028 ゲロ以下の臭いと味

 進化してからしばらく。

 私は、死骸の山につられて他の魔物が来ることを警戒して1度穴の中に戻ってからステータスの確認を始めた。



『《フレアヴァルプス Lv.3

 ステータス

 名前:なし

 魔力:310/310(+103)

 体力:220/220

 基礎攻撃力:74

 基礎魔法力:87(+29)

 基礎防御力:65

 基礎抵抗力:49

 基礎敏捷力:512

 スキル

 〈魔力感知Lv.5〉〈魔力操作Lv.6〉〈視覚強化Lv.4〉〈嗅覚強化Lv.6〉〈暗視Lv.5〉〈気配抑制Lv.4〉〈気配察知Lv.5〉〈記憶Lv.5〉〈鑑定Lv.6〉〈威圧Lv.4〉〈思考加速Lv.6〉〈魔力循環Lv.3〉〈魔闘気Lv.4〉〈魔鎧Lv.3〉〈魂思考〉〈魂記憶〉〈第六感Lv.5〉〈自動回復Lv.6〉〈体力回復Lv.6〉〈尖牙Lv.7〉〈尖爪Lv.7〉〈火魔法Lv.4〉〈風魔法Lv.2〉〈土魔法Lv.2〉〈火耐性Lv.6〉〈毒耐性Lv.4〉〈痛覚耐性Lv.6〉〈恐怖耐性Lv.3〉〈虫殺し〉〈アラネア殺し〉〈渡り者〉》』



 現在の私のステータスはこんな感じ。

 正直、強いのか弱いのかよく分からない。まぁ格別に弱いってわけじゃないとは思うのだが…敏捷力とかは特に、私よりレベルの高い魔物よりも足が速かったりしたし。


 ただ、鑑定がレベル6になってステータスやスキルが見れるようになってから、その性能を振るったのは今のところ私のみ。

 アラネアの死骸を鑑定したところでアラネアの死骸としか出ないのはこれまでのことで分かり切ってるし、気配察知で察知できる他の魔物の気配もなし。


 つまり、私の比較対象がいないのだ。

 まぁその辺の虫の魔物を比較対象にできるのかという疑問もあるが、とにかく最低限の比較対象すらいないので、自分が強いとも弱いとも一概には言えないのだ。


 自分がこの場所でどの程度強いのか──全体で言えば最底辺だとは思う──は、今後の動きに関するシンプルな指標になるので早めに把握したいところだ。



 まぁそれはそれとして。

 強さ弱さに関わらず、とりあえず自分のステータスを見ていこうと思う。

 自分の性能把握である。


 まず、魔力と体力。

 魔力は分かりやすい。そのまんまだ。

 魔力の方が高いけど、なんかカッコでプラスされてるし元の数値は体力多め?

 それか、シンプルに310 + 103の魔力量413なのか。

 ……そんな面倒な表示の仕方するかなぁ…?

 …これは要検証だなぁ。


 で、問題は体力。

 これ、HPってことでいいのかな。

 それともスタミナ?分からん。もっと分かりやすい表記にしてクレメンス。

 これも要検証。


 …というか、詳細表示とかしてくれないのかな。

 いい加減レベル6だし、これだけ情報量増えたならいい加減詳細な説明とかも追加してほしいんだけどな。

 特に体力とか~!!見たいんですけど~!!


『体力。

 運動量の限界と空腹を数値化したもの』


 うぉ!??

 えっ、あ、ありがとうございます…。


 いや、じゃなくて!!

 説明を表示するんじゃなくて説明んかい!

 レベル6になったから…?言ってみるもんだなぁ~。

 しかし、これで体力の謎が解けた。

 スタミナと満腹度の合計ってことかな。…あ、いや、合計ってわけでもないのか?それだとなんか色々齟齬が生まれる気がする。


 …どのみち要検証かぁ。

 はい、じゃあ魔力は?


『魔力。

 魔法と一部のスキルを発動させるのに必要な生命エネルギー』


 ほうほう…。

 一部のスキルっていうのは〈魔闘気〉とか〈魔鎧〉のことかな。

 こうやって数値で見れるようになったなら、どのスキルや魔法でどれくらい魔力を消費するのかは検証したいなぁ~。

 よし、あとでやろう。



 さて、じゃあ次は攻撃力とかか。

 シンプルに攻撃力、とかじゃなくて"基礎"ってついてるのはどういうことだろう。


『基礎攻撃力。

 攻撃的動作で発生させられるエネルギー量の平均値を予測し、数値化したもの』


 ほうほう。

 …つまり私の攻撃力の平均ってことか。

 ……ん?いやでも、予測?どゆこと?平均を計測しているわけではないの?

