【SF短編小説】星々に問う―ヴィクトールの心の軌跡―

T.T.

序章:宇宙の沈黙と果てしない問い

 ヴィクトールは、冷たい星の光が降り注ぐ夜の静寂の中に立ち、穏やかな呼吸と共に宇宙の果てを見つめていた。

 彼の視線は、無数の星が織り成す無限のストーリーを超え、彼自身の存在を問う深遠なる思索に浸っていた。

 彼の目に映る星々は、遠い昔から存在し、膨大な時間と空間を超えて彼の網膜にその光を届けていた。

 彼は、自らの存在の意味を、この宇宙の永遠の中で探り続けていた。


 星々は黙して語らず、しかしヴィクトールの心は、彼らの沈黙の中にも答えを見出そうと躍起になっていた。

「存在する」とは、この宇宙の広大なスケールで何を意味するのか?

 彼は、自己の認識がこの宇宙のどこかに影響を及ぼしているのか、それとも単なる一粒の砂に過ぎないのかを、理性と直感の狭間で問い続けた。


 彼の思考は、科学的な論理と哲学的な思索の境界を曖昧にしながら、彼の専門である物理学の理論とその内に潜む宇宙の真理とを橋渡ししていた。

 彼は、観測された事象が観測者の存在によって変化する量子力学の不確定性原理を反芻し、それを自己の実存に当てはめようと試みていた。


 しかし、彼の内なる世界と外側の宇宙との間には、言葉にはできない何かが立ちふさがっていた。

 彼は自らの内面に目を向け、そこにある複雑な感情の網を解きほぐす作業を始めなければならないと感じていた。

 彼自身の選択と、それが彼の現実にどのように影響を及ぼすか、その繋がりを理解しようとしていた。


 彼は、星々に囲まれたこの夜に、自らが宇宙に問いかけることで、実際には自分自身に問いを投げかけているのだと気づいた。

 星々の沈黙は、彼にとっての鏡であり、自己探求の旅への招待状だった。

 彼の問いに答える声はない。

 無限に広がる宇宙と星々は、彼の存在を無視して回転を続ける。

 しかし、ヴィクトールはその沈黙の中に、自身の存在の意味を模索する旅を始めることを決意していた。


 この夜、星々の光は冷たいかもしれないが、彼の心の中には、温かい光を見つけ出すための希望が灯されていた。

 彼の問いは、単なる答えを求めるだけでなく、彼の存在そのものを形作るための、彼自身が創り出す物語の始まりだったのである。

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