第50話 当たり前だろ




 前回のあらすじ。


 エーテルにボコボコにされた俺、大鳥ヨルはリベンジのため、準備を整える事にした。


 まず向かったのはサリアの聖教会。そこにいる聖なる力を持つ聖女に力を借りるためだ。


 なんやかんやあり、ヨガと引き換えに聖紋を付与したナイフを手に入れる事に成功。


 その後は精霊スキルの万能感を見せつけられ、転移して教会の外に出た。


「そして全財産の半分をピノーに渡し、薬草を買ってくるよう指示をしたのであった…」


「ヨル殿…?」


「おお、ピノーおかえり」


 教会から転移し、数時間が経過した頃。ピノーはおつかいを終わらせ、サリアの宿屋に帰ってきた。


 ピノーは大量に買ってきたであろう薬草をどっさりと抱え込んでいる。


「ヨル殿、貰ったゴールドは全て薬草と交換いたしましたが、この量をどうするのですか?」


「どうすると思う?」


 俺は一旦作業を止め、ピノーから薬草を受け取る。ピノーが軽々と持っていたせいで重量感がバグり散らかし、受け取った瞬間肩が外れるかと思った。


「…回復薬を大量に生成する、とか?」


「まあ半分正解だな」


 この薬草の使い道を話す前に、RSFにおける回復薬について説明しよう。


 RSFにおける回復薬は、緑色をした液体のアイテムで飲んだり傷口にかけたりと、使用する事でHPを即座に回復させるRSFでの必須急アイテムだ。


 原材料はピノーが買ってきたような薬草で、この薬草は至る所に生えており、初心者は薬草採取のクエストをチュートリアルとする事が多い。


 基本的に回復薬は街の店で購入するのだが、調合スキルを持っていれば、自分で作成する事も出来る。


 作成方法を簡単に説明すると、薬草を絞って原液となる汁を集める。


 以上、これだけ。


 簡単すぎる説明に戸惑ったかもしれないが、これがまた奥深いのだ。


 回復薬の回復量はこの原液の濃度で決まる。濃度が高ければ回復量も増えるし、濃度が低ければ回復量は少なくなるといった形だ。


 カ◯ピスをイメージすればわかりやすい。濃く作れば美味しいし、薄く作ったらちょっとテンションが下がる。


 …カル◯スの説明は蛇足だったかもしれない。


 ここから回復薬を使った商売に関しての説明をしたかったのだが、今回は関係が無いから省こう。


 結論から言うと運営がしっかりテストプレイしてるおかげせいで稼げない。


「さて、この薬草を何に使うかと言うと、のに使う」


「液体じゃない回復薬…?」


「ああ。丸薬とでも呼ぼうかね」


 調合スキルのレベルを上げるため、狂ったように回復薬を作っていた際に見つけた偶然の産物。


 材料は絞られた薬草。


 通常回復薬は絞った後の原液を使うのに対し、丸薬は絞りカスを材料とする。


 回復薬の生成待ち時間に絞りカスをこねていたら、次第に粘性が出てスライムのような質感に変化していった事から発展した。


 そのスライムを乾燥させた物が固形の回復薬、丸薬となる。


 効果は持続回復。


 使用してから毎秒HPが一定量回復すると言う物だった。


 当時は世紀の大発見だぁ! と大興奮したのだが、その興奮はすぐに冷める。その理由は回復量がめっちゃくちゃ少ないから。


 そもそも材料が薬草の絞りカスな時点でお察しなのだが、回復薬に比べて丸薬の回復量は百分の一と言っても過言じゃない。


 いや、過言だったかも…。


 まあ言いたい事は、当時は実戦で使えるレベルの回復量に期待出来ないと言う結論を出したと言う事だ。


「…が、考え方を変えてみよう。回復量は濃度で変化する。これは通常の回復薬で立証済みだ。つまりは、回復量を実戦レベルにまで持っていける濃度にすれば良い」


「…それでこれほどの薬草を使うのですね」


「そう言う事だ」


「通常の回復薬ではダメなのですか?」


「無理だな。


 エーテルの理不尽さは圧倒的な腕力と瞬間移動並みの速度だ。回復するために回復薬を使用すると、その一瞬の硬直で残りのHPを全て吹き飛ばされる。


「俺が丸薬に目を付けたのはだ」


 回復薬の場合、液体であるためインベントリに入れず持ち運ぶと言う事が出来ない。入れ物が壊れた瞬間詰むからだ。


 ダメージを負った際、インベントリを開いて回復薬を取り出し、使用すると言う一連の流れが無いといけないが、丸薬はその手間を省ける。


 固形であるため、インベントリに入れない事の危険性が激減するため、インベントリを開いて取り出すと言う動作を失くす事が出来るのだ。


「そして持続回復ってのもデカい。ダメージを受ける前に使用しても、持続回復の効果は得られるからだ。これによりノンストップでエーテルにだけ集中する事が可能になる」


「…さ、流石ですヨル殿!!」


「ふふ、まあな…」


 ピノーが褒めてくれるおかげで鼻が高い。これではフクロウではなく天狗になってしまうな。がははは。


「ところでヨル殿は何の作業をしてらしたんですか?」


「ん、これか?」


 ピノーは俺の手元にある物をじっと見つめる。


「ピノーに渡さなかったもう半分のゴールドで買った素材だ。これを基に装備作ってる。エーテル戦のためのな。ピノーに渡したゴールドと装備の素材に使ったゴールドでもう無一文だ」


「良かったのですか?」


「…当たり前だろ、ドリュー達が待ってる」



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