第34話 涙の記憶 2

 ジョセフは葬式も参列した。マムも参列したかったらしいのだが、平日だし仕事があるという事で断念した。ジョセフとしてはそのほうが良かったのだが。

 ジョセフは葬式の時に彼女の遺影写真を見た。そこには彼女がきっと一番元気だった時なのだろう。笑った顔だった。

 目を開けたときは、こんなにも目が大きかったのかと、ジョセフは痛感した。

 ジョセフはあのソフィアと対面したあの夜……。家に帰って、一人で考え事をした。

 ご飯は喉を通らなかった。それを見かねたマムは、ジョセフに対して首をかしげていたのだが、ジョセフもさすがにマムに対してこれほど自分が体調悪かったら、心配でならないだろうと思い、全てを打ち明けた。すると、彼女はなるほど、そういう事だったのかと安堵の表情だった。

 ジョセフはその日、部屋に引きこもって涙が止まらなかった。どうして、これから高校へ進学していく少女が亡くなってしまうのか。人ってなぜ生きているのだろうかと、考えに更けていた。

 あの“会いたい”と言ってくれた時、何故会おうとしなかったのだろうかと自分を責めた。会えば、もしかしたら、彼女は精神的に元気が出て、喘息という病気も吹き飛ばせていたのかもしれない。

 他に男がいるんじゃないのかと疑ってしまっていた自分も責めたし、その話をしたウィリアムにも怒りを覚えていた。

 別に悪だくみをしたわけではないのだが、ウィリアムを責めずにはいられなかった。

 そうでなくては、自分がおかしくなりそうな気がした。

 とはいえ、双方ともラインという言葉でしか交わしていなかったので、偏見を持ったままだったし、自分自身も体型のことや不潔のことなどを考えずに会えば、きっと、一生記憶に残る貴重な時間を取れたのではないのかと考える。

 葬式が終わり、後は身内だけで火葬場に行くという事になり、ジョセフは帰ろうと、アメリアに一言だけ告げようとした。

「今日はありがとうございました」棺桶に入ったソフィアを見送った後、涙を流しながらジョセフは言った。

「いえ、とんでもない。ありがとうございました」アメリアも目から出る涙にハンカチで押さえながら、深々と頭を下げた。

「あなたが電話で言ってもらわなければ、僕は一生ソフィアに対して偏見を持っていました」

「偏見……。まあ、あの子、急に縁を切ったような返事をしたからね」

「いえ、まさかこんな状態だとは思わなかったので……」

「いいのよ。そのことなんだけどね、あの後、私、ジョセフ君とソフィアがどんなやり取りをしたのか、ちょっと内容を見てね」

 そう言われると、ジョセフは恥ずかしがるように頭をかいた。

「あの子、相当自分を大げさに嘘をついていたのね」

 と言われて、ジョセフは苦笑いをした。

「でも、あの子のやり取りからして、きっとジョセフ君のこと好きだったのよ」

「え、好きですか……」

 ジョセフは一気に顔が赤くなった。思わず頬を人差し指でポリポリかく。

「あの子を十五年も見てきたから良くわかるわ。あれほど他人と長いやり取りをする子じゃないもの」

「そうなんですか?」

「そうよ。結構、用件だけを伝える子だったからね。でね、その内容に、あなたお掃除の仕事をしてるの?」

「はい、まあ、インターネットで登録してですけど」

「スキルマーケットってものね。私も良くわからなかったから、ちょっと調べたんだけど、結構凄いことやってるのね」

「そうですか。でも、意外とお客さんは良い人たちばかりで……」

「その事でね、ソフィアが凄く応援してくれたのを覚えてる?」

「あ、はい、覚えてます」

「あの子、もちろん持病で掃除が行き届いているのが好きだったけど、本当にハウスクリーニングするジョセフ君が好きなのよ。だから、そのスキルマーケットだけじゃなくて、掃除を続けてくれたら、きっとソフィアも喜ぶわ……」

「あ、はい……」

「私も、応援してるから」

 そう言って、アメリアはジョセフにウインクをして、「今日はありがとう」と、言って会館を後にした。

 ジョセフは慌てて後ろを振り返って、もう一度深々と頭を下げた。

「ありがとうございました」

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