きっと君だけがヒーロー
もみぢ波
プロローグ
第1話
「姫もさ、合同カラオケ行こうよ」
「僕も!?」
自分のことを指さして、あざとく振る舞うのは、ここ
「合同カラオケか……合コン的な?」
「そりゃあそうだろ!!俺らは女に飢えているんだからな!!」
七桜の友達である
「うーん、僕、女の子と相性悪いからな〜」
「だって、お前、そこら辺の女の子より断然可愛いもん。そりゃあ、嫉妬されるだろ」
「えへへ、そう?」
七桜は照れくさそうに笑うが、満更でもない。心底、自分が可愛いことを分かっている。
「でも、男も来るみたいだからさ!友達作りの一環として行こうよ!」
「カラオケ暑ぐるしそう……だけど、豊が行くなら行くよ」
今は7月と言うこともあって尚更だ。しかし、友達からの頼みだ、断ることもできない。
「お前らー!姫も行くって!!」
豊の一声に周りの男も暑苦しい歓喜の声をあげる。
「姫!俺の横座ろうな!?」
「はあ!?姫と座るのは俺なんだけど!?」
これもまた、七桜は苦笑する他なかった。
(本当のお姫様が来るんだから、そっちの隣に座ればいいのに)
七桜はその様子を見て呆れる。ただ、優越感に浸れるこの瞬間がとても好きだ。みんながみんな自分を見ているこの感覚。
七桜と豊がカラオケボックスに入ると、既に相手の高校の生徒も棘日高校の生徒も揃っていた。七桜は空いてる席に腰をかける。
「
「よっ!王子!」
七桜の前に座っている男は誰もが認めるイケメンだった。金髪にセンター分け、そして、何より名前の通り澄んでいる緑色の瞳は何人もの女の子を落としたと言われても疑う余地はない。きっと、掛橋高校内の王子様的立ち位置なのだろう。七桜は確かにイケメンだと澄春の顔を見つめていた。
「ん?どうしたの?」
その様子に気づいた澄春は七桜に問いかける。
「うわぁ!?ごめん、なんでもない!」
七桜は恥ずかしくなって、手で顔を隠すが、それもあざとさ故である。男子校の中で育んできたあざとさは自然のものへと成っていた。
「え、てか、棘日高校って男子校なんだよね?」
その様子を見ていた掛橋高校の女子生徒が当たり前の質問をしてくる。彼女の名前は
「そうだよ。どうかした?」
七桜の隣に座っている豊が受け答えをする。
「豊くんの隣に座ってる……七桜くん?だっけ?めちゃくちゃ可愛いって思ってさ!」
「あぁ、七桜はマジで可愛いよ。こっちでは姫って言われてるし」
「やめてやめて、恥ずかしいから」
豊が誇らしげに話しているのを見て、七桜は止めようとする。男子校内で言われる分には慣れているが、本当のお姫様の前で姫なんて名乗る自信はない。
「七桜くんがライバルだったらマジでやばかった!絶対に澄春のタイプだもん!」
雫はわざとらしく澄春の腕にしがみつきながら騒いでいる。女の子特有の騒ぎ方を久しぶりに感じる七桜であった。
「僕がライバルだなんておこがましいよ。澄春くんには、雫ちゃんがお似合いだよ。それに僕は澄春くんのこと狙ったりしないし」
七桜は愛想笑いでこの場をやり過ごそうとする。七桜にとって誰かに気を使うのは久しぶりだ。
「まじ!?嬉しいこと言ってくれるじゃん!ね!澄春!」
雫が澄春の方を見ると、彼は依然として七桜の方を見つめていた。それも少しニヤリと笑いながら。
「雫、俺は王子なんだよな?」
「うん!そうだね!」
「じゃあ、男、女関係なしに誰でも虜にできるってこと」
澄春はその場で立ち上がり、七桜の唇を指で撫でる。これはやばいと七桜は目をつぶるが、想像していた感触は一向に来ない。何事かと目をゆっくり開けると、そこにはまたまたニヤリと笑っている澄春の姿があった。
「この子、可愛い」
澄春は席についてそう呟く。もちろん、この子とは七桜のことである。
(え、まじで、何なのコイツ……)
七桜はただ呆然するしかなかった。姫と言われているとはいえ、男子同士でこんな色っぽいことをするのは初めてだったからだ。
「澄春って、誰にでも可愛いって言うじゃん」
雫は呆れ気味にブツブツと呟く。ただ、七桜に嫉妬しているようには見えなかった。澄春が七桜に対して本気だとは思わなかったのだろう。
「あ、ちょっと!うちの姫様に手を出すとはいい度胸だな!」
「俺たちだって、姫様に手を出さないように気をつけてるんだぞ!!」
「こっちこそ!王子取らないでよね!!」
「そーだそーだー!!王子はみんなのことを愛してるからこそ、王子なんだからね!!」
茨日高校の生徒が澄春に向かって大ブーイング。そして、掛橋高校の女子生徒は七桜に向かって大ブーイング。七桜はアワアワと慌てているが、それに反して澄春はニヤニヤと笑っているだけだった。相当、自分に自信があるそうだ。しかし、言い争いは終わらない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇ!?僕はその、澄春くんのこと狙うつもりなんてないから!!」
七桜はこの場を何とか抑えようと必死になる。
「ね!澄春くんも僕のこと狙ったりとか考えてないよね!?ね!!」
七桜は肯定しろと念押しするが、澄春は周りを見渡して余裕そうに笑っている。
「俺は、七桜くんもアリかな」
澄春は七桜のことをチラッと見て笑う。
(なんで火に油を注ぐのかな!?)
