第5話 鈴木明は異世界転移する

<しばらくアキラ視点が続く>


僕の名前は鈴木明。


平凡な公立の学校に通う中学三年生だ。


うちの家族は音楽一家と言ってもよく、父は作曲家、母はジャズピアニストだ。


姉は音大でオペラを学んでいるらしい。


そんな僕も吹奏楽部で、主にアルトサクソフォンを担当していたが、県大会でダメ金をとった後は引退。


今は専ら受験勉強をしている。


楽器の腕前はまあまあで、友達のアマチュアジャズバンドにゲストで呼ばれるくらいには自信がある。


だが、音楽ができるからといって女の子にもてるわけではなかった。


はっきりいって僕はちんちくりんだし、女の子を口説くような話術を持ち合わせているわけでもない。


将来は、両親のように音楽で、食べていく……なーんていうことができるほど、この国は甘くはできておらず、おそらくは大人になった普通に営業マン、システムエンジニア、経理あたりの平凡サラリーマンになって社会に埋もれていくのだろう。


だから、吹奏楽の名門校や音楽学校などではなく、英数コースがあるごく普通の私立高校を受けようと考えていた。


ある夏の昼下がり、図書館から家に帰ろうと、河川敷を歩いていたら、あたり一面が暗くなった。


夏特有の通り雨か?と思って空を見上げたが、どうやら違うらしい。


ブラックホールのような黒い穴に火花のようなものが散っている。


あたり一面に暴風が吹いた。


折り畳み傘やごみ箱などが穴に吸い込まれている。


ぬれた地面に足が滑った。


そう、僕の身体も穴に吸い込まれているのだ。


(誰か!……助けて)


声を出そうとするが、風に遮られ声にならなかった。


やがて、体は宙を舞い、僕の体は穴の中に吸い込まれていった。


上も下も左右もわからない無重力のような空間に放り出された僕は、意識を失った。


「もし……。大丈夫ですか?もし……」


目を開けると、ブロンズ髪の高校生くらいの女の子が僕の体を覗き込んでいた。


女の子の服装はまるでファンタジーゲームに出てくる村娘のようであった。


起き上がって周りを見渡すと、見たこともないような植物が生えていた。


理科はまあまあ得意科目で、小学生の頃、植物図鑑なんかをよく読んでいたが、その中にある、どんな植物にも似ていない。


「ここは……君は……?」


「ここは、アミナ村外れの森よ。私は、ナーシャ。良かった。あなた、気絶してたのよ」


ナーシャは周囲を見渡すとほっと胸をなでおろす。


「このあたりは、山賊が出るんだけど、今日はいないみたいね。良かった。そうだ。あなた、魔法使える?」


「魔法って?」


「お守り代わりに呪文書あげるわ」


そういうと、彼女は僕に紙を手渡した。


きっと、見慣れない文字が書いてあるのだろうと思っていた、僕は中身を読んで驚く。


「これは……五線譜!?」

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