不器用で不義理な少年

@syuimee2

不器用で不義理な少年


東京のとあるアパートの一室。





少年は徐に家中にある薬を集めて、全部飲み干した。




これは、不器用で不義理な少年の話。









とある小学生の少年がいた。




その少年は、野球が好きで、走ることも好き、

小6になっても追いかけっこするような活発な子だった。




そんな少年には2人の両親と双子の弟がいた。



父は野球を勧めてくれた活発な人で、

よく家族を旅行に連れて行ってくれるとても家族想いな人。



弟は人見知り気味ながらも、妙に賢い子だった。




そんな子たちには、1人の困った母がいた。

※いまでは和解していて非常に助けられています。



妄想癖が酷く、子供達の友人たちの母親に被害妄想を伝えたり、



子供はアレルギーを持っていないのに、

自分と同じアレルギーを持っていると思い、



子供達は、宿泊行事ではアレルギー食を食べていた。



いわゆる「モンスターペアレンツ」というやつだ。



たまにモノをただ投げたり食事をひっくり返すようなこともあった。




でも子供達はそんな母のことも愛していた。

少し困った性格をしてはいるものの、



非常に家族想いなのがなんとなく伝わっていた。



でもそんな親子仲もヒビが入り始める。



ことの始まりは中学受験。


母は非常にレベルの高い中高一貫校に入学してほしいと思い、

色んな塾に行かせた。



少年たちは始めは母を喜ばせたいと思い、頑張った。


頑張った。



だが、少年たちは好きなモノを奪われた。



友人。

幼稚園の頃から通っていた思い入れのある野球スクール。

楽しげに読み漁っていた歴史マンガ。



少年はいつしか笑顔を浮かべなくなった。




中学に入り、能面の様な表情を顔に貼り付け、



ただひたすら勉強と親に勧められた野球部を黙々とやった。



その頃には野球は嫌いになっていた。




1日の息抜きは家に帰って気絶する様に寝ること。


学校に行けば、また気まずい1日が始まる。




難しい勉強、厳しい部活の指導。


全部楽しくなくなった。





笑わなくなった。




でもそんな少年も転機があった。



中学3年生になって、初めて中学での友達ができたのだ。



少しチャラいけど、

必死に少年を笑わせようとしてくれるような茶目っけのある楽しい同級生だった。




いつしか少年は笑顔を浮かべる様になり、


友達とカラオケに行ったり遊びに行くようになった。




非常に楽しい日々だった。





でも、そんな日々を終わりを迎えることになる。



中3の冬。




少年は脳に違和感を覚え始めた。


思考が不明瞭で、気分も落ち込んでおり、何もやる気が出ない。




酷い時は吐き気、極度の頭痛、周囲への不信感等々。




それは次第に酷くなっていき、不登校になる。



そこは少年にとって地獄の日々だった。



周囲の全てに反抗し始める。




学校に行けと言う両親、リビングから聞こえてくるテレビの音、笑い声、朝になって聞こえる小学生たちの元気な登校姿。




全部、全部ノイズで、嫌になった。




そんな少年も危機感を覚え始め、少しずつ行動を起こし始める。




まず自身の症状をノートに記録し続けた。



特に違和感を感じたのは気分の落ち込み。





両親に買ってもらったスマホで必死に検索した。



気づいたら精神科を探し始め、自分1人で行くようになる。



だが、そこは中学生の金銭状況。



とてもじゃないが通い続けるお金は無い。




そこで少年は少し離れたところにいる祖母に頼ることに決めた。



祖母の家に訪問して、記録したノートを片手に祖母に必死に訴えた。



涙と鼻水だらけで訴えかける孫の姿を見て、

祖母は両親に言わずにサポートしてくれるようになった。



色んな精神科を訪問してどうにか改善できる手段を探し続けた。



果ては、いつの間にか曲がり始めた腰で歩きながらも祖母は少年と治療法を探し続けてくれた。




要は自分でも何の病気かわからなかったのだ。




しかも周囲への不信感。

医師の言う言葉が全て信じられず、文句を言ってしまった。




祖母に助けられてからしばらくして、

少年は動く元気もなくなり、ベッドで横になり続けるようになる。



それでも、どこかに逃げたくて気づいたら好きな江ノ島沿いを歩いてたり、当てもなく散歩もした。



でも限界を迎える。



少年はこの状況を抜け出す最悪の手段を思いつく。



自殺だった。




自殺して人生をバックれればこの苦しみから解放されるのではないか。




後になって思い返せば、当時でも精神医療はかなりの発達を迎えていたし、治療法なんていくらでもあったはず。




