第9話 最後の一服

 ファー。


 縁側で口を大きく開けて、盛大に煙を出してやる。さあどうしてやろう。一応遺書は書いてはみたが、関係のない爺さんの墓へ俺を一緒に入れてくれるだろうか。



 ファー。


 煙は青空に雲みたいに登っていきやがる。あいつはいいな、最後まで俺と一緒に煙草吸って、心臓発作でぽっくりいきやがった。まあ、俺の前で死んだのだけは褒めてやる。


 ファー。


 俺は入院だ。全館禁煙だとよ。ったく、世知辛い世の中だ。死にざまくらい選ばせてくれてもいいってのによ。


 ファー。


 おい、届いているか。世間様に嫌われている煙まき散らして、お前に届けてやってんだ。お前が吸わないと意味ないぞ。


 プップー。


 フッ。


 さあ、終わっちまった。タクシーの奴がしびれ切らしちまった。一箱も吸ったんだ。きっと届いているだろう。家の片付けもちゃんとやった。もう戻れないことくらい、自分でわかってんだ。お互い、まあよく生き延びたさ。


「今行くー。」


「よかったら、私も一服いいですか。最近本当に厳しくて。」


 タクシーの運転手が出てきていった。


「ああ、もう吸っちまったがどうぞ。」


「あ、でしたらどうぞ。」


 そう言って運転手が差し出してきた煙草はあいつの銘柄だった。


「こりゃあ、いいたむけだ。」


 遠慮なく一本いただく。


 運転手と二人で、縁側で最後の一服。あの頃と同じ二人分の煙。


 おい、じじい。銘柄が違うって、怒りやがったか?待っていろ。俺ももうすぐだ。


 もうすぐそっちにいってやるよ。

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