untitled

@rabbit090

第1話

 疲れた、眠った、それで?

 あれ、違ったっけ?

 ちょっととぼけているつもりなんか無かったけれど、でも最近ずっと、心がどこか、違う所に行っているような感覚になることがあった。

 そして、それは。

 「だから君、死ぬんだって。」

 「………。」

 何て言って良いのか分からないけれど、彼女はとても可愛らしい女性だということだけは理解できる。

 しかしその姿は透明で、うっすらと景色と融合していて、不気味だった。

 けど、私はその言葉に妙な納得を覚える。

 「信じられないけど、でも信じられるの。」

 「そうでしょ。」

 「うん、私。最近ずっと、薄れてる。」

 「そう、それ。もうすぐ死ぬ人間に現れる前兆なの、でもこれは、誰にも口外できないようになってる。みんな気付いてないけど、世界ってそういう風に、もっと大きな存在に知性によって、操られているんだから。」

 「へえ。」

 それしか返せない、でも私たちの会話は成り立っていた。

 そして、私は徐々に、自分の感覚がなくなっていく瞬間に、向かっていく。

 「…ごめんね、あなたの体、次は私のモノになるって、決まってるの。」

 薄れゆく意識の中で、彼女の声が響いた。

 私は、でも上手く理解できなくて、それを字面だけ受け取って、消えた。


 「幸子さちこ。」

 「………。」

 「幸子ってば!」

 「ああ、えっと。」

 あれ、なんだろう。上手く体が動かない。

 ここはどこ?私は誰…。

 て、そうだった。

 「おはよう。」

 「おはようー!」

 「ごめん寝てた。もう授業終わった?」

 「もう、寝ないでよ。この前もここの教授に名指しで怒られて、恥ずかしかったんだから。」

 「でもあの人、もう私のこと、諦めてるでしょ?」

 「はあ、幸子ったら。あんたさあ、いい加減にしなよ。卒業できるかどうかも、怪しいんでしょ?」

 「…まあね。」

 そうだ、そうだった。

 私は、幸子だ。

 で、何で忘れていたんだっけ?まあ、いいか。

 それより、大学、卒業できないと困るんだけど、どうしても、私眠くなってしまって、困ってるの。

 「でも後少しだから、頑張る。」

 「うん。」

 そうやって、いつも友人に起こしてもらいながら、手伝ってもらいながら、私は学生生活を今まで、何とか切り抜けてこられた。

 でも、不安が拭えない。このままで、大丈夫なの?

 

 ふとした瞬間、私は何者かに乗っ取られていて、その瞬間にだけ、眠ることができる。この感覚は、子どもの頃から持ち合わせていた。

 そして、今、理解した。

 「ついに、終わったんだね。」

 「終わったって、死んだのよ。」

 「うん、でもあんたに、たくさんの魂が宿ってた。だから、みんなで行こうよ。それは、決めてたことなんだから。」

 「…そうね。」

 私は、は、死んだ。

 みな、際限なく人生を繰り返したのだ。

 そして今、それが終わる。

 ねえ、どうして?

 どうして私たちは、一つではなかったのかな。

 もう、言葉にする必要はない。

 今、私達はたった、一つの箱の中に納まっている。

 だからもう、恐れることなどない。

 

 「もう大丈夫。」

 それは少しだけ静かに、世界に、響き渡っていた。

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