第5話:すべてがBLに
「参考資料おおお〜????!!!!」
驚くのも無理もないだろう。それが普通の反応だと私も思う。
新しく入居してきた同居人の正体はBL小説家で、しかも自分達のことを参考資料にしたいと言っているのだ。
「それって…つまり…俺たちが男同士で恋人っぽく振る舞わないといけないって事?!」
手をふるふると震わせ、葉月さんはとても動揺している。
「俺は別にいいよ。なんか面白そうだし。それにいつか役がきた時に活かせるかもしれないし。」
朝比奈さんは意外にも乗り気だ。
「あ!別にそこまでは求めてません!いつも通り日常生活を送ってもらえれば問題ないです!頭の中でいくらでも変換できるので…!」
私はグッと親指を立て、笑顔で答える。
「BL小説家の妄想力半端ないね…。」
葉月さん若干引いてない?お願い、引かないで、ねえ。
「とにかく、私はみなさんが仲睦まじく過ごしている姿を見られれば、そこから原稿に反映できると思うので!ご協力お願いします…!」
「ん〜…みのりちゃんがそこまで言うなら…。」
「ありがとうございます!!」
「その代わり!俺のお願いも聞いてもらうからね?」
「…お願い?わかりました。」
よくわからないが、交換条件なのは仕方ないだろう。
「…自分で言うのもなんだけど、あんまり内容聞かずに男のお願いに頷いちゃうの、良くないと思うな。恭弥くん、この子どういう育ち方したらこんな純粋になるの?俺心配…。」
「…先生、あんまり蓮には近づかない方がいいです。性病が移ります。」
「ひどい!!それに俺性病じゃないし!!」
「?」
葉月さんは最初こそ抵抗していたが、渋々了承してくれた。
後半は何の話をしているのかよく分からなかったけど、まあいいや。
あとは宇佐見くんにも事情を話さないとな…。一番嫌がりそうだけど。
「そうと決まれば。鉄は熱いうちに打てと言うしな。」
氷室さんは何かを決めたように頷くと、流れるように隣に座っている葉月さんの口元に手を伸ばした。
「蓮、口元にソースがついているぞ。世話が焼けるやつだな。」
氷室さんはそう言うと、自然に葉月さんの口元のソースを親指で拭った。
葉月さんは、何が起こったのかわからないと言う顔をしている。
はわわわわわわ…!!!!!!私は思わず両手で口を抑える。その光景を目に焼き付けながら、ニヤける口を隠すのに必死だった。
「どうですか?先生。」
氷室さんはこのくらい余裕、とでも言うように涼しい顔をしている。
最高すぎる!!!!!!!!
「キャ〜♪恭弥くんやるう〜♪」
朝比奈さんは棒読みでいかにも女子っぽいセリフを言いながら、この状況を楽しんでいる。
「ぎゃあああああああ!!!!鳥肌!!鳥肌が!!!」
葉月さんは青ざめながら大袈裟に氷室さんから距離を取っている。
「…失礼なヤツだな。お前も乗ってこい。先生のためだ。」
「やっぱ無理いいいい!!やだ、BLにされるうううううう!!!!」
逃げ惑う葉月さんを見て、ピン!と私は何か閃く。
「…嫌がる受けも悪くないかも…。」
「は?!俺は受けじゃない!!BLにしないで!!」
傍で今までの流れを見ていた朝比奈さんはヒーヒーとお腹を抑えて笑っている。
よく見たら涙まで流していた。
春翔は葉月さんか?そんな考えをこらしながら思考を巡らせていると。
「騒がしいなあ〜、みんなで何やってんの。」
宇佐見くんがリビングに現れた。
「おっ!うさ、仕事キリついたか?今夕飯温めるな!」
朝比奈さんは宇佐見くんに気づくと、キッチンに向かう。もはやお母さんである。
「ん〜〜。お腹すいた…。」
そう言いながら、宇佐見くんは席に着く。
「うさちゃん!今ここに来ちゃだめだ!!BLにされるぞ!!」
葉月さんはなぜか自分の体を抱きしめながら、宇佐見くんに忠告するように叫ぶ。
「はあ?蓮さん、女の子と遊びすぎておかしくなった?」
宇佐見くんは意味がわからない、と言う顔で葉月さんを怪訝そうに見ている。
そんな顔をしたら葉月さんが哀れである。どこかその宇佐見くんの表情に既視感を覚え、どうやら私が普段氷室さんにされている顔に似ていると気づいた。葉月さんの気持ちが痛いほど分かるので、早急にやめてあげてほしい。
「みのりがBL小説家って話だよ!それで蓮くんが過剰に反応してるだけ。」
朝比奈さんは笑いながら、お鍋を温めている。
「あ!今みのりちゃんのこと呼び捨てに…!!」
なぜか私より葉月さんが反応して目くじらを立てた。
「え〜?だって同い年だし。なっ、みのり?」
「あ、はい。」
朝比奈さんは人との距離感を縮めるのが上手い人らしい。
「じゃなくて!聞いてうさちゃん、俺たちみのりちゃんの参考資料だって!BLのネタにされちゃう!!」
悲壮感たっぷりに葉月さんは言う。
「蓮さん、何をそんなにびっくりしてるの?だって恭弥さんが今担当してるのBL誌じゃん。その恭弥さんの担当の作家先生なら、BL小説書いてることくらい想定内だよ。」
「え!お前、恭弥くんがBL担当してるの知ってたのか!俺たち今日知ったよ、なぁ?」
はいお待たせ、と朝比奈さんは温めた夕食を宇佐見くんの前に並べた。
葉月さんは、コクコクと首を縦に振って激しく同意している。
「さすがに小説のネタにされるのは驚きだけど。まあ、それ相応の対価払ってくれるならいいよ。」
「…対価?」
思わず私は聞き返す。まさかお金とか要求されるんじゃ…。
私の問いに、宇佐見くんはニイっと笑うと。
「おねーさん、俺と付き合ってよ。」
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