートと言います。」
「旅人とは珍しい、それでどこで見た?」
家の中から現れたのは50歳ほどのヒゲを生やした痩せた男だった。
焦りからか強く肩を掴み詰め寄ってくる。
「落ち着いて下さい、直接見たわけでは無いんです。
この村の近くにあったゴブリンの巣を倒した時に商人の物と思われる物資を見つけたんです。
荷物や皮紙があるので確認して貰えませんか?」
「む、そうだったかすまん、確認はすぐにしよう荷物は外か?」
「いえ、魔法で仕舞っているんです、ここに出していいですか?」
「ああ、荷物を持っていないと思ったら空間魔法なんて持ってるのかすごいじゃないか。」
「おお、優秀な冒険者なのだな大きい物があるなら外の玄関横に頼む。」
「それじゃちょっと待っててくださいね。」
ゲートの説明をどうしようかと思ったがマジックバックの他にも空間を移動する方法が知られているらしい。
ゲートに入り衣服や食料を出し皮脂や装飾品を渡す。
「やはりうちの村の注文書が混ざっているな、よかったらこれらを売ってもらえないか?」
「いいですよ。俺が持っていても使い道のない物ばかりですし。」
「無くなっている物もあるがこの皮紙に書いてある通り銀貨10枚でどうだ?差額分で一つ依頼を頼みたいのだが。」
「大分こちらが得をする気がしますがいいのですか?依頼を受けるかは内容によりますが。」
「大丈夫だ、依頼は街まで手紙を届けてもらうだけだからな。
それにゴブリンの村の掃討も考えれば安いくらいだよ。」
「なら大丈夫です、この村の後は街へ向かう予定なので。」
「よかった、前金を取って来るから少し待っていてくれ。マシューは戻っていいぞ。」
「はい、それじゃまた。」
皮紙には確かに銀貨10枚と書いてあったのだがそれは衣服、塩、食料、装飾品など様々な物をまとめての値段だ。
俺が回収できたのは衣服と塩、塩漬けの肉で、麦などのゴブリンの食べなそうなものは回収できてない。
数日かかるとはいえ手紙の配達でこれだけの物資を買えるとは思えないんだけどな。
「待たせたね。手紙は今日中に書いておくから今日はこの家に泊まっていくといい。」
「ありがとうございます、こちらでは蕎麦の実は食べられますか?」
「蕎麦?もっと山の方なら作ってるかも知れないけどこの辺は大麦だけだね。」
「なら夕飯で簡単なスープを作らせて下さい、気に入ったら少し蕎麦粉を置いていきますよ。」
「いいのかい?正直食料が足りないから助かるよ。」
「大丈夫です、自分たちの食料くらいなら余裕があるので。」
前金として銀貨3枚をもらい、物資を運ぶのを手伝う。
夕飯に塩漬け肉で出汁を取っただけのスープに蕎麦の団子を入れた物を出すと食べ慣れなそうにしていたが蕎麦粉は受け取ってもらえた。
ほぼ塩味だったが及第点だっただろうか?俺はかなり物足りなかったので次は乾燥野菜でも用意しておこう。
部屋を借りはしたが寝るのは自室に帰ったので寝心地は分からないが、わらに布をかけただけのベットはチクチクとして布のさわり心地も良くはなかった。
翌日は念のため朝6時に起きて借りた部屋で待機する、物音がし始めたのは7時を過ぎた頃だった。
昔の人は日が昇ると同時に動き出すと思っていたがあれは一部の職業の人の話だったのだろうか?
試しに作ってみたという蕎麦のスープをまた食べお礼を言って村を出る。
すでに畑で仕事をしている人はいたが女性は全く見なかった、初期の開発村は男だけで耕してある程度したら嫁のなり手を募集したと聞いたことがあるからこの村はまだ出来たばかりなのかも知れない。
街道を進み門が見えなくなったら待機させていたフォレコ達を呼び出す。
ゴブリン達はダンジョンで狩りをしてもらうが何が起こるか分からないので出来るだけ人数は欲しい。
矢が飛んできて理由もわからず死ぬのは御免だからな。
しばらく進んでいくと壊された馬車の残骸を発見した。
袋が破られて散乱した麦や破壊された木箱の他には目ぼしい物は無く、隷属の首輪が3つ残っていたくらいで骨になっている遺体もそのまま街道を進んだ。
徒歩で半日事に村があり女性もいて2つ先の村には雑貨屋もあった。
こちらに来て4日目にようやく街の壁が見えて来た。
この4日間避けられたのかゴブリンすら現れず暇すぎてただ歩く事しか出来なかった護衛をクルスとダリア、シドー以外は準備部屋に帰してから門へと近づく。
「レオゲンへようこそ、この街へは何の用で?」
「辺境の村から手紙を届けるように言われて来ました。」
「辺境?お前は村人じゃないよな。商人の馬車にもいなかったし何故お前が?」
おそらくこちら側の門を通った者の中に俺達のような者がいなかったのだろう。
装備的にも辺境生まれには見えないだろうし何処から現れたか分からない不審者という所か。
「その商人がゴブリンに襲われたようで、俺はゴブリンを倒した人間ですね。」
「ということはその手紙は衛兵に渡すものか。」
「はい、衛兵と後は商人ギルドへ届けて欲しいと。」
「兵長に渡してくる、少し待て。」
手紙を衛兵に渡してその場で待っていると再び声をかけられる。
「待たせたな、手紙を確認した。通行量1人銅貨5枚を払ったら通っていいぞ。」
「はい、商人ギルドは真っすぐ行けばありますか?」
「ああ、真っすぐ行けば大きな建物に天秤の看板がかかってるよ。」
「ありがとう。」
クルスとダリアを合わせた3人分を支払って門を通るとまばらに屋台が立っている3車線ほどの道を進む。
途中で武器を持った連中が入っていく建物があったので多分あれが冒険者ギルドだろう。
商人ギルドは他の建物より一際大きく4階建ての木造の建物があった。
「いらっしゃいませ、ご要件をどうぞ。」
「辺境の村の村長から手紙を預かりました、確認お願いします。」
「承知いたしました、少々お待ち下さい。」
受付嬢に手紙を渡すとその場で開封して中を確認する。
「なるほど、後はこちら処理いたしますので依頼はこれで完了になります。こちらが依頼料になります、ありがとうございました。」
「分かりました、それでは失礼します。」
特に何も聞かれること無く終わってしまったので拍子抜けしたがこれで銀貨10枚手に入った、中々いい稼ぎだったんじゃないだろうか。
次は冒険者ギルドに登録しに行こう、今回は辺境の村の手紙が身元保証になった様だが次は門を通るのがもっと面倒になるらしいからな。
先程通った道を戻り武器を持った人達が入っていった建物へ向かった。
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