でも視野の狭すぎる少年は狭い狭い自分の部屋の中で、1人決めてしまった。




自殺しようとは思ったものの、手段が思いつかない。


少年は臆病で、投身は痛いだろうし、首吊りも痛いと聞いた。



結局、少年は家中にある薬を集めて、OD、オーバードーズで自殺を図った。



バファリン、ルル、ロキソニン、パブロン、よくわからない薬まで飲んだ。



本来なら人を助けるはずの手段を身勝手な手段に使ったのだ。



とにかく錠剤を飲み続けた。


飲み続けた。




40錠ぐらい飲んだ頃に、極度の吐き気を催し始める。

気も失いそうになる。



でも、気づいたら涙が出ていた。




臆病でちっぽけな少年にはその苦痛が耐えられなかったのだ。




気づいたらちょうど家にいた父親に助けを求めていた。




「自殺しようとして、薬をいっぱい飲んだ」




顔を真っ青にした父を横目に少年は横たわる。

ああ、みじめだな。




ピーポー。ピーポー。

サイレンの音が近づき始める。




自力で寝巻き姿のまま救急車に乗り込んだ。


周囲には見物に来た近所の人たちが大勢見ていた。



なかには顔見知りの人もいた。




車内の担架に横たわり、救急隊員の人たちに意識の有無や症状、事情を聞かれた。



搬送先の病院を駆け回り、受け入れてくれる緊急外来の病院に運ばれる。




色んな検査器具で検査を受け、気づけば集中治療室にいた。



周囲には先客がいた。



おそらく大事故で傷を負ったであろう姿の方、うめき声を上げている方、場違いさを感じつつも少年は虚無にその中のベッドに横たわる。




気づいたら家族が面会に来ていた。




ベッドの近くに両親や双子の弟、助けを求めた祖母の姿があった。




一様に痛々しそうな表情で涙を堪えながら、じっとこちらを見つめていた。




少年は自身のした行為のとんでもなさ、愚かさに気づく。



もうこんな表情をさせないために必死に生きないと。


恩返ししないと、と。





それからは呻き声の上がる緊急外来の部屋で眠りにつき、常駐で見守りをしてくれたナースの方たちに手助けをしてもらった。




それから2日後、次の受け入れ先が決まった。




再び救急車で運ばれた先は、精神病棟だった。



まっさきに案内されたのは監獄のような部屋。




固いベッドには拘束具が巻かれており、自身を傷付ける要因になるものが排除されている部屋だった。



壁のない便座、定期的に挿入口から入れられるトレーに乗った味気ない食べ物。



夜になると隣の部屋からは女性らしき人の叫び声がずっと聞こえていた。



一面真っ白かつ平らな部屋の中で少年はずっと天井を見続けた。






数日経って、問題ないと判断されたのか病室らしい清潔感のある部屋へ移動した。



時間になったら食事を摂り、時間になったら問診を受け、時間になったら浴場に入る。




無機質な日々だった。




でも少年の心は燃えていた。






幸せになって両親を安心させる方法をずっと考えていた。




好きなことや挑戦したいことに挑戦したり、仲間達と己を高め合う、そんな日々を目指した。




その病院で診断を受けた結果、あっさりと病名は発覚した。



躁うつII型。適切な投薬を受ければ大きな問題は起きない。





それから退院し、学校を通信制の高校に転校して他の家に居候することになる。



そして、必ず両親の前では笑顔を見せるようにした。




それからは怒涛の日々が始まる。



リハビリ、勉強のやり直し、レポート、気になったイベントへの参加、家族と出掛けたり、受験勉強をしたり色んなことに挑戦し始める。




いつしか少年は青年になり、専門学校に入って映像を学び始める。



色んな仲間と己を高め合うようになり、家族仲も温かくなった。


旧知の親友とも再び親交を得るようになった。






少年はとてつもない不義理な失敗をした。



その結果、償いなのか一生付き合っていかないといけない病も発覚した。




忙しいときや体調悪いときには吐いたり横に寝たきりになったりはするものの、



青年は不器用に上を向き続ける。




これからも苦難は訪れるだろう。




なかなか理解を得られない病、他人に知られたら離れられるんじゃないかと言う恐怖。



せっかく築き上げた関係が壊れるのは怖い。



実際に避けられた経験もある。



いずれか孤独になることもあるのかもしれない。




それでも。




それでも、


色んな失敗を重ねて成長していく。




家族に恩返しを。






生きねば。

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