異世界転生して、コーラを手から召喚し、ハーレムを作る件

青燈ユウマ

第1話 異世界転生したら、手からコーラが出てきた。


 目が覚めると、視界いっぱいに明るい青が広がっていた。視界の端からゆっくりと白い雲が流れてきて、今見ているのが空だと気が付いた。


「……?」

 

 仰向けに寝ていた俺は上体を起こして、辺りを見渡した。

 そして愕然とした。


 見たこともない草原がどこまでも続いている。


「は? どこだよ。ここ」


 さわさわと草を撫でる風の音が鼓膜を揺らす。

 立ち上がって、ぐるっと見回すが、一面の緑で街らしいものは見当たらない。


「参ったな……」


 どうしてこんなことに、と記憶を辿るが、昨日の分がすっぽり抜けてしまっている。直近の記憶は一昨日のもの、大学に行った帰りにコンビニに寄って……。


(……? その後の記憶がないな……)


 困惑しながらしばらく立ち尽くしていたが、このままここにいても埒があかないので周辺をぶらつくことにした。すると程なくして、道らしきものを見つけた。とりあえず、それに沿って歩いて行くことにした。


 どれくらい経っただろうか。

 最初にいた地点はすっかり見えなくなって、森に差し掛かろうというところまで来ていた。

 歩き疲れて、そろそろ休憩でも取ろうかと思ったその時、木々の間から呻き声が聞えてきた。


「うう……」


「……!?」


(なんだ??)


 声のする方に恐る恐る近づいていくと、木の裏で金色の長い髪の人がうつ伏せに倒れていた。


「え!!?? 大丈夫ですか!!?」


 思わず駆け寄って上半身を起こすと、白いローブを着た女性が大きな碧い瞳で俺を見つめた。


(西洋人か? すごい美人だ)


 その人は体に力が入らないようで、だらりと腕をぶら下げていた。


「あ、あの、大丈夫ですか!?」

「し……しんじゃう……」

「ええ!!??」


 彼女はそのまま目をつむって、がくりと頭を下げた。


「え!!?? ちょ!! 起きてください!!」


 何度呼びかけても、目を開けず、力なく項垂れたままだ。


(やばいやばいやばい!!! マジで死ぬのか!!?? てか、これ、俺が第一発見者で一番疑われる……いや、そんなこと言ってる場合じゃない、助けないと!!)


 パニックになりながら、彼女を抱きかかえて森を出る。


「誰かーーーーーーーー!!!」


 草原を大声で叫びながら歩き回るが、人影なんて一つも見当たらない。

 

(やばいやばいやばい!!!)


 焦った俺は思わず走り出して、その拍子に石に躓いた。


「うお!!??」


 思いっきり前のめりに体勢を崩し、とっさに彼女を抱えたが、そのままゴロゴロと転がり、何回転目かにようやく止まった。

 

 目の前にある彼女の顔は先程よりも青白く見えた。

 彼女はゆっくり瞼を開けて少し微笑んだ後、また目を閉じようとした。

 

 ――――――この瞼が閉じてしまったら、彼女は死んでしまう。

 

 第六感が俺にそう告げていた。


「おい!! 嘘だろ!! 閉じるな!! 閉じるなよ!!!」


 目の前で命が終わろうとしている事実に、全身の血の気が引いた。

 彼女の肩を掴んでゆさゆさ揺らすが、下がる瞼を止められない。


(か、か、か、神様――――――――――!!!!!)


 目が閉じ切るその瞬間、俺は神に祈っていた。

 もう祈るしかなかった。

 クリスマスと初詣をしっかり楽しみ、死後は寺の墓に入る予定の俺の神様がどなたかは分からないが、どうにかしてくれと思った。 

 

 次の瞬間だった――――――。


 俺の右手がパアアアアッと発光した。続いてシュンシュンシュンと赤色の魔方陣が3つ重なって掌に表示された。


「は!!!???」


 やがて発光が収まり、魔方陣が収束すると、手にコーラが握られていた。500ミリリットルのペットボトルのやつだ。俺が一番好きなサイズのやつだ。


「!!!????」


 コーラ!?? なんで??

 いや!!?? 彼女は――――――!!??


 彼女を見ると、瞼が閉じていた。


(終わった――――――。いや、いや!! まだ分からない!!)


 一縷の望みをかけて、彼女の首筋に手を当てると、脈があった!


 「頼む!! きいてくれ!!」


 コーラの蓋をプシュッと軽快な音とともに開けた。はじけ飛んだ炭酸の黒い粒が、彼女の白い頬についた。

 そのまま、彼女を抱えて、ペットボトルの飲み口で唇をこじ開けて、コーラを流し込む。


 するするとコーラが口内に吸い込まれていく。


 すると突然、「ゴホォッ!!!!」とコーラを吐き出して彼女が目を醒ました。

 

 「おお!!!?? 生き返った!!!!」

 「ゲホォッ!!! ゴホッ!!!!」


 激しくむせ込んでいる彼女の背中を擦る。


「ごめん! ちょっと流し込みすぎた」

「触んないで!!」


 彼女は俺の手を払いのけて、キッと睨んだ。

 口の端からコーラが垂れているが、指摘すると怖そうなので止めた。


「何をしたの、あんた!?」

「え? なにって?」

「どうやって私を助けたのかって聞いてるの!! 私は魔王にかけられた呪詛に犯されてて、もう助からないはずだったのに! あんた、どんな解呪魔法使ったのよ!!」

「はあ??」


(魔王? 魔法? なんかよく分からんけど、痛い子なのかな?)


「いや、コーラ飲ませただけだけど」

 

 俺は右手に持ったコーラを彼女の目の前に持ってくると、彼女はそれをまじまじと見つめた。


「コーラ? 何、これ……。どこで手に入れた解呪薬なの?」

「ええ……」


 俺の呆れ顔を心底不思議そうに、彼女は覗き込んだ。


 コーラも知らないなんて、相当箱入り……なわけないよな。

 もしかして、俺、とんでもないとこに来ちゃった??




◇◇◇◇◇

 次回

 

 「やっぱりコーラは世界最強の飲み物だって証明されたな」




 











 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生して、コーラを手から召喚し、ハーレムを作る件 青燈ユウマ @yuma42world

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