第9話 妖精に出会いました 第二話

「わたし、山田夫人になったのかしら?」

「そうです。理解が早くて助かります」

「ええ。だってこれ、夢ですもの」


 わたしは布団に潜り込み、おかしな夢から解放されるために目を閉じようとする。山田くんは布団の上を器用に移動して、わたしの目の前をキープする。


「おねえさん。ぜんぜん、理解してませんね」

「ええ、そうね。理解できないわね」

「そんなこと言わず、これを見てくださいよ」


 山田くんにとっては広大な地図サイズである婚姻届けの解説する。その内容は確かにわたしの名前と住所。それにご丁寧に証人欄にはわたしの親友の名前が書いてある。それも親友のクセのある字で。


「えーと、山田くんはストーカーなのかな?」

「違います! おねえさんが僕と結婚するって言ったのではないですか」

「山田くん……わたし、彼氏なし歴=年齢なんだけど」


 現実が受け入れらないなか。自虐なセリフを吐いて自分で傷ついた。それにしてもこの小人、幻覚にしても相当ヤバいヤツじゃないかしら。


「山田くんはわたしのことをおねえさんと読んでいるけど、結婚しているなら、なんで名前で呼ばないの?」


 ここまであたふたしてしまい、山田くんの存在を驚くという一番大事な機会を逸してしまったので、筋論で山田くんの存在を否定することにする。


「それに、わたしはそれを書いた覚えたはないわ。これって私文書偽造だし、提出したのであればもっと罪は重いんじゃないの?」


 山田くんは信じられない、という顔をして、小さなポケットから更に小さいスマホを取り出した。――小人界でも果物マークのスマホがあるらしい。


「ほら、見てくださいよ。イ〇スタの動画です」

「なによそれ。わたしはイン〇タなんて、そんなイケてるSNSはやってないわよ? せいぜい鳩だけよ。それもROM専で」

「鳩ですか? 小人界ではアルファベット一文字に変わりましたけど」

「あーあーそうです。つい、昔の名前で言っただけです。そうです。SNSなんてやってません。アカウントはあるけどフォロワーは0ですー」


 山田くんといると、なんだか惨めな気分になるのは何故だろうか。


「まあ、おねえさんのことは置いてください。それよりもホラ、この動画を見てくださいよ」


 山田くんは動画を見せてくる。小さい画面で見づらいが、その画面にはベロベロに酔っぱらったわたしが、立ててはいけない指を天に突き上げながら、「わたし、山田っちと結婚するから!」と叫んでいる。山田くんは日本酒のおちょこでオレンジジュースらしきものを飲みながら、「やったー! 結婚してくれるって!」とはしゃいでいる。


「ちょっと待って。これ、あれでしょ? コラってヤツでしょ? わたし、お酒なんか飲まないし。こんな居酒屋行ってないし、何よりもこんなロックなポーズをしたこと、人生で一度もないわよ!」

「そんなことないじゃないですか。隣のサラリーマンの方々の席にダイブしたり、カウンターのカップルに絡んだりして楽しそうだったですよ?」


 山田くんは何枚かわたしの破廉恥な写真を見せてくれる。その中には親友の姿もある。


「凝ったコラね。今流行りのAIかしら?」

「違います。ちゃんとした写真です」


 続けて、何枚か見せてもらう。確かに居酒屋で暴れているわたし。婚姻届にサインをしているわたし。親友から喜び? で泣かれているわたし。山田くんが言うことに矛盾しない証拠が沢山出てくる。


「どうです? おねえさんと僕、結婚してますよね?」

「あーそうね……。というか。この居酒屋、山田くんの存在に誰も驚いていないのね」

「ええ。皆さん、良い人でしたね」

「……ここまで何も会話が嚙み合ってないし、わたしのピントもブレブレで、どこから理解していけばいいのか、わからなくなったわ」

「そうですか? おねえさんはちゃんとわかっていてスゴイと思いますよ」

「ありがとう。少なくとも、この居酒屋にいるわたしよりは冷静かもね」

 

 さて、こんなわけのわからない状況だが、どうやらわたしは人妻になったらしい。それも小人の奥さんである。


「で、山田くんは何しに来たのかしら?」


 結局、わたしは先程の質問に戻り、もう一度、山田くんと向き合うことにするのだった。


(続)→未完


※書いているうちに、「これって内田春菊先生の『南くんの恋人』のパクリみたいじゃない?」って思ってしまい、書く気がなくなりました。わたしが連載物を勢いで書くと、こういう罰を受けてしまうのであります。(2024.2.14)

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