第2話 エリック・モリスの秘密
<エリック視点>
「そんな……」
禁呪の副作用なのか体がしびれる。
慣れない新しい女子の体に僕は戸惑っていた。
僕の名前はエリック・モリス。
父親は魔法省の役人、母親は魔法の家庭教師をやっている。
僕の家は魔法一家と言ってもいい。
小さなころから母の熱心な英才教育により、数々の魔法の訓練を受けていた。
男性は男声魔法、女性は女声魔法を使うこの世界の倣いであったが、例外として声変わりを迎える前の少年は、声帯が女声に近いため、女声魔法のトレーニングを受けるのだった。
そのため、僕に限らず、幼少期から魔法のトレーニングを受けてきた者たちは、たとえ男性であっても女声魔法の造詣が深い。
僕は、女声魔法を唱えることが好きだった。
魔族が街に攻めてきたときに、大人の男性たちの背後で、僕は補助魔法や回復魔法などを唱えて後方支援しているのが、楽しくて仕方なかった。
「あの遠くの敵に俺のマスターファイアーをぶつけるぞ!エリック伴奏を頼んだ!」
男声による火炎魔法に僕のボーイソプラノがハーモニーを加える。
「はいっ!合唱魔法ロングマスターファイアー!……よし!命中した!」
「よくやった!お前のコントロール力のある伴奏は一級品だ!」
これは、戦争なんだから楽しんではいけないと自制心を持ちつつも、戦士の日陰の存在として役に立てていることが純粋にうれしかった。
もし、太陽と月があるならば、お月様のような存在でありたいと思っていた。
「お前も男なんだから、いずれかは俺たちみたいにガンガン攻撃魔法を使いこなしてくれよな」
って大人にプレッシャーをかけられるけれど、僕はそっち側の世界に行きたいわけではなかった。
14歳のとき、声変わりは突如やってきた。
それは、僕たちこの世界の住人にとって、成人の儀のようなものだ。
これまでの生活を変え、男として、狩人のような男になることを期待されるようになるのだ。
周囲に祝われ将来を期待される反面、僕の心は空虚になり生きがいを失っていった。
僕は、ミラヴェニア魔法学校に席次合格し入学した。
この学校は、男女ペアで授業や試験を受ける習わしになっていた。
次席合格の僕の元には数多くの女子生徒がペアにしてほしいと群がっていた。
だが、僕は、クララ・ノーマンをペアにすると決めていた。
女声魔法を幼いころから使いこなしていた僕は、彼女は声楽の天才だと見ていた。
魔法なんて声楽さえできれば、他の技能なんて後からついてくるというのが僕の持論だった。
彼女の才能を開花するための一助ができればと僕は考えていた。
だが、入学して1週間後、僕は、エリーゼ・オブルスの罠にかかった。
彼女に呼び出されて身体を入れ替えられたのである。。
「おはよう。エリーゼ・モブルスさん」
「さ、さては、禁呪を使ったな!よくも!元の体に戻せ」
「いやよ」
「魔法警察に言うぞ……」
「あ、そうだ。一つだけ言っておくわ。もし、魂と身体が違うことを他の人に知られたらその瞬間、あなた死ぬから」
「うそだろ」
「本当よ。ふふっ。庶民の女のみじめな人生を楽しみなさい。考えられる限り、とびっきりみじめなパートナーを選んであげたから」
「そんな……」
僕は自分より背の高い元の自分の姿を、呆然と眺めるしかなかった。
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