↓第43話 ばくろされる真実

 夜。

 外は雨が降っていた。

 みんなはカミールの城に集まり、食堂に集合する。

 不気味な風がガタガタと窓を揺らし、雨粒が黒い線のように降り注いでいた。


「いやぁスマン。遅れた」


 ソルがやってきた。

 みんなが着席している様子を確認して、自分も席につく。


「お待ちしていました。それでははじめましょう」


「メシか? 事件の真相がわかると聞いたんだが」


「そうですソルさん。せっかくなので食事をしながらでも。いずれ真相に辿り着きますので」


 迷子は改めて挨拶をする。


「お集まりいただきありがとうございます。今夜の食材はわたしが用意しました。無理を言って、ネーグルさんとアルヴァさんに調理してもらったんです」


 執事の二人が、配膳カートで料理を運んでくる。

 各々の席に、銀のクローシュが並んだ。


「さぁ、食べましょう」


 蓋を開けると、皿の上にラムチョップのローストが載っている。

 果物をベースにした酸味のあるソースが、肉の旨味と相性がよさそうだ。

 一同はひとまず料理を口にする。しばらくまったりした時間が流れた。


「ふぅ、うまいのじゃ!」


「さすが二人の腕前は見事ですね」


 アンヘルがそう言うと、


「まったくだ。まるでどこかの高級店だな」


 ソルも満足気にヒゲをなでる。


「恐れ入ります」


 ネーグルが頭を下げ、アルヴァも無言で一礼する。

 そんなみんなの様子を眺めながら、迷子は静かに口を開いた。


「さて、食べながらでいいので聞いてください。今回の事件について、真相をお話します」


 みんなの視線が迷子に集中する。


「まずはおさらいです。先日100頭の羊の死体が発見されました。これらはすべてミイラになっており、住民のみなさんは吸血鬼の仕業ではないかと恐れていました」


「まさかとは思いますが、吸血鬼の仕業だったのですか?」と、神父が尋ねる。

 迷子は首を横に振る。


「先に言っておくと吸血鬼の仕業ではありません。これは人間の手によって仕組まれたことだったんです」


「しかし100頭の羊が一晩で出現したんだ。そんなことが人間にできるのか?」ソルが訝し気に髭を撫でる。


「まず犯人を言うまえに、今回の事件で覚えた違和感を知る必要があります」


「いわかん?」と、カミール。


「農場の羊が100頭消えた次の日に、それらはミイラになって発見されました。もしこれが人間の犯行なら、ブラッディティアーを使うことで、ある程度の説明がつきます」


「待ってください。たしかにウイルスが血液を消費すれば、それも可能でしょう。ですがミイラになるには時間が必要です」


「そうですアンヘルさん。ウイルスで血を消費しても、死体が乾燥するまでには時間がかかります。ところが変なんです。発見されたミイラからは腐敗臭がありませんし、血液が全部抜かれた状態です。これはブラッディティアーを投与した死体の特徴ですが、ということはやはり、ウイルスに感染した羊だったのでしょうか?」


「おいおい、いったいどういうことだ?」ソルが眉をひそめる。


「やっぱり吸血鬼がやったのか!?」うららが興味深そうに身を乗り出す。


 ウェルモンドは肉を咀嚼しながら、黙って話を聞いていた。

 ネーグルとアルヴァは沈黙して、佇んだまま耳を傾けている。


「答えは先入観を捨てることにありました。ヒントはこれです」


 迷子は先ほど出された料理を、指差して説明する。


「料理……ですか?」アンヘルが疑問符を浮かべる。


「みなさん美味しそうに召し上がっていましたね。ではこれが、本当は新鮮な肉ではないと言ったら?」


 みんなは一瞬、迷子がなにを言っているのかわからなかった。


「執事のお二人は料理の達人です。わたしが無理を言って、特別に禁断のメニューを提供してもらったんですよ」


 するとソルが、


「おいおい冗談はよせ。どう考えたってあれは新鮮な羊の――」


 すべて言おうとして、直後に顔から血の気が引いた。

 迷子はそれを察して、続きを話す。


「そうです。誰も「あれ」が食べれないとは言ってませんよね?」


「まさか……」アンヘルが思わずナイフを落とす。


 迷子はフォークに肉を突き刺すと、それを掲げてこう言った。


「提供したのは、ブラッディティアーに感染した羊です」

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