第6話 はじめての魔法
<アキラ視点>
ナーシャから呪文書と言われて手渡されたものには、五線譜が書かれていた。
メトロノーム記号で120と書かれていて、四分音符と八分音符が入り混じった楽譜。
C-G-F-Cが二回繰り返されるだけの童謡のようにベーシックなコード進行。
はっきりいって、比較的演奏しやすい部類の楽譜だ。
「あ、もしかして、あなた、呪文書読んだことないの?」
その質問に僕は固まる。
どういうことだ。
この楽譜通りに歌えば、この世界でいう、呪文を唱えたことになるのか?
「いや、これが、僕の知ってる楽譜と同じであれば、読むことはできる……と思う」
「言ってることがよくわからないけど……唱えられるのね?」
「歌詞は?」
「歌詞って?ああ、これは、素人にでも簡単に詠唱できるように、古代文字を覚えなくても、LALALAだけで詠唱できるベーシックな呪文よ」
彼女は僕にそう説明したが、僕は上の空になっていた。
「ははは……」
どうやら、僕は受験勉強で疲れているようである。
疲れているからこんな白昼夢を見ているのだ。
「さあ、ここは危ないから村に帰りましょう」
彼女に導かれて、山道を降りていく。
5分ほど歩くと、周囲から殺気がした。
「危ない!」
僕は彼女を突き飛ばす。
彼女めがけて鎖鎌が飛んだのだ。
「うえっへっへっへ」
下卑た笑い声と共に中年の男が3人近づいてくる
「まるで時代劇のような三下だ」
と、失礼ながら正直な感想を言ってしまう。
「よう。そこの若いお二人さん。身ぐるみはがさせてもらいましょうか。素直に言うことを聞けば命までは取らないよん」
どうやら、いわゆる山賊というやつらしい。
ファンタジーゲームの世界では雑魚キャラといってもいいが、リアルの中世においては、旅人にとって、命に関わるくらいには怖い存在だったようだ。
「呪文を唱えて?」
ナーシャが僕に話しかけると、山賊はげらげらと笑う。
「おいおい、そこの頭の悪そうな兄ちゃんが呪文だって?そんなもの唱えられるわけねーだろ。ふふん」
「呪文ってなにさ?」
「さっき、風の呪文を渡したはずでしょ?あれで、私たちの足が速くなって逃げられるの!」
ナーシャが突っ込むと山賊はさらに笑い声を大きくした。
「腹が痛え。バカいじりはそこまでにしな。気が変わったわ。お前らには死んでもらおう」
山賊は、ナイフを振り回しはじめたので、僕は彼女の手を引き、逃げ出した。
(本当にこんなもの効果があるのかな?)
「LALALALALALALALA♪」
半信半疑のまま僕は、呪文書に書かれた歌を歌い始めた。
すると、僕とナーシャの足に風がまとわりついた。
僕たちはものすごい勢いでその場を逃げ出した。
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