魔咆少女エーリング・まな ~泣き虫だったわたしを救ってくれた魔法の杖は、臆病でロリコンな超巨大ロボでした~
前森コウセイ
第一部 泣き虫なわたしと弱虫なあなたと
魔咆少女になっちゃった
第1話 1
「……どうしよう、見つからないよぅ……」
わたしは込み上げる涙を拭って、何度目かの呟きを漏らす。
辺りはすっかり薄暗くなり始めてて、校庭を照らす照明まで灯り始めた。
「きっとこの辺りに落ちたはずなのに……」
そうして、わたしは再び生け垣に頭を突っ込む。
毎朝、お母さんが整えてくれてる髪は、葉っぱや蜘蛛の巣でぐちゃぐちゃで、だから余計に悲しい気持ちになってしまう。
探しているのは、先週の誕生日にお父さん、お母さんからもらったペンダント。
親指の爪くらいの蒼くて丸い石に、虹色に光る綺麗な模様が描かれていて、ひと目で気に入ったわたしは、肌身放さずずっと着けてたんだ。
それが今日の放課後――最後の体育の授業が終わって着替えてる時に、姫乃ちゃんに見つかった。
姫乃ちゃんは華族――一条家のお姫様で、クラス委員。
みんなの人気者だけど、少し意地悪なところのある姫乃ちゃんは、わたしがアクセサリーを着けて来てるのを見つけて注意して来たんだ。
あっという間に姫乃ちゃんと仲の良い子達に囲まれて、怖くてなにも言い返せないでいると、姫乃ちゃんは先生に報告するって、わたしからペンダントを取り上げた。
お父さんお母さんからもらった大切なものだから、わたしは返して欲しくて手を伸ばして。
その拍子に、ペンダントは二階にある更衣室の窓から、外に飛び出してしまった。
『――か、
姫乃ちゃんはそう言って、みんなと一緒に帰ってしまって、わたしはひとりでこうしてペンダントを探し続けてる。
「うぅ……見つからないよぅ……」
再び呟いて、わたしは溢れる涙がこぼれないように、顔を上に向けた。
見上げた空はすっかり夜になっていて、ふたつの月が輝いていた。
元々あった白い月と、一年くらい前に突然現れた虹色の月。
虹月と呼ばれるようになったその新月については、テレビでいろいろな噂や推測がされている。
偉い学者の先生が言うには、どうやら人工物らしいって話だけど、難しいお話でよくわからなかった。
普段は白月の外側にある虹月だったけど、今日は二十日に一度の朔とかいう――虹月が白月の内側に来て重なる日みたいで、もう虹月の半分が、やや大きい白月に差し掛かっているところだった。
「……早く見つけて帰らないと……」
袖で目元を拭って、もう一度、生け垣を掻き分けようとした時、スマホが震えて、わたしは驚いて跳び上がってしまった。
『――まな、もう一八時になるよ? いま、どこにいるの?』
ポケットから取り出したスマホ画面に表示されたのは、お母さんからのメッセージ。
いつもはどんなに遅くなっても一七時には帰ってるから、心配してるんだと思う。
優しいお母さんを心配させてると思うと、また涙が溢れてきた。
「ごめんなさい。まだ学校。ちょっと探しものしてて……」
そうスマホに打ち込んで。
「見つけたらすぐに帰るから……」
そう結んで、わたしは返信する。
「早く見つけなくちゃ……」
スマホをポケットに押し込んで、再び生け垣を掻き分けた。
その時――
「あっ……」
暗い視界に蒼い輝きを見つけて、わたしは思わず声をあげた。
探していたペンダントは、生け垣の小枝に引っかかるようにして輝いていて。
「あったぁ~」
手を伸ばして石を掴んで、わたしは安堵の息を吐く。
「よかったぁ。あったよぉ……」
両手で握り締めると、涙が止まらなくなった。
洟をすすって、両目を拭い、ペンダントを首から下げる。
再びスマホが震えて――
『まだ学校なの? お母さん、これから車で迎えに行くから、待ってなさいね』
そう表示されたお母さんからのメッセージに、わたしは思わずうなずく。
「いま見つかったから、校門で待ってるね」
そう返して。
わたしの中で、徐々に不安が湧き上がってくる。
遅くなった事を怒られるだろうか。
理由を訊かれたら、今日、あった事を話さなきゃいけないかもしれない。
そうすると、このペンダントを学校に着けて来てた事も話さなきゃいけなくて……その事も怒られるかもしれない。
「うぅ……どうしよう……」
不安な気持ちがどんどん膨れ上がって、わたしは泣きながら――それでもとぼとぼと校門に向かって歩き出す。
「正直に話すしかないんだろうけど……」
曲がった事が大嫌いなお母さんは、さっさと帰っちゃった姫乃ちゃん達にも怒るかもしれない。
服の下に隠してるからバレないと思って、学校に着けて来てたわたしが一番悪いのに。
どう説明したら良いのか、頭がうまく働かなくて、わたしは深い溜息をついて、夜空を見上げた。
虹月はすっかり白月の真ん中まで来ていて。
白い丸に空いた虹色の妖しい輝きに、わたしは思わず足を止めて魅入ってしまった。
「……あれ?」
ふたつの月の輝きの中央に。
「……なんだろ、あれ……」
黒い点が見えて、見る見る大きくなって……月からこぼれ落ちたみたいな、流れ星が見えた。
瞬間――
ドン、というすごく大きな音が響いたかと思うと、視界が物凄い勢いで回って、わたしは吹き飛ばされていた。
すぐそばの生け垣を突き破って、そのまま校舎に叩きつけられる。
背中から駆け抜けた衝撃は、ランドセル越しでもすごく痛くて、涙で視界が歪んだ。
「……っつぅ……痛いよぉ……」
地面を転がって、呻きながら顔を上げると。
校庭の向こうに広がる街並みが、炎に包まれていた。
「…………なに、あれ?」
燃え盛る炎に照らし出されてそびえる――巨大な影。
それは金属でできた熊のような姿で。
すぐそばの十階建てのビルが、前足の付け根くらいまでしか届かないほどに、それは巨大だった。
その機械熊は炎より紅い目で、まるでなにかを探すように、首を振って辺りを見回していたけれど、まるで八つ当たりのようにそばのビルに前足を振るった。
苦手な雷を何倍にも大きくしたような轟音が響いて。
「いやああああああぁ――――っ!!」
ビルが上から叩き潰される。
わたしは恐怖に悲鳴をあげた。
現実離れした光景に、目の前が真っ暗になる。
「……怖い怖い……怖いよぅ……」
うずくまって両手で身体を抱き締めるわたしを嘲笑うかのように、機械熊が夜空に向けて大きく吼えた。
再び衝撃が走って、機械熊の周囲の建物が吹き飛ぶ。
すぐそばで乾いた音がして。
振り返ると、校舎に亀裂が走って崩れ落ちようとしていた。
「きゃああああああぁぁぁぁ――――っ!!」
――わたしは、恐怖に足が竦んで身動きできず、ただうずくまったまま悲鳴をあげるしかできなかった。
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