030 目に頼るようじゃまだまだってこと
冒険者には会わない。
そう決めたところで、視界の先に開けた空間があるのを捉える。
暗視のスキルのおかげか、地下でも昼間のように明るく見えるがレベルが高まった今でも相変わらず遠くは別らしく、離れた場所は依然少し暗く見えづらい。
しかし、それでも近づけばハッキリと見えるようになるわけで、この横にも縦にもちょっと広い以外は直線しかない通路で開けた空間があるということは………
やっと分かれ道まで戻ってきた~!!
ここでこっちに進んだのが間違いだったんだよなぁ…。
振り返りつつ、思う。
ここで勘に任せてここだっ!と一番左の通路を選んだのが間違いだったのだ。
もうこのような間違いはしないよう、今度からは確固たる理論に基づいて確実な道を選ぶべきである。
……まぁ、この魔物だらけの地下樹海に確実な道とかあるのか疑問だが。
さて。
分かれ道まで戻ったところで、私は一旦歩みを止める。
気配察知で周囲を探り、怪しい気配がないことを確認する。
……そういえば、魔力感知で気配察知の真似事ができるって鑑定先生が言ってたな…。
ちょっとやってみるか。
気配察知みたいなことってことは、周囲の魔力を感知して気配を探るとかそんな感じなのかな。
魔力感知を含む一部のスキルは、意図的なオンオフはなく基本常に発動し続けている。
というかそういうスキルのほうが多い。
だが、意図してその出力を上げたり、一部のものに集中させたりすることは可能だ。
つまり、操作である。
……むむ!!
魔力感知で感知できる周囲の魔力に意識を集中させ、周囲の状況をその魔力によって探ってみる。
洞窟の中とはいえ、ヒカリゴケによる多少の光と暗視のスキルによる明るい視界が確保できていたので、正直これまでこの手のことはあまりやらなかった。
漫画風に言うと、目に頼ったやり方、というのだろうか。
それに、私の中での魔力感知は、体内の魔力をより正確に把握する、いわば魔力操作の補助みたいな立ち位置だった。
私の中ではその価値観で固定されていて、これまでは自分以外の周囲の魔力を積極的に感知しようという考えすら浮かばなかった。
こういう、感覚による周囲の状況把握みたいなのは強いて言うなら気配察知がそうかもしれないが、あれはあくまでも周囲の気配を探るものであって、無機物の把握までできるわけではない。
お、おぉぉ…。
そのためか、私は魔力感知による周辺の把握を始めたとき、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
最後に魔力感知による自分以外の魔力の感知を意識したのはいつだったか。おそらく、魔法を習得した前後辺りの、あの川辺の空間での修行のときじゃなかろうか。
あの時は、魔力感知のレベルが低かった。
自分の魔力すら大きな流れでしか把握できないような感じで、周囲の物質の魔力なんて、あの魔鉱石とかいう石以外には感じることすらできなかった。
だが、今はどうだろう。
今の私の魔力感知のレベルは5だ。
かなりレベルが上がった。自分の魔力はもちろん、周囲の魔力だってそれなりに感知できるくらいにまで、上がっていた。
────それは、まさしく小説や漫画で読んでいたような感覚だった。
目を瞑っているのに、周囲が分かる。
目で見ていないのに、背後の地形が分かる。
まだ正確ではない。まだ範囲もそこまで広くない。
壁を構成する植物一つ一つの形や、風がないためか揺れることのない草葉の細かな形は分からない。
だがそれでも、私の周りには空気があって、横にどれだけ歩けば壁に当たって、地面の形はこうなっていて、足がつかえそうな太く大きな根がこの辺りに生えていて、天井までの高さはどのくらいで……。
分かる。
全てが、分かる。
目で見なくとも、周囲の地形が、分かる。
こういうのをおそらく、"世界が広がったような感覚"というのだろう。
おぉぉぉ!!!!
す、すげぇ…!なんだこりゃぁ…!!
目に頼っていては弱いとかなんとか、どっかの漫画の登場人物が言ってた気がするけどその通りだわ。
これだけ周囲を把握できる力があるなら、むしろ目視のほうが補助でしょ。
これまでこの力に気が付かなかったのは損だなぁ…。
もしこれをもっと早く習得できていれば、あの黒いアラネアに奇襲されて絶体絶命に陥ることもなかったのかな。
……いや、それは分からないか。もしかしたら魔力感知ですら感知できないくらい気配を消せるのかもしれないし。
…まぁ、終わったことはいいや。
次にあいつらにあったときに気配を察知できるように強くなればそれでいいのだ。
これも、その第一歩である。
さて。
思わぬ形で新たな力を発見してしまったわけだが、それはそうとして今後のことを決めなくては。
アラネアの大群に襲われて死ぬかと思ったけど、その代わりに私はレベルアップして、さらに進化した。そのおかげで鑑定のレベルが上がって、ステータスもスキルも見れるようになった。
まだ試せてないけど、多分これ私だけじゃなくて他の魔物のスキルとかも見れるよね?
今までも見れる範囲は同じだったし、おそらく見れるはず。
となると、今後は前よりも正確に自分と相手の実力差を測れるわけだ。
私は当然強くなりたい。そのために探索してると言っても過言じゃない。
しかし、だからと言って無茶をして死にたくもないので、できるなら安全にレベルを上げたい。
というわけで、今後はできる限り身を隠して探索しつつ、魔物と遭遇したらまず鑑定してみる。
で、勝てそうなら奇襲。無理そうなら隠れてやり過ごすか、見つかったら逃げる。
これでいこう。
あ、あとあれだな。
強くなるなら魔法の練習もしなくては。
前々から思っていたことだが、魔法はどうやら他のスキルとはレベルアップの仕組みが違うっぽい。
これだけレベルが上がってるのに魔法は一向にレベルが上がらないし、逆に川辺では練習してるだけでレベルが上がってた。
つまり魔法は、熟練度を上げて上のレベルの魔法に近しい技術を習得しないとレベルが上がらないのだろう。
これまではそうは思いつつも、ワンチャンレベルアップでも上がらないかなとか思ってたんだが、今回のことで流石に無理だと諦めた。
……探索しながら魔法の練習…できるかな?
あ、
でも、新しい魔法の習得はちょっと難しいかもなぁ、周囲の警戒とかもしつつになるし。
いくつか試してみたいことはあるけど、それも移動しながらほいほいできるかというとちょっと不安だし。
というか、いざ魔物と戦闘するってなったときに魔力が減ってたら不安だな。
うん、探索中に魔法の練習までするのはやめとこう。
……よし、魔法の練習は仮拠点を作ってから腰を据えてやろう。
となると、今後の探索は、隠れて移動しつつ魔物を殺して経験値&メシゲット、その後土魔法で仮拠点を作って魔法の練習…を繰り返していく感じになるかな?
…これまでとあんまり変わらないような……。
いや、そんなことはないな。うん、立派な方針だ。
さて、そうと決まればいざ探索開始である。こんな分かれ道でいつまでも突っ立っていても仕方ないしね。
……うーん、とはいえいざ行こうと思うとどの道に進もうか悩むな。
今来た道、真ん中、少し離れて右、そして川辺の空間への入口がある方に戻る道。
………右だな。
かの高名なハ○ターも迷ったら右だって言ってたし。
クラ○カ理論だっけ?無意識で左を選ぶ傾向があるからあえて右を選ぶってやつ。
なんかそれ自体が無意識で右を選ぶようになるある種の思考誘導みたいだけど、まぁ迷って決め兼ねるよりかはいいでしょう。
ではいざ!
強くなるため、生きるために!
しゅっぱぁ〜つ!!
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