第52話 はっじまっるよ〜!



 目の前にはうっすらと霧が立ち込めている。


 最初に来た時は空に夢中で気が付かなかったが、これはその他のボスが待ち受けているエリアに見られ、この先にボスが居ますよ〜と知らせてくれるものだ。


 この霧を抜けた先にひらけた大地があり、エーテルが待ち受けている。


「うしっ…」


 頬を叩き、霧に足を踏み入れる。


「はいっ、という事でエーテル攻略はっじまっるよ〜!」


 て事で攻略チャンネルっぽく解説していきますねぇ。


 霧を抜けた先ではエーテルがたった一人で待ち受けています。エリアの詳細として、妨害アイテムの効果減少があるので、煙幕や罠を多用するプレイヤーは不利になるので気をつけましょう。


 今回私わたくしヨルは、罠の使用ありません。


「俺の名ハ、エーテル。ビルズの宝ヲ、守る者ダ」


「ああ知ってるよ、リベンジに来たぜ」


 戦闘開始直後、エーテルによる名乗りがあります。ソロで攻略するのなら、ここが最初で最後の自バフ出来る隙です。


 ここでしっかり強化ポーションを使用しましょう。今回使用するのは俊敏上昇、腕力上昇、技術力向上の強化ポーションです。


 これらのポーションは以前、対イリヒト戦にて、ルナに使用したものを改良したもので(第24話参照)、4分間ステータスに大幅なバフをかけるかわりに、その後全ステータスにデバフをかけるというロマンポーション。


 この説明でお察しの方もいると思いますが、長期戦は捨てた完全な短期決戦用のアイテムとなります。


 さて、自身にバフをかけた後は短期決着のため火力を出さなければいけませんが、メインウェポンは必ず聖印、もしくは聖紋が付与された武器を使うようにしましょう。


 エーテルはウォーカーの強化版という事もあり、必ず浄化の状態異常を付与しないと火力が間に合いません。


 今回はサリアの聖女様に協力してもらい、聖紋付きのナイフを数十本用意してもらいました。


 エーテルの武器は大鎌です。近・中距離は暴力的な大鎌での攻撃、遠距離ではスキルによる瞬間的な距離詰めに、腐敗の状態異常を付与してくる全方向攻撃があります。


 なので。懐に潜り込みましょう。


「ここならスキルの使用確率はぐんと減り、大鎌による小回りの効かないその攻撃も、脅威が激減するからなぁ!」


 脅威は下がったとしても、攻撃が飛んでこなくなったわけではありません。必要最低限の回避行動で、エーテルから絶対に離れないよう立ち回りましょう。割り切って、ある程度ダメージを受けるのも一つの手ではあります。


「そうくるカ、戦士ヨ…」


 エーテルの攻撃を絞り、行動の脅威を減らしたら次に攻撃を当てていきます。火力の出し方はプレイヤーの好みに任せますが、今回は聖ナイフで火力を出していきます。


 ナイフスキルによる攻撃でも良いですが、ここは敢えて投擲スキルで火力を出します。


 RSFでの投擲スキルの仕様ですが、投擲物の命中率は、距離と技術のステータスによって変動します。


 技術が高ければ命中率が上がり、距離が近ければこれまた命中率が上がるといった仕様となるわけですね。


 それを踏まえて今の状況。超至近距離で戦うため、距離はほぼゼロです。また、私のキャラビルドは技術にステータスを振っているため、高い技術力を誇っています。


 そのため「1000回中2〜3回外れるかもな」くらいの、ほぼ必中と言って差し支えない命中率となるわけですね。もちろん100%ではないので、過信はせずに、柔軟に対応できるよう心がけましょう。


「なんといウ、手数ダ…」


「まだまだ、これからだ…」


 投擲スキルによって投げた聖ナイフは、エーテルの体に次々と突き刺さっていく。ナイフは抜こうと思わなければ抜けない程度には深く刺さっており、その傷口から肉の焼けるような音と共に蒸気が出ている。


「…よし、浄化付与」


 エーテルの攻撃を回避しつつ、刺したナイフが二桁に達したタイミングで、ようやく浄化の付与を確認できた。ここから大幅に弱体化されるはず、なんですけども…。


「うぐ…っ」


「手数ガ、増えタだけカ?」


 大鎌を振りにくい距離レンジのはずなのに、俺よりも攻撃回数が多いのなに?


 バグかな?


「やっべ…!」


 ここに来て、完璧に回避してきたエーテルの攻撃に被弾してしまう。適切でない間合いと、新調した装備のおかげか、ダメージは少ないが、これを何度も連続で喰らうと、あっという間の死が訪れる。


 丸薬の効果によって持続回復が行われているため、ある程度の割り切りで連続ダメージを喰らわないようにしなければいけない。


 ………あ、強化ポーションを使用するタイミングで丸薬も数個口に含み、いつでも使用出来るようにしておきましょう。

 丸薬の簡単な説明としては、HPの持続回復です。


 完全に攻略チャンネルのノリを忘れていた。まあ、余裕が無くなってるって事が伝わっていればオッk––。


「––っぶねぇ!」


 またしても被弾しそうになった攻撃をギリギリで回避し、思わず大きな声が出てしまった。


 時間として2分経過。バフ終了とデバフ発生まで残り2分。


 まだまだエーテルの体力に底は見えない。


「……くっそ」


「聖なル力ガ、付与されタ武器カ…」


 エーテルは自身の体に無数に刺さったナイフを見てそう呟いた。今、エーテルは何を想っているのか、俺には計り知れない。


「……」


 それはただの勘だった。


 未知のモーションだったからとか、変なエフェクトが見えたとか、そんな事じゃなくて、長くRSFをプレイしてきて得た、危険察知能力だとでも言うのか、オカルト的な、ただの勘。


 大きく横に回避しなければゲームオーバーになるぞ、無意識下で誰かに叫ばれたような気がした。


 特に迷いもせず、横に大きくステップを踏む。超至近距離を維持すると言った、攻略における大前提のプランを否定するような行動だったが、何の躊躇いも無かった。


 そして次の瞬間、俺の左腕は宙を舞っていた。



「【断絶世界】」


 



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