七桜は澄春の方を軽く睨みつけるが、そんなこともアホらしく感じた。
(澄春くんはめちゃくちゃモテるから、こうやって冗談言って楽しんでるんでしょ)
七桜は呆れる他なかった。顔はかっこいいが、こんな性格では失望してもおかしくないだろう。
「もういい。帰る!」
七桜は我慢できなくなり、豊を引っ張りながら出口に向かった。
「あ、姫ーー!!悪かった!俺らが悪かったよ!!」
「姫の笑顔が1番だよ!!ごめんなー!!」
涙混じりの声がカラオケボックスに飛び交う。七桜も急に申し訳なく感じて、謝ってきた男子生徒の頭を撫でる。
「あ、あの!別に怒ってる訳じゃなくて……!でも、時間だから帰るね、ホントにごめん!」
最後は姫らしく可愛く謝って帰ろうとする。もちろん、豊を連れてだ。
「じゃあね!」
「じゃあ、俺も姫さん連れて帰るわ〜」
七桜と豊が帰ろうとした時、誰かが立ちあがるような気配がする。その気配に気づいた七桜が振り返ると、そこには澄春の姿があった。
「な、何……?」
七桜は先程のことで澄春が怒ったのではないかと思っていた。そのせいか、少し怯えている。すると、澄春は七桜の腕を掴んで、自分の方へと引き寄せる。澄春は七桜の耳に頭を近づけた。
「覚悟しといてよ」
澄春は普段の声より低い声でそう呟いた。七桜は耳に吹きかかる感触に顔が赤くなる。
(は、はぁ!?どういうこと……!?)
七桜がそう問いかけようと思った時には、既に澄春の姿はなく、女の子の群れへと溶け込んでいた。
(覚悟しとけって……遊ばれてるだけだよね)
七桜は澄春の真剣な顔と真剣な声を思い出して、半信半疑になってしまうが、きっと遊ばれているのだと思う。
(見た目で決めつけるのは良くないけど、どう考えても軽そうだし……)
もう澄春と会うこともないので、七桜は考えないようにした。きっと遊ばれているだけだと信じ込んで。
「七桜〜、飲み物買っていかね?」
「いいね!」
七桜と豊は最寄り駅の自販機を前にして、飲み物を買うことにした。
(財布は……え?)
七桜が財布を取ると、そこには見覚えのないカードが差し込まれていた。
「七桜?どうかした?」
「いや、見覚えのないカードが入ってるんだけど……」
七桜はそのカードを取り出して、裏表を確認する。学生証のようだった。
「学生証だ……」
「え、七桜のじゃなくて?」
「うん……上岡 澄春……え!!」
名前欄を見ると、そこには上岡 澄春という名前が刻まれていた。写真の方を凝視しても、澄春であることには間違いない。
「やばい!澄春くんに連絡しなきゃ!」
「連絡先持ってんの?」
「あ!!持ってない!!まだカラオケボックスいるかな!?」
「俺らがいなくなって結構時間経ったし、もういないんじゃ……」
「嘘でしょ……!?」
「明日の放課後届けたら?掛橋高校だったら、棘日高校から徒歩30分くらいで行けるよ」
「それ、結構遠いよ……」(それより、あんなこと言われたのにもう一度会うの気まずい……)
七桜の頭の中で「覚悟しといてよ」という澄春の言葉が響く。
「豊着いてきてよ」
「明日の放課後、委員会あるんだけど」
「ケチィ!!みんな、僕の願いならなんでも叶えてくれるのに!!」
「そんなに人生甘くないぞ〜」
七桜と豊は高校生になる前からの友達である。中学生の頃の七桜は姫的立ち位置ではなかったので、豊も今の扱い方には慣れないのだろう。七桜も豊も棘日高校に通い始めて3年目に突入しているが、関係性は未だに変わらないのだ。
「せいぜい食われないように」
「食われないよっ!!」
七桜は強めに反抗するが、謎の人物である澄春に会いに行くのは憂鬱だった。
(僕、本当に遊ばれてるだけ……だよね?)
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