 …いや、まぁスキルとか魔法とかもあるし、完璧に計測できるわけではない……ってこと、なの、かな?

 いや、ダメだ。分からん。

 まぁとりあえず今はいいや。


 ちなみに、他のステータスの説明もほぼ同じだった。

 平均を予測ってどういうことなんだろうね。



 さて。

 まぁとりあえずステータスも見終わったところで、本題だ。

 つまり"スキル"である。


 ようやく!

 これでようやく、スキルの詳細が見れるぅ~!!

 ここで自分の全てをしっかり把握して、今後にしっかり活かすのだ。

 っていうかそうしないと私自身の命が危ない。

 今回は運よくなんとかなったけど、また同じように大群に襲われて次もなんとかできる保証はないのだ。


 それに、結局ここまででフレアヴァルプス的な要素は見つけられなかった。こうなると、もはやスキルにフレアヴァルプス的な要素とかがあるとしか思えない。

 それを見付けたい!使いこなしたい!という欲求も、スキルを見たいという気持ちを強く後押ししていた。



 その後、私は上から順にスキルを一つ一つ確認していき、自分が今持っているスキルの詳細を全て把握した。

 中にはこれまで分からなった効果があったりして、まるでゲームで自分の装備を整えたり試行錯誤したりするような、中々に楽しい時間を過ごすことができたのだが、長くなるためここは割愛する。

 ちなみに、結局スキルにもフレアヴァルプス要素はなかった。


 なんでだ~!!と思い試しにフレアヴァルプスという種族そのものの説明を求めたところ……


『フレアヴァルプス。

 火属性を得意とするヴァルプスが進化する。

 低レベルの火魔法を扱い、火に耐性を持つ』


 という説明をされた。

 つまるところ、私は進化前からすでにフレアヴァルプスを上回っていたらしい。

 嬉しいような、期待外れで悲しいような。

 …いや、喜んどこう。私は強かった。そういうことだ。






 苦味のある重い脂の塊。

 こってりとかそんな生易しいものじゃない、苦味とエグ味と脂身の混じった肉感のあるナニカが口の中に広がり、私は思わず吐き出しそうになるのを必死で堪える。

 例えるならそう、旨味を抜いた肉の油と味のないガムを混ぜ合わせて、そこに苦味と汚臭を追加した感じ。

 あまりの不味さに涙が出てくる。あ、鼻水も出てきた。…ウッ、胃も出てきそう。


 ……そんな私の目の前には今、真っ黒な外骨格に覆われた、濁りきった白色の肉塊があった。


 なにをしているのかって?

 そりゃもちろん、食事だ。


 一通りスキルを見終えた私は、それらスキルやステータスの気になる点を検証すべく色々と実験をしていた。

 これもその一つで、食事で体力の数値にどの程度影響が出るのかの確認だ。

 先ほど死骸の山を全力で走りまくり、体力は若干減らしてある。

 だいたい今は 『体力:196/220』ってところだ。

 この時、ついでに私のスタミナがどのくらいあるのかも検証してみたのだが、驚いたことにどれだけ全力で走っても体力がある限りは息切れすらもしなかった。たった20くらいしか減ってないように見えるが、これでもかなり全力でそれなりに長時間走ったので、私のスタミナは相当なものであるらしい。

 流石、キツネの魔物だなぁ。


 どこまで体力が減れば息切れしてくるのか試してみたくはあったが、そこまで走り続けるのは面倒だったのでとりあえずやめておいた。



 で、今に至るわけだが。

 普通にそこら中にあるアラネアを食べても良かったんだが、せっかくなら私を散々追い詰めてくれやがったあの黒いアラネアアサシネイトアラネアたちを食ってやろうと思い、その外骨格を爪で破壊してかぶりついてみた。

 結果、この世のものとは思えないような不味さに悶絶するハメになったわけである。


 ぐああああ!!!まっずなんだこいつらっ!!?

 あり得ねぇ!!嫌がらせか!?食べる相手がひたすら嫌がるだけの味を提供いたしましょうってか!!

 ぐうあぁっ!まだ口の中にぃ!味と臭いが残ってるっ!!

 ああぁぁぁ!!おえぇぇぇ!!ぺっぺっぺっ!!!


 結局その後、口の中に残り続けた最悪の後味を誤魔化すべく普通の白いアラネアを食べまくったのだが、あまりにもインパクトが強すぎたためか中々消えてくれず、体力が満タンになってからもしばらく食いまくったのだった。


 なお、体力自体は一匹を半分も食べきる前に満タンまで回復したので、アラネア一匹で体力が40~50程度回復しそうだな、ということが判明した。


 ぐうぅぅ……もう二度と食べねぇ、あんな生ごみ……。

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