↓第29話 てんまつ

 執事の二人は上の階を捜していた。

 一つだけ扉の開いている部屋を見つけ、互いに顔を見合わせる。

 中に入ると人の気配はなかった。

 額縁に飾られた肖像画に視線を移すと、窓から射し込んだ光が何かを反射した。

 ネーグルはゆっくりと近寄り、その光るものを手に取る。

 髪の毛だ。

 長く金色に輝くそれは、カミールのものだと確信する。


「この部屋に入ったのか? でもどうして――」


「ごめん兄さん。キノコ狩りから帰ったら閉めるつもりだったんだ。たまには風を通さないと」


「そうか、カミール様は私たちを捜してここに」


「どうしよう、まさかとは思うけど――」


「おちつけアルヴァ、今は捜すことに集中しよう。普段カミール様が出入りしない部屋も入念に」


 二人はコツコツ踵を鳴らし、出入口へと向かう。

 アルヴァは一度振り返り、「メリーダ様……」と呟いて部屋を出た――


☆       ☆       ☆


「ハァ……ハァ……いません」


 迷子は膝に手を突いた。

 城を駆けまわったが、カミールは見つからない。

 ひょっとして外へ出たのだろうか?

 端末に連絡しても出る気配はないし、彼女の身を案じずにはいられなかった。

 そうこうしていると、城のエントランスにみんなが集合する。


「メイコさん、こっちにはいません」と、アンヘル。


「こっちもダメだ」と、ソルも訝しい顔をしている。


「カミっちのヤツ、どこ行ったんだ?」


 天井からスチャっとうららが降りてきた。

 向こうの廊下から執事の二人も走ってくるが、首を横に振っている。

 ――というか、うららが口をモゴモゴさせているのが気になった。


「うららん、なんか食べてます?」


「ん? キッチンにうまそうなチキンがあったぜ。すげースパイシーなの」


「いまはそれどころじゃありません。まじめに捜してください」


「それより迷子、これカミっちのじゃね?」


 うららは拾ってきたものを手渡す。

 それは間違いなくカミールの携帯端末だった。


「どうりで返信がないわけです……」


「どうする? 山狩りでもはじめるか?」と、ソルが提案する。ビリーのことも含め、徹底的にやるならそうする必要もあるだろう。

 それを聞いたアンヘルは、


「ええ、しかしもうじき日が暮れます。クマやオオカミには、より注意を払わないと」


 慎重に意見を述べる。


「猟銃なら手配します」と、執事の二人が準備しようとしたそのときだ。

 城の正面扉をノックするような、または引っ掻くような音がする。

 不審に思ったうららが近づき、注意を払いながら扉を開いた。


「――おわっ!?」


 そこにいたのは羊だった。

 雰囲気でわかる。ダンだ。


「メェー!」


 その鳴き声は何かを訴えるようだった。


「どうしたんです?」と、迷子が駆け寄る。

 するとダンは袖を口で掴み、グイグイと引っ張る。

 どこかへ連れていこうとしているのだと察し、迷子はついていくことにした。


「メェー!」


 みんなもあとを追う。

 やってきたのは城から少し離れたところにある、小川だ。

 流れはゆるく、くるぶしが少し浸かるほどの深さしかない。


「メェー!」


 ダンが立ち止まる場所を見て、迷子は愕然とした。

 そこには一人の少女が佇み、ゆっくりとこちらに振り返る。

 それはカミールだった。


 真っ赤だ。


 夕日に染まっているからではなく、本当の血によって衣服が赤くなっている。


「か……カミ、らん……」


 そしてカミールの正面には、もう一人の人物がいた。


 ビリーだ。


 膝を突き、血の涙を流したまま動かなくなっている。


「メェー!」


 みんなは言葉を失い、ただその光景を眺めることしかできない。

 ダンの鳴き声が、慟哭のように草原を駆け抜けた――

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