↓第40話 ズズズ……窓からはいります

 教会を離れた迷子は、ビリーの家に来ていた。

 玄関は閉まっていたものの、開いていた窓から身体をねじ込ませ侵入する。そして辺りに視線を巡らせた。


「予想が正しければ……」


 ビリーはなにかを告発しようとしていた。しかし死んでしまった。

 もしや生前、万が一に備えて保険を残していないかと予想する。

 セーフティネット。たとえば犯人を特定するような証拠はないだろうか?


「ん?」


 ふと見上げた食器棚の中に、ティーカップやお皿が置いてある。

 どれも二組でワンセット。しかも、どの柄もおそろいで用意されてある。


「…………」


 迷子の頭で徐々に仮説が組み立てられていく。

 考えながら探っていると、今度は机のそばで一つのディスクを見つけた。

 記載されたタイトルを見るからに、大学時代の生活を記録したもののようだ。

 なにげない日常が録画されているだけかもしれないが、とりあえずビリーの部屋からプレーヤーを持ってきて、それを再生する。


「…………」


 映像が流れた。

 背の高い白髪の男性が喋っている。


『タナカ君、レポートはまだかね? エリーザ君、その荷物はまとめて倉庫に持っていってくれ』


 ムスっとした表情で指示を出すのは、このゼミの教授である『ダリー・ザーフィル』だ。


 焼身自殺を図るまえの映像だろう。

 迷子はじっとモニターを見る。しばらくなんでもない日常風景が流れた。


『ビリー君、カメラばっかり回してないでそろそろ研究に着手しなさい。時間は有限なのだから』


 会話から察するに、撮影していたのはビリーのようだ。

 ダリー教授は相変わらずの表情。淡々と指示を出している。

 その後、研究の様子を映した映像が、延々と流れ続けた。


「…………」


 迷子はなにか引っ掛かる。

 その違和感を確かめるように、何回も映像を巻き戻しては、再生を繰り返した。


「……これって」


 そしてしばらくすると、指が止まった。


「……そういうことだったんですね」


 ようやく気づいた違和感の正体。

 迷子はさっそく端末を手に取り、ゆららに連絡する。

 バラバラの点が、徐々に線となりつつあった。


「もしもしゆららん。少し調べてほしいことがあります――」

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