其の三・・・淡き光
第14話 兄と妹
そして時は流れ、タケとタケルのふたりは、
雄々しい妹と寄り添う兄に・・・?
「ほーい、落ちるぞー!」
女の子が木に登り、大ぶりの枝にまたがって自分の前に伸びる分かれた枝の一方がメリメリと音を立てて地面へと落下していくのを知らせました。あたりには色んな歳の子たちが散らばって薪拾いをしています。
一人の男の子がまわりの枝を拾いながら、時折り女の子が切り落とす枝を他の子に渡したり自分の背中のカゴに入れたりしています。
女の子は「拾ってまわるより、切った方がお気に入りが取れる」といつの頃からか『薪拾い』といえば木に登ることじゃ、とばかりにおとうが作った小ぶりの斧を持ち出してくるようになったのです。
もちろん、この二人がタケとタケルなのですが。
その斧はおとうがタケルに、と用意してくれた小さな、おもちゃのような斧でした。それでもちゃんと使えば枝の二本や三本は切れるようになっています。おとうがタケルに使い方を教えていて、あまり器用でないのかなかなかうまく切り株の上に置いた枝を切れないのを横で見ていたタケは、タケルの練習が終わったあと、斧を持ち出すと、何度かああでもないこうでもないと振り回しているうちに使いこなしてしまったのです。
そしてどういうわけか、とてもこの斧では間に合いそうもないと思えるような太い枝でも切ってしまうようになりました。斧を傷めるようなこともなく。
三人の子がタケルに近寄ってきました
「タケはよう、何であんなごっついことばっかりやるんじゃ?」 この中では一番年上の
「そうじゃ。
「タケの勝手じゃ、おら知らん」 タケルは口をとがらせました。
「ま、タケのおかげで薪もよう集まるんは確かじゃけどな」 伝太は一応、いいことも言うようです。
「おまえ、ほんまにタケの兄ぃか? 弟でないのか?」
「んじゃ、なりもタケの方がでっかいわ」 一人の子が言うのにつられてもう一人も言いました。
子らで顔を見合わせながら「んじゃ、んじゃ」と納得し合います。
またいつものからかいが始まりました。
タケルがべそをかき出しました。それを言われると、じわじわと涙が湧いてきてどうしようもないのです。
「こらー! またタケル泣かすかあ!」
飛び降りるようにして枝から降りてきたタケがタケルを自分の後ろに押しやると、身に添わぬ小さな斧を肩にかつぎ、片手を腰に当てて仁王立ちしました。これも結局からかいのネタにはされてしまうのです。
「おまえ、金太郎かよ?」 また伝太です。
「金太郎? 誰じゃそれ?」 タケも負けじと言い返します。
「知るか! そんな名がちょーど良さげじゃから言うてみただけじゃ」
「そーじゃ! タケが使うたら、ちっこい斧もまさかりになっとるわ!」
「んじゃ! まさかりかついだ金太郎じゃ! 熊っこと相撲でもとってろ!」
「ガハハハハ!」 タケが大笑いしました。「いつでも熊っことってこいや! とれるもんじゃったらな。ブン投げてやらあ!」
三人の子は思わず黙りました。タケなら本気でブン投げそうだからです。
な、タケル、とタケが振り返りました。タケルはあまりの言い合いの迫力に大粒の涙をほっぺたいっぱいにためていました。
「泣くな、タケル!」
タケが一喝しました。
「また薪拾いに斧持ってったのか?」
二人が集めた薪を家の裏の置き場に置いて戸口まで戻ってくると、おとうが出てくるなりタケに聞きました。
「んじゃ。落ちてるのばっかしじゃ細いのんばっかしになるべ」 タケが答えます。
「じゃからて、そこらの木の枝むやみに切るもんでないていっつも言うとるじゃろが」
「タケのおかげでよう薪が集まるてみんないっつも言うとるべ」 涙で目の下にくまができているかのように汚れているタケルが答えました。どちらかというといつもタケの味方をしています。
「どっちにしろ、それはタケルの斧ぞ」 タケがかついでいる斧を見ておとうが言います。
「タケルはヘタくそじゃ。おらが使う方がええ」 すました顔で言います。
「!」 タケルはびっくりしてタケを見上げました。
「な、タケル」 見上げるタケルを見下ろします。
「う・・・うん」 タケルはうなづきました。正直、斧を振るうのは苦手でした。おかあの手伝いでカマドのそばにでもいる方が気持ちが楽なのです。
「ええのか? タケル」 おとうが聞きました。
「うん・・・おら、木切るより包丁で菜っぱ切りたい」 タケルがぼそりと言いました。
「・・・そうなんか」 おとうが苦笑いするように言います。
おとうは戸口に向かうと、中のおかあに叫びました。
「おかあ、今日は久しぶりにトリ絞めるぞ!」「あいよー!」 おかあの声がすぐに返ってきました。
タケとタケルの顔がパッと輝きました。おとうがそのまま村の鶏小屋の方に歩いて行きます。
「晩御飯は鶏鍋じゃ!」 タケルが嬉しそうに言いました。
「おかあの鶏鍋は村一じゃ」 タケも言います。
「おら、絶対おかあの鶏鍋作れるようになるんじゃ」 タケルが生き生きしてきました。
「おらが一番に食ってやるべ」
「うん!」
タケルが返事した時にはタケはすでにおとうの後を追いかけて、そばにはいませんでした。
「おとう! おらもトリ絞めてみるべ!」
そんな声だけがタケルの方に返ってきました。
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