↓第53話 すべては終わり、はじまりをむかえる
こうして事件は終わりを告げた。
目を覚ましたアンヘルは警察に連行され、犯した罪を償うことになる。
農場を経営するベンも、共犯の疑いで逮捕され、事情聴取を受けることになった。
盗まれた羊は無事保護され、みんなソルのもとへと返される。
カミールの血を輸血したビリーは、無事にもとの身体に戻った。
利用されていたとはいえ、それなりの罪を背負った彼女は、自らの罪を自白する。
すべてを終えるまでは、エリーザが研究を引き継ぐことになった。
そして迷子たちは、4日目の午前中にトランシルヴァニアを発つことになる。
別れのとき。
ヘリポートに見送りに来たのは、ウェルモンドとソルだ。
「世話になったな」
「こちらこそ。ウェルモンドさんもお元気で!」
「また来いよ。とびきりのチーズをご馳走してやる!」
「ありがとうございますソルさん! 覚悟してください、わたしの胃袋は宇宙ですから!」
うららとゆららも、二人と握手を交わす。
するとウェルモンドが、
「そういえばミズ・メイコ、少し気になることが」
「なんです?」
「その手帳、カタルシス帳とか言ったな」
「はい。おばあちゃんから頂いたわたしの宝物です」
「教会に保存されている古書は、いまだに揃っていないナンバーがある。ウェルモンド家にもその一冊があって、祖先から代々それを受け継いでいるんだ」
ウェルモンドは鞄から古書を取り出し、ページをめくる。
「その一部にこんな絵が記されている。どうだ、そっくりじゃないか?」
そこにあったのは本の絵だ。
カタルシス帳にそっくりの。
魔導書のように豪奢なつくりが、実に細かく描かれている。
「なんでも突如あらわれた賢者が、俺の祖先を救ったらしい。不思議な力をつかい、戦場を治めたとか」
古書のページをめくると、賢者があらわれたときの様子が絵で再現されていた。
画面中央でカタルシス帳らしきものを掲げているのは女性だろうか。その周りで魔物が苦しんでいるような姿が描かれている。
「う~ん、たしかにこの絵はそっくりですね……」
「でも迷子、これがなにを意味してるっていうんだよ?」うららが問う。
「おそらくわたしの予想ですが――」
「予想ですが?」
「……さっぱりです」
「わかんねぇのかよ」
「ねぇメイちゃん、そもそもカタルシス帳ってそんな古いものなのぉ?」
「見た目はそうでもないですけど、わたしもおばあちゃんからもらっただけで、詳しいことはわからないんです。ただのメモ帳と思っていましたから」
そこでうなずきを返したウェルモンドは、
「そうか。何せ『遺作』を探していると聞いたんでな。なにかの手掛かりになると思って」
「ありがとうございます。なにかのきっかけになるかもしれませんし、また連絡してもいいですか?」
「ああ。俺はまた修業の旅に出る。端末は常に持っているから、いつでも言ってくれ」
すると草原の向こうから、カミールと執事たちが歩いてくる。
「お~い! アホ毛~!」
「あ、カミらん! ご両親はなんて?」
「うむ! 出張も一段落したということで、少し城でゆっくりするそうじゃ。まぁ、休んだらまたゲーム開発に勤しむそうじゃし。見よ! 父上と母上からのお土産じゃ!」
カミールはキャラクターのイラストが入った、大きな紙袋を二つかかげる。
中身は、とあるゲームショーで配布されたものだ。企業ブースのパンフレットや、関係者に配られるノベルティグッズが、ギュウギュウに詰められている。
「ニホンまでの道のりは長いからの! ゆっくり、じっくり眺めて愛でるのじゃ!」
「カミらん目がキラキラしてます……」
迷子が嘆息していると、上空からヘリがやってくる。
出発の時間だ。
「それではみなさん、お元気で!」
一同は日本へと旅立った――
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