↓第50話 多くの光
「かっ……かっけー!!」
化身を見たうららはいつも以上に目をキラキラさせていた。
きっとロボットを見た少年の心境だろう。
迷子たちのまわりにも羊の騎士たちが現れて、戦闘に加勢してくれた。
「よそ見はいけませんようららん。油断は禁物です!」
「でもさぁ! かっけーじゃん!」
「ダメよぉ姉さん。ケガでもしたら大変」
「へいきだって! 負ける気ねぇし!」
よそ見しながらも的確にゾンビを薙ぎ払ううらら。
ゆららもそうだが、やはり苦楽園流の暗義を叩き込まれた二人の戦闘力は別格だ。
「しかしキリがありませんね。どんどん出てきます」
「加勢は心強いけどぉ、体力にも限界があるわぁ」
「なんとかなるって! あの
「だから油断は禁物って――」
そう注意した矢先。
足元がめくれて、地面からゾンビが飛び出てきた。
《グガアァァァァッッッ!!》
迷子は吹っ飛び、ゾンビの群れの中へと転がる。
なんとか着地したが、足をくじいてしまった。
「迷子!」
「メイちゃん!」
彼女はすぐさま立ち上がるが、足が痛くて動けない。
顔をしかめながら、取り囲むゾンビたちを見上げる。
「ぐっ……まずい、です」
ゾンビの一人が、尖った八重歯を剥き出しにして襲い掛かってきた。
迷子はボウガンを盾にして目をつむるが――一向に噛まれる気配は、ない。
恐る恐る薄目を開けると、そこには壁があった。
いや、壁ではない。よく見ると、それはある生き物だった。
《グオオォォォォォーーーッッッ!!》
《ウアオオォォォーーーンッッ!!》
大岩のような巨体と、大地を揺るがす力強い咆哮。
そして鋭い眼光で相手を威嚇する森の戦士。
ブラウンベアとオオカミ。
この異変を感じたのか、迷子たちを助けにきた。
「くまさん! おおかみさん!」
ブラウンベアが大きな手のひらを一振りすると、ゾンビの身体は吹っ飛んで、それがボーリングのように後方のゾンビまでなぎ倒していく。
消滅させることはできないにしろ、いったん隙を作ることには成功した。
迷子の頭に、動物たちの意思が流れ込む。
「『ここはオレたちにまかせろ』ですか?」
ブラウンベアが、二本脚で立ったまま小さくうなずく。
「『さぁ、俺の背中に乗れ』ですか?」
オオカミはしっぽを振りながら迷子に合図する。
そこにうららとゆららも合流した。
「うわっ! なんだコレ!?」
「あらぁ、かわいい」
ゆららがブラウンベアとオオカミを撫でると、それぞれ甘えるような鳴き声で返事をする。
「メイちゃんをお願いねぇ」
迷子はボウガンを構えて、オオカミの背中に乗る。
メイドの二人も、駆け出す準備は万全だ。
「クマさん、オオカミさん。この戦いが終わったら、またハチミツ食べましょう!」
威勢のいい遠吠えを轟かせると、ブラウンベアとオオカミは大地を駆けた――
☆ ☆ ☆
「おりゃあッ!」
これで何体目だろう。
ウェルモンドはシルバーソードを振り続けていた。
白金の太刀筋が豪快にゾンビを薙ぎ払うが、まるで終わりが見えない。
「クッ、このままでは……」
不利な状況に変わりはないが、観察してわかったことがある。
上空のゼノが攻撃してこないのは、おそらく地上のゾンビを操ることで精いっぱいだからだ。そのため地上に降りることができない。
隙さえつくることができれば、シルバーソードを放つことができるのだが……。
「ぐっ……!!」
ゾンビに押され、ウェルモンドは攻撃を喰らう。
彼を警戒し、ゼノは攻撃を強めたようだ。
《グオアァァアア!!》
唸るゾンビの群衆を前に、ウェルモンドは負傷を覚悟で突っ込んでいく。
――と、外から放たれた横一閃の太刀筋が、群れの上半身を音もなく切り離した。
「大丈夫ぅ?」
崩れるゾンビの半身。その向こうで円月輪をキャッチしたのはゆららだ。
周りには迷子やうらら。ネーグルにアルヴァ。そしてカミールの姿があった。
「待たせたのじゃ!」
「ウェルモンドさん! わたしたちが来たからにはもう安心です!」
「ミズ・メイコ! 少しの間でいい、時間を稼げるか?」
「どれくらいですか?」
「30秒だ」
「それなら余裕だぜ!」と、うらら。
「姉さん、油断はダメよぉ」と、ゾンビを薙ぎ払いながらゆららが言う。
「「周りの敵は私たちが」」
レイピアを華麗に捌きながら、執事二人が合図を送る。
「心配いらん、ハイスコア更新じゃ!」
カミールが釘打ち機でヘッドショットを連発する。
戦闘準備は整った。
「悪い。任せたぞ!」
ウェルモンドはシルバーソードに実装された専用のトリガーを引く。
すると銃から二脚(バイポッド)が飛び出した。
巨大な銃身を地面に固定して、上空に標準を定める。
「クックックッ。そうはさせませんよ!」
ゼノが両腕を広げると、左右の手のひらから邪悪な光が飛び出し、それが徐々に魔物の姿を成す。
漆黒の羽をまとった悪魔だ。
ウェルモンドに向けて、急降下してくる。
「相手がちがうぜ!」
バク転を繰り返して勢いをつけたうららは、高く飛び上がり空中の魔物を討つ。
続いてゆららが、
「邪魔はダメねぇ」
と言って円月輪を投擲し、二匹目の魔物も葬り去る。いずれも二体は黒い霧となって霧散した。
「クックックッ。邪魔ですねぇ」
ゼノは口の端を歪ませながら、空中を旋回し、魔物を召喚し続ける。
ウェルモンドは銃にエネルギーを溜めながら、照準をゼノに合わせ続けた。
地上の守りは執事の二人とカミールが担当し、空中からの脅威はメイド二人と迷子が排除する。
オオカミに乗り、縦横無尽に駆けまわる迷子。
ブラウンベアの一撃も、頼もしい援護となり戦力に貢献した。
「よし、いけるぞ!」
シルバーソードの準備が整った。
銃口の先に集まる淡い燐光。やがて球を成した大きなエネルギーの塊は、ドッという音と共に銃口から放たれる。
その光の筋は雲を切り裂き、まるで巨大な刀身のように見えた。
ウェルモンドは反動に耐えながら、空中のゼノを追いかけて銃を操る。
「グオ……ッ!!」
光の刀身はゼノの翼をかすめる。
なんとか躱したとはいえ、まともに喰らっていたら、一瞬で粉々になっていただろう。
地上のゾンビたちも、漏れ出た光を浴びただけで、次々と蒸発している。
シルバーソードがいかに強力な古代兵器か。それを知るには充分な光景だった。
「……早急にケリをつける必要がありますねェ」
ゼノの表情から余裕が消えた。
光の刀身が消えたのを見計らい、空中に停止して力を溜める。
「グオオォォオオォォォ……ッッ!!」
そして見上げるほど大きな魔物を召喚した。
角の生えた、巨人の悪魔だった。
「さぁ、いきなさいッ!」
悪魔は盾になるように、ゼノの前に立つ。
そして地上のゾンビを踏みつぶしながら、ウェルモンドのほうへと前進した。
「たあっ!」
オオカミに乗って駆け巡る迷子は、巨人の足の裏に銀の矢を連射する。
しかし、その歩みが止まることはなかった。
カミールも同じように釘を放つが、まるで歯が立たない。
ちょっとやそっとの攻撃では、ダメージを与えることができないようだ。
「まずいのじゃ! こっちにくるぞ!」
「どうしましょう。このままじゃウェルモンドさんが……」
これではシルバーソードがエネルギーを充填するまでに、みんなは踏みつぶされてしまう。
迷子はひとまずウェルモンドにコンタクトをとった。
「撃てそうですか?」
「武器は問題ない。しかしヤツが……」
「わたしたちがまた時間を稼ぎます。ウェルモンドさんはそのまま集中してください!」
「もしかして策があるのか?」
「ありません!」
「ない? じゃあどうすれば――」
「走りながら考えます! とにかく信じてください!」
そう言って迷子は、オオカミとこの場を離れる。
巨人を盾にしたうえに、ゼノは空を旋回している。そんな標的をいったいどうやって仕留めるのだろう?
考えても無駄なので、ひとまずウェルモンドは次の攻撃に備えた。
――一方のうららとゆららは、
「こいつデカすぎね?」
「攻撃してもすぐに傷が再生するわぁ」
剣と円月輪で対抗する。
しかし、こちらも致命傷をあたえることはできないようだ。
「アルヴァ! そっちはどうです!?」
「ダメだよ兄さん! まるで手応えがない!」
執事の二人も額に汗を滲ませる。
ゆっくりと前進する悪魔を前にして、死の壁がにじり寄る感覚を覚えた。
自分たちの寿命は、あと、数歩で決まる。
「アホ毛! どうするんじゃ!」
「むむむ……」
迷子は必死で考える。
カミールは「くぅっ……こんなの無理ゲーじゃー!」と、思わず口を衝いた。
「むむ……む? 無理ゲー?」
その言葉で迷子はハッとする。
カミールとゲームで遊んだことを思い出した。
「それですよカミらん!」
「は?」
「ゲームです! 攻略法はあります。全員こっちに集まってください!」
迷子は大声でみんなを呼びよせると、
「バラバラに攻撃しても無理です。ここは協力プレイでいきましょう!」
「でも、なにすんだ?」と、うらら。
「脚です! 一カ所を集中して狙うんです!」
「ひとまず動きを止めるのねぇ」と、ゆららが言うと、
「しかしメイコ様、そのあとは?」と、ネーグルが質問を返す。
「そうです。ゼノは依然、地上に降りてきません」アルヴァも続けて問うた。
「そこでこれです」迷子は携帯端末を取り出すと、どこかに電話をかけはじめた。
「――あ、もしもし? え? もうこっちに向かってます? ……うんうん、わかりました。よろしくお願いします!」
そして通話を切る。
「こちらから言うまでもなかったようです。わたしたちは足止めに専念しましょう!」
みんなは視線を交わしたあと、悪魔を見上げる。
立ち向かう意志は、固まったようだ。
やることは一つ。仲間を信じて、前に進むことだ。
「さぁ! ラスボス戦ですっ!」
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