第1話
ウォーロイズ国陸軍基地拠点。
アイナが生活をしているのは主にこの場所だ。勿論長い戦いに出るときは野宿などもザラではない。あくまでここは拠点にしかすぎないのだ。
「退屈だね」
そんな言葉と共にコツンと木製の机を叩く音がする。アイナは顔を上げると、「いい加減慣れてよ」と呆れたような声を出した。
目の前に座っているのはリズという少女。彼女もアイナと同じ第三小隊の隊員の一人だ。
「あーあ。もっとなんか面白いことしたいなあ」
「リズ」
相変わらず呆れた様子で、アイナはリズの頭を軽く叩いた。
「あんまりそういうこと言っちゃ駄目。誰が聞いてるかわからないんだから」
「わかってるよ。ごめん」
一応リズはアイナのルームメイトと言うことになっていた。
この拠点では大体が大部屋で暮らすことになっている。しかしアイナとリズはその優秀な戦績を認められ、平隊員よりは少しだけ広い部屋で過ごすことが許されているのだ。
「でも毎日考えてるの。何か楽しいことはないかなって。本を読んだり楽団の演奏を聞きに行ったり……そんなことができたらいいなって、思わない?」
リズは声を抑えてそう首を傾げる。
アイナは眉を顰めてリズの方に視線を向け直した。
今は戦争中なのだ。そんな贅沢は言ってはいけない。アイナはそう幼い頃から教えこまれていた。
「興味ない」
「ええー……アイナって真面目ね」
「真面目とかそういう話じゃ……」
頭を掻きながらアイナは息を吐く。この呑気なリズには何を話しても無駄だろうとアイナはそれ以上話を盛り上げようとすることはなかった。
「リズって変わってるよね」
「そう?」
自覚がないのか、とアイナは頬杖をついて遠くを見つめる。
リズは変わっている。それは誰がどう見ても同じことを言うだろうとアイナは思っていた。
彼女は幼い頃から戦争に従事していたアイナや他の隊員とは違う。つい数ヶ月前、突如としてこの隊にやって来たのだ。聞けばその前はどこかの村で農家をしていたようで、戦とは無縁の生活をしていたらしい。
実家の生活難だかなんだかで出稼ぎとして兵士になったそうだ。
それ自体は別に珍しい話ではない。この国ではよくあることだ。下手に働くより兵士になる方が給与がいいのだ。いつからそうなったのだろう。少なくともアイナが物心つく頃には兵士は高給取りの扱いであった。
実際のところ兵士としての暮らしは決して輝かしいものであるとは言えない。基地は綺麗ではないし、食事は一日二回あるが味気無いものばかりだ。それでもこうして屋根のあるところで二食付きで暮らせるのも最近の戦績が悪くないからであり、負けが込みいればもっと悪い生活になることはわかりきっている。
それでも高給取りとして扱われているのは、従事者を増やしたい国の情報操作のようなものだろう。
リズもきっとそれを聞きつけてやってきたのだとアイナは考えている。それを口に出すことは決してしないが。
そういう経緯でやってきたとしても、リズは兵士に向いていた。少なくともアイナはそう思っている。
正確すぎる射撃能力、決して何かに屈することのない精神力。ときに違和感を覚えてしまうほどにリズは兵士にむいている。だからこうしてアイナと共に特別待遇を受けているのだが……
「……私はリズの言うような楽しいことは知らないから」
アイナはそう口にすると目を伏せた。
リズはぱちくりと目を瞬かせて、
「じゃあいつか一緒に楽しいことしようね」
そう愛らしく微笑んだ。
残酷だ。そうアイナは思う。
こんな明るくて愛らしい子でさえ戦わなければいけない。今はそんな時代で、ここはそんな国なのだ。
いつまでもこうして他愛のない話をしていられたらいいなんて、そんなバカみたいなことを少しだけ期待している。
星の落ちる場所を探して 鈴鳴水仙 @suzunari_suisen
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