第25話 ユニーククエストってあの?





 ルナ単体へ向けた攻撃に合わせ、イリヒトの死角からデッドスピアによる不意打ちを狙う。


 剣を持つ方とは、逆の腕を切り落とされたイリヒト。彼は激昂しており、ルナしか見えていないようだ。


 それならデッドスピアは必ず当てなければならない。問題はどこを狙うか。


 ここで仕留められなければ、ルナにかかったバフも消えてしまう。魔族の急所は、人のものと同じと考えていいのか?


「頭潰しゃあ良いだけか…」


 わざわざ人の形をしてるんだ、いやそれ以前に生物である以上脳を破壊されれば絶命するはず。


 人の形をしてるのは擬態で、どこかにある弱点を破壊しなければ死にません、とかじゃない事を祈る。


 え、フラグじゃないよね、これ…?


 飛び上がり、ナイフによる斬撃をイリヒトの背後から仕掛ける。


 後頭部を狙ったデッドスピアは、一瞬の殺気を気取られたのか、寸前の回避で狙いから外れ、イリヒトの脇腹に突き刺さる。


「マジかよ…!」


「甘いわっ!」


 スキル発動直後の硬直により、イリヒトの反撃を回避することが出来ない。一撃の威力が高い剣での攻撃を、腹部に喰らってしまった。


 HPが一気に減り、出血の状態異常まで付いてしまった。剣に毒が付いていない分まだ良心的だな。


 腹に突き刺さった剣の切先が、背中から飛び出ている。こんな光景子どもに見せられるものじゃない。


「お前の策略も意味がなかったな」


「…いやいや、プランってのは2、3通り考えとくもんだろ。良いのか? お前の腕飛ばした奴がまだ残ってるぞぉ〜」


 狙ったところに当たらなかったとは言え、デッドスピアは成功している。イリヒトのHPも残り僅かなはず。


 デッドスピアで終わるなら良かったが、それが無理なら、の一撃に後は任せよう。


「ルナ、脇腹狙えよ!」


「はいっ!」


 剣に力を溜めているのか、綺麗な薄紫色のエフェクトがルナを取り囲む。見るからにザ必殺技って感じがしてかっこいいな。


「そんな見え見えの大技、この私に当たるわけが…」


 空を飛んで、回避行動を取ろうとしたのだろうが、それは体が痺れて出来ないだろ?


「俺はお前と違って、武器には毒を塗るタイプなんだよなぁ」


「貴様っ…!」


 力を振り絞り、イリヒトから離れる。剣はまだ突き刺さったままだが、これでルナも心置きなくスキルをぶっ放せるだろ。


「【紫炎緋蝶しえんひちょう】」


 時間はバフが切れるかどうかギリギリ。麻痺により、体を上手く動かせていないイリヒト相手に、ルナは高速で間合いを詰める。


 剣をデッドスピアによって弱点化したイリヒトの脇腹に突き刺し、さらに奥までねじ込む。


 剣に纏っていた薄紫のエフェクトは、イリヒトに触れると、巨大な炎となって真っ赤に燃え上がった。


 【紫炎緋蝶】というスキルは初めて聞いたが、見る限り、炎属性を剣に付与する戦闘スキルなのだろう。


 炎は剣の中に消えていくように収束していった。スキルの効果が終わったのかと思ったが、それは嵐の前の静けさというやつで、ルナが剣を振り切ると、イリヒトの体内から大爆発が起こった。


 その炎の広がり方は蝶のようで、見栄えも完璧だ。


「ヨルさん!」


「ナイス、ルナ」


 剣を鞘に納め、ルナは俺に駆け寄ってくる。大怪我を負い、動けない今の状況は、初めてるなと会ったあの日と真逆の状況だな。


「ど、どうしよう…。どうすれば良いですか!?」


「落ち着けって…。とりあえず俺の指示に従って治療してくれ。しくっても俺が死ぬだけだから気にすんな」


「気にしますよぉ!!」


 インベントリから薬剤を取り出し、泣きそうなルナに焦らさないよう方法を教えた。






******************






「よし、後は自己治療でどうにでもなる。頑張ったな、ルナ」


「もう生きてる心地がしませんよ…」


 なんとか一命を取り留めたので、一安心だ。にしても、ファウード家のご当主様が魔族だったなんてね。


 イリヒトの体は、絶命したのち灰になって消えてしまったのだが、戦利品として俺の腹に突き刺さっていた剣を手に入れた。


 よく見ると、なんだか黒いオーラを放っているような気もするが、鑑定スキルのレベルが低いせいでどんな剣なのかよくわからない。


 触れてもなんとも無いので、見た目だけだろうと結論付け、インベントリにしまう。売るよりかはコレクションとして保存しときたいな。


「あ、ジルさんが戻って来ましたよ!」


「おー、早いのか遅いのかわからんな」


 ジルさんは衛兵NPCを引き連れ、この部屋に戻って来てくれた。


「お二人方、ご無事でしたか!」


「まあ、なんとか」


 一人だったら絶対死んでたけども。


 その後の衛兵NPC達は、迅速に仕事をこなして行った。荒れた部屋の状態確認や、俺とルナ、そしてジル達ファウード家の者たちへの事情聴取等、手際が良すぎて少し怖いくらいだ。


「あ、イリヒトが持っていた剣。これどうします?」


「…そうですね、魔の者を見破ってくれたお礼として、そちらの剣をお渡しいたします」


「…どうも」


 ジルさんは寂しそうにそう言った。


 当主無きファウード家は、この先解体されてしまうのだろうか。


 きっとそうなると分かっているからこそ、ジルさんは悲しそうな表情で、この荒れた部屋と、立てかけられている前当主の肖像画を眺めているのだろう。


「君たちはもう行っていいぞ。何やら仕事の途中だというしな」


「わかりました。ルナ、行くぞ」


「は、はい!」


 部屋から出ると、バルクハム作の鉄製ソファが置かれていた。今回はこれを取りに来る簡単な仕事だった筈なのだが、まさか死にかけるとはね。


「…逆説的に、バルクハムの情報がそれ程の価値の物だったという事か?」


「ヨルさん、インベントリに空きが無いなら私が持ちましょうか?」


「ああ、空いてるから俺が持つよ」


 ソファをインベントリに入れて、屋敷の外に出た。空は綺麗な茜色に染まっており、バルクハムから遅いとドヤされるのが容易に想像できる。


「あの、今更ですけど、これってユニーククエストですよね?」


「ユニーククエストって、あの?」


 RSFには様々な依頼クエストがあるのだが、その中でも一際珍しいユニーククエストなるものが存在している。


 発生条件が隠されており、ユニーククエストは一度発生してしまえば、二度目がないと言う。


「私も見たのはレイさんの配信での一回だけですけど、ユニーククエスト以外に考えられないですよ」


「…そう、なのかぁ?」


 ユニーククエストは知られていないだけでRSF中で発生している、らしい。気付いていないのか、邪魔されないよう秘匿しているのか知らんが、表には滅多に出てこない。


 以前、レイが配信中に巨大なドラゴンと遭遇し、とