第11話 試練の後


 試験が終わり1日が経った。あのあとどうなったのかというと、、、


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 「そこまで。」

 次郎坊の鎧を削り切り、【無属性魔法・インパクト】で瀕死に追いやった後、とどめを刺そうとしていたら、声が聞こえた。


 声の方へ振り返るとそこには試験官らしき大男がいた。ホブゴブリンになった今、大男と呼ぶほどではなくなったが、実力の差は歴然である。進化した今だからこそその強さがありありと理解できた。コイツに勝つとなるとあともう一段階の進化が必要だろう。


 「若きホブゴブリンよ、名はあるか。」


 「シルバーだ。」


 生意気なホブゴブリンだと思っているのだろう。


 「回復魔法・エリアヒール」

 俺たちが全員収まるほどの大きな魔方陣が描かれ一瞬輝くと、皆の傷が癒えていた。


 「俺の魔法では体力やMPまでは回復できない。移動できる者は移動できない者を運べ、移動する。」

 

 「そういえばそこのナーガ。この試練を通過した者は種族に関係なく誰であれ、鬼人族の一員となる。だからお前も付いてこい」


 「はい。」

 否応なしに大男の命令に従った。

 

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 生き残りは一つの宿舎に集められた。宿舎というより学校のようなものだという。明日から午前は勉強、午後は修練を行うこととなる。修練というのもこの鬼の里"日の出"からでて狩りを行うようだ。


 今は明日からの学校に向けて、各々準備をしている。あの試験では生存できるような強いものを選別していたらしい。そして、進化することが合格の条件であった。俺はゴンズイと呼ばれていたオークを倒し、進化した。カデル、トゥーラ、ハーミットもあの戦いが終わった後進化した。


 ゴブリンは通常、ホブゴブリン→オーガと進化していく。今俺たちはホブゴブリンなわけだが、第二進化を遂げオーガになるとそれぞれビルドに大きな違いが出るようだ。そのため、オーガになるまでこの学校に通い続ける。その先はどうなるのかわからない。


 俺はもっとこの世界を見てまわりたい。異世界には地球では見られなかった人や物に溢れている。そんな世界にこれたのだから、世界を冒険して見て回りたい。ただ自由にこの世界を回れるくらいの強さは今の俺にはない。だから、比較的安全に強くなれるこの機会は逃すわけにはいかない。もっと強くなったらこの里を出て世界を行脚したいと思う。それまでこの里で収斂を続けよう。


 来てくれラス。

 契約のつながりによって、声を出さなくても意思疎通が図れるようになった。あの戦いでラスもレベルが上がり、8レベルになった。もともとは魔力を持たない動物であったが、魔力で契約したことにより、魔力を得て魔物をへと変化した。スキルポイントも得てスキルを取得できるようになったので、これからは戦力としても活躍してくれるだろう。


 カデル、トゥーラ、ハーミットは自室で体を休めると共に進化に馴染ませている。そのため、構ってくれるのはラスしかいない。もうじき目覚めてくるころだろう。進化してどんな姿になったか見るのが楽しみだ。まあ、トゥーラ以外はホブゴブリンになるだろうが。


 「貴様ッ、それでも七代部族当主の嫡男であるか!」


 ラス、行け


 第三の目


 怒鳴り声が聞こえた方にラスを向かわせ、高みの見物をする。


 「鬼っ子らに寄ってたかって、鬼人族の恥を知れ!」


 次郎坊を突き飛ばすちっこい鬼人。なにやら怒っている。


 「付き人も守れずになにが七大部族か。」


 七大部族という謎の単語も出てきて気になる場面ではあるが、次郎坊を倒してしまった手前、俺がのこのこ行っても火に油を注ぐようなものだ。


 「…」


 「言い返せもしないのか。そんな恥晒しは今ここで死んでも構わんだろう。」


 「やめておけ。」


 剣幕の中、一鬼が口を挟む。


 「貴様には関係のないことだ。」


 赤髪に赤眼、カデルか。後ろにはトゥーラもハーミットもいる。皆進化して立派になった。

 


 「やめてくれ。俺が一族の恥を晒したのは事実だ。」


 「わかっているじゃないか。」


 「やめろと言っている。そこのちびっ子、こいつとの関係は知らないが、俺たちの大将がこいつを倒したんだ。生殺与奪権はお前にはない。」


 「ならば、そいつを連れて来い。俺がそいつを倒せば問題なかろう。」


 みんなが言い争っている間に部屋の前まで来てしまった。一部始終はラスを通して見ていたから、知っているが、ちょうど入りにくい。だが、ここで行けばちっこいのと戦えるかもしれない。しかし、これから机を並べ学び舎で共にしていく仲だ。争いごとは避けるべきだ。


 「待「待て。」


 俺が部屋に入ろうとした矢先、肩を掴まれた。あの大男だ。


 「明日からお前たちは、午前は勉強、午後は修練だ。それに備えて今日はもう休め。決闘することは許されない。それに実力を示す機会、汚名を晴らす機会は多くある。その時で良いだろう。解散。」


 「しかし、教官。こいつは七大部族の恥です。今すぐ罰を。」


 「止めろと言っている。お前たちの教育を預かったのは俺だ。命令には従え。」

 

 「失礼いたしました。」

 ちっこいのはすぐに謝った。あれが強者の覇気というものだろう。この場にいる誰もあの鬼に逆らうことは許されなかった。


 今日はお開きとなった。


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 なんだか眠れず、散歩をしている。地球ほど発達していない異世界では星が良く見える。地球でもこれほどの星空を見たことがない。空を見上げるのが大好きだった俺は、満天の星空を見てみたかった。異世界にきて地球で出来なかったことをする。そればかりを考えている。こっちに来て毎日が非日常で、生きた心地を実感している。ここが俺が俺求めていた異世界なんだと改めて実感する。


 こうして歩いていると地球で死んだ日のことを思い出す。あの日もこうやって散歩していて、帰ったら天界の影に殺された。そして、異世界に転生した。とてつもない恐怖体験だったけど、あれがなければ俺はこうして異世界に転生できなかった。


 転生してから、1か月くらいが過ぎてまだ出会って日は浅いけど信頼できる仲間がいる。やりたかったこと全部を実行できる可能性がある。俺の異世界ライフは充実しすぎている。


 だが、一つ失敗したことがある。試験終わり唐突に思い立ったことなのだが、”アカウント作成”でつくったアカウントをパーティーに加えておけば、レベルが上がりスキルポイントが獲得できる。スキルポイントはどのアカウントでも消費することができるため、例え使うことのない芋虫魔物のキャタピラーでも、アカウントを作成しておけばスキルポイントがウハウハだったはずなのだ。次郎坊たちとの戦いでもあれほど苦戦することはなかったはずだ。


 だが、おかげで死線を潜れた。死の間際に立ち新たな力も得た。悪いことばかりではない。過ぎ去ったことは変えられない。後悔先に立たずだ。これから先は長い。同じ失敗を繰り返さなければいい。

 

 これからだ、これからなんだ、俺の異世界ライフは。これから俺の強くなるペースは倍になっていく。


 新たな決意を抱き、夜は更けていく。


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 試験が終わってから二日が経ち、大男に集められた。その数総勢14鬼。試験が始まる前に確認できたのは50鬼近くいた。それほど過酷な試練だったのだ。


 「よし、全員集まったな。まずは試験突破おめでとう。これからお前たちは次の進化を迎えるまで、鬼舎きしゃで過ごしてもらう。大体1年間が目途だ。進化した後、これから説明があるだろうが七大部族にそれぞれ所属することとなる。そのために、1年後七大部族の前で武闘祭を行ってもらう。そこでお前らの将来が決まる。養子か、部下か、はたまた雑用か、どの部族にどのような立場で、入るか決まるからだ。」


 武闘祭、いい響きだ。楽しみで仕方がない。1年後強くなった皆と戦う機会がもう用意されているのか。世界を冒険したい気持ちは山々だが、鬼人の里は俺をワクワクさせてくれるもので溢れている。


 「今日から午前は勉強、午後は修練の生活を送ってもらう。1年間よろしく。」


 こうして俺たちの鬼舎きしゃ生活が始まった。

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