不完全変態の変態

月下美花

第1話

 砂ぼこりが舞う学校のグラウンドに男女入り交じった数名の生徒が横並びにその時を待っている。手にはそれぞれのバトン。

「位置について、よーい」

ドンとピストルが響き生徒たちが一斉に走り出し、少し遅れて本部の方から音楽と放送部の中身のない実況がグラウンドを囲うように配置されているスピーカーから聞こえてくる。クラス席で見ている生徒たちは走者が近づいてくるにつれて声援やヤジが盛り上がり、遠のくにつれしぼんでいく。そうした、歓声はそこでピークを迎え、そこから徐々に関係のない雑談などが混じってくるのであるが、それはアンカーにバトンが渡されると同時にまたかき消される。誰が一位になるのか、自分たちのクラスはどうなっているのか、それぞれの思いが声援となりグラウンド全体が熱気に包まれる。

 一位となった選手がゴールテープを切りその後ろから大きく離れて団子なっている二から五位、そしてそれから更に離れたところに六位と七位が走っていた。

 上位三名が決まった時点で観ている生徒の注目は昨日のドラマや推しているアイドル、ゲームのイベントの話題へ移る。最後尾二人がゴールする頃には次の競技の話題がチラホラと聞こえだす。競技の消費がされようとしている観客席とは変わって競技を終えた生徒は勝った負けたとヒソヒソしながら次の指示を待っている。やがて退場の指示がなされると、キビキビともダラダラとも言える様子で観客席の生徒と混ざっていった。それと同時に、ただ今の競技は男女混合リレーでした、というアナウンス。

 観客席のざわめきでかき消さそうなそのアナウンスを前田翔まえだしょうはいまだグラウンドの方を向いた状態で座りながら聞いていた。

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