心の中でいつまでも

@chomusan

第1話

 いつもの古びたバスの中から見た初夏のあの景色、温かい木漏れ日の気持ちの良い日のはずが、色もなくひんやりしてたあの日を今でも鮮明に覚えている。

 あれは今から30年ほど前のこと。

 アナタは私に何も言わず、どこかへいなくなってしまった。


 小学校からずっと同じだった彼と偶然にも同じ通学路で同じバスで毎日通っていた。

 いつの間にか私は彼と一緒の時間にバスに乗ろうと、寝坊しても必死にそのバスに乗ろうと急いでいた。アナタはいつもと変わらない笑顔で毎日学校までの30分いろんな話をしてくれた。お互い違う高校だったのが悔やまれた。。。

 いつの間にかアナタは私の心の中の主になっていたのだ。


 1学期が終わり、、2学期の始業式の日。

 ずっと楽しみにしていたあの時間が、もう帰って来ない事など知らずに私はのんきに夏休みを過ごしていたんだ。

 アナタはあのバスには2度と乗ることもなくいなくなった。

 まだ1年の2学期だよ。。

 この彼のいないひんやりしたバスにあと2年半も乗らなきゃいけないなんて。


 彼の事を知ったのはどれほど後の事だっただろうか。

 ただ、そう時間は経ってなかったように思う。

 彼はジョッキーになりたくて高校を中退して騎手の学校へ行ったと。

 私の中にアナタがいるのはその時からだったんだ。


私は友達に付き合ってもらってアナタを探しに行ったんだ。

遠いところまで、初めての冒険気分だった。

時刻表で調べて、ディズニーランドに行くとウソをついて。

わくわくとドキドキと緊張とで今でも鮮明に覚えている。

でも私の初めての冒険は、一目見ることもできずに帰ってきたのだ。


それからどうやって繋がっていったのか記憶が定かではない。

ただ、昭和から平成、令和と時代を乗り越え今でも繋がっているのだ。

当時はポケベルの時代。私は持っていなかった。もちろん彼も。

手紙を書いた覚えはある。そこからきっと時代と共に連絡ツールを教えあったんだと思う。


手紙から携帯に進化したころから、連絡をたまにするようになった。

私がアメリカに留学した時はまた書きなれた手紙に戻って、彼も初めての

airmailをくれた。国際電話でも沢山話したんだ。

不思議と彼と話していると心が満たされていく自分に気が付いた。

大好きなのに なぜか付き合いたいとか考えたこともなかった。

そのころから 私の心に宿る大切な大好きな人となったのだ。


たわいもない話や大事な就職の事、いろんなことを話したよね。

ずっと好きでいられる自分にも驚いた。他の人とも出会って付き合ったりもした。

でもいつも 「アナタ以上に好きになれる人ではない」って気が付いてしまうんだ。


就職して落ち着いたころ、アナタと話したくてたまらなくなって

毎日仕事帰りに公衆電話から電話して話してたのを覚えてる。

ほんと毎日毎日あの公衆電話からかけていた。

仕事の疲れがふっとぶようなとても楽しい時間だった。

いつでも電話してよ。って言うのが口癖の彼だった。

くっつくこともなく、離れていくこともなく、ただいつも姿は見えないけども

近くに感じていた人。お互いに付き合っている人がいるの?とかは聞けなかった。

付き合っている人がいても 不思議と心の片隅にアナタがいたんだ。


このころはもう毎日電話していたわけではない。

何をきっかけに電話しなくなったかも覚えてないけど、自然とそうなったように思う。

私は付き合う人ができると、アナタ以上に好きになる人なんて現れないんだ。だから他の人に目を向けて。と自分に言い聞かせて付き合っていた。もちろんその人の事も普通に好きだった。

でも普通に好きであって アナタ以上ではなかったんだ。

そのころから私はアナタを忘れないと結婚できない。と焦りだしたんだ。


忘れよう・・・としている時と、やっぱりアナタが一番好き。と思う時と交互にやってきて、

今の旦那と付き合ってた時はちょうど忘れようと思っていた時なんだと思う。

すんなりこの人と結婚したいと思えたんだ。

でも・・・ あと数か月で結婚式というある日、アナタから久しぶりに連絡が来て

一緒にクラプトンのコンサート行きたい。って。

ものすごく揺れ動いたのを覚えている。婚約してるのに行っていいのだろうか・・・

いや、揺れ動くほどの人がいて結婚していいのだろうかって。

結局私は久しぶりにアナタと会ってどう思うか自分を確かめたかったんだ。


クラプトンは・・・アナタが遠くに行ってしまう時に手紙といっしょにクラプトンのCDをプレゼントしたから、アナタは誘ってくれたんだ。

私はとても揺れ動いたけど アナタではなく結婚を選んだ。

あの頃大好きだった時と同じ気持ちにはなれなかった。アナタはいつも心の中にいる人なんだと。そして初めて私に、付き合っている人いるの?って聞いてくれたよね。

ほんとはその日に婚約していることを伝えたかったけど、それができない自分がいたんだ。

なんの涙か分からないけど 別れた後ボロボロ泣いて帰ったのを覚えている。


でもアナタにあとで伝えたんだ。

電話して「私ね、結婚するの。」って。

動揺した声で ボソっと「おめでとう。」って言ってくれたね。

しかも私はアナタと同じ部活だった先輩と結婚したんだ。


それから連絡は来なくなったし、私もしなかった。

連絡しちゃいけないと思ったんだ。


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