習作
そりっど
習作
夏の、陽が真上にある日だった。
柵の向こう、池の魚が泳ぐ姿に涼しさを感じたことを覚えている。
彼と何度目かの邂逅を果たしたのは確かにその日だ。
やぁ、久しぶり。元気だった?
え?僕かい?…僕は元気だったよ。商いも随分と軌道に乗ってね、この間もなのある御仁が作った陶器が売れてね。
残念ながら、僕にはアレの価値をお金に変える以上のことはできないけれど、買ってくれた人の下でアレがいい扱いを受けることを祈ってるよ。
飾られるにせよ、実際に何かに使われるにせよね。
え?作らないのかって?無理だよ、無理無理。
どれだけの工程に力を注がないといけないと思ってるんだい?
僕は一点に集中するのは苦手でね。こうやって歩き回って、仕入れて、売って。
そういう方が身にあってるんだ。
…さてと、僕はもう行くよ。
多めに置いておくから好きなものを追加で食べるも良し、懐にしまうも良し、次会う時まで大事に持っておくも良しだ。
それじゃあね。
よく覚えている。
彼の向かう先の雲が随分と黒かったことも。
商いをするとも旅をするとも見えない程の軽装であった事も。
彼の置いていった麻袋には、大凡持ち歩くには相応しくない、あまりにも多くの貨幣が入っていた。
夏の陽射しが池で反射して、私の目を射たその数瞬の後には、彼はもう私の目の届くところにはいなくなっていた。
小半年ぶりに彼と出逢った。
それが最後の邂逅で。
君は既に陽の方に昇っていた。
我が友、君が私を見つけてくれるかはわからない。
分からないがもし、もしも君が私を見つけたのならば、
すぐそこの墓標の下。
木箱の中に私の唯一の作品を遺して逝く。
やはり私には才がなかったようだ。誰にも師事しなかったとはいえ随分と不恰好だ。
だが、私の唯一の、私の最期を込めた器だ。
さようなら、我が友。数度言葉を交わしただけだが、君の幸せを祈っている。
麻袋いっぱいの貨幣が入った木箱が庭の地面から掘り出された。
そんな報せはそれを見つけた男の絵と共に国中に行き渡り、男は羨望の眼差しを一身に受けることとなった。
その報せを聞き流して、私は今日もまた朝食を不恰好な皿に盛り付けていく。
陽はまだ昇りきっていないのに、随分と強く照っていた。
習作 そりっど @-so-lid-
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