星の戯れ 竹取物語変化

龍月小夜

第1話 星になるもの

果てしれぬ宇宙。


星々のひしめく、とある一点。


『太陽』と呼ばれることになる星の庇護のもとに、


『月』と呼ばれるものと共に


その限られた空隙をめぐる『地球』と呼ばれることになる星。




地球は、太陽や、宇宙の営みがもたらすその運命的な自らの容貌に、


他の星たちとは異質なものを感じていました。


   

   ・・・そう、太陽を囲むここにやってきたそもそもの目的が違うのだ。

      他の星々とは。



地球となる『意識体』は、ここに星になれる混沌が渦巻いているのを見つけ、


望んだ通りに、その真っ只中に飛び込んだのです。


様々な、物質になりかけの原子や分子を集め、自身の『塊』を造っていきました。


他にも、次々とここに身を投じるものたちがいました。


一際巨大になり、星々の中心になろうとするもの、そのまわりを、ただ星になって


宇宙を巡って暮らそうというもの・・・・


様々な想いの中で、それぞれの場所へ収まっていきます。


そして、やがて、いくつもの、太陽を中心にそのまわりを巡る星たちが生まれ出たのです。


その中でも地球の容貌は、時がたつにつれてどんどん他とは違っていきました。


幸運にも、正に、望み通りの場所を得ることができたのですから。


ちょうど、ご機嫌な姿となってくれた太陽から、遠くもなく、近くもなく・・・




地球はうっすらと、霧のような薄衣うすごろもをその身に纏い始めました。




地球は、もっと異質なものになりたいと思いました。


そして、思い出したのです。


一つの『意識体』として故郷を旅立った頃の想いを。


   星になって、その表面を『生きもの』たちで満たしたら、

   それらはどんな風にその姿を変えてくれるだろうか?

   太陽や、この宇宙の営みだけでは成し得ないような姿に

   変えてくれるかもしれない。


   どこまで『異質』なものになれば、

   みんな集まってくれるのだろうか?   



地球は大地を震わせ、炎を噴き上げ、隕石の雨を呼び、


雷鳴と巨大な嵐で我が身を包み込みました。


熱し、冷やし、


太陽や宇宙の営みの力を借りて、


ありとあらゆる『物質的』な変化をその表面に巻き起こしました。


『生きもの』たちの種がもたらされることを期待して。


やがて、いくつもの大地の部分を残して、大海原が表面を碧く覆いました。


もはや、纏っているのは、薄衣ではなく・・・


太陽は、豊かな雲の隙間を縫って、海原に、大地に、幾筋もの光線を送り込んでくれます。


微生物たちが次々と生まれ、死に・・・


そして、どんどん増えていきます。


見事に、その表面に『循環』が機能し始めました。




そして、


じっと待ちました。


この姿を、より『美しく』変えてくれるものたちが、


表面に現れるのを。


故郷を旅立った意識体たちがこの『星』を選択し、


もたらされた『種』を利用してここに集い、美しく喜びに満ちた世界を現し、


『体験』してくれることを夢に見ながら。


『星』を選択した意識体はやがて丸く収束した『魂』となって、


その星の上に『生きもの』としての生を受け、


自らの世界を構築する・・・


そしてその美しい体験を『故郷』に持ち帰れば、


故郷は進化し、進化した美しい意識体たちが再び宇宙へと旅立っていく・・・


そのために自分は、その場を提供するものとして


『星になる』ことを選択したのだから・・・。



やがて、『人』と呼ばれる、そんな生きものたちが表面に現れてきました。


やってきた魂たちは次々に色々な生きものの中に降りていきます。




ただ、


地球のまわりをくるくると巡る小さな『月』だけが、


地球になった意識体の、そんな思いつきをカラカラと笑っていました。




『月』には『月』の言い分がありました。


自分もなりたかったのです。地球のように。


ただ、時がほんの少し遅かった。せっかく見つけたこのまとまりかけの混沌には、


『地球』がすでに収まっていたのです。


もうここに新たな『星』が入り込む余地は残されていませんでした。


端の方に何とか紛れ込んだとしても、思うような星にはなれません。


しかし、他を探そうにも、ここの『太陽』はあまりにも好ましすぎる・・・



   全く、何と、うまくなったものだろう! 他にないくらい。



『月』となる意識体は『太陽』を諦めきれずに割り込んだのです。


地球のすぐそばに。強引に。


それが『月』としての『不幸』の始まりでした。


星になれるほどの材料を集めることもできず、小さな岩石の塊になるのが精一杯で、


薄衣さえ纏えない・・・


そして、何よりも地球に近すぎました。


そのため、太陽を巡る軌道を獲得することができず、地球に囚われてしまった・・・


地球のまわりをくるくると巡る道を行くしかなくなってしまったのです。


思うような選択ができなかったのです。


地球はこれからやって来て『魂』となるものたちを受け入れるために、


着々と準備を進めている・・・


それは、この自分もやりたかったこと・・・。



月は、地球を『逆恨み』するようになりました。


嫌でも地球からは逃れることができないのです。


しかし、皮肉にも、月のお陰で地球の海岸には潮の満ち引きがもたらされ、


その地表に植物たちを生い繁らせて、


ますます地球は『魅惑的』に変貌していきます。


その様子を、月はただ縛りつけられた場所から眺めているだけ・・・


自分はこの荒涼とした表面に、


魂たちを住まわせられるような変化を起こすことができない。


生きものを獲得することができないのだ。


こんなに近くにいながら・・・




地球は、無理やり入り込んできて勝手に『連れ』のようになってしまった月に、


結果的に『循環』の一助となってくれたことで感謝こそすれ、


決して悪いようには思いませんでした。


それでも、『月』のことは、『地球』にもどうしてやることもできないのです───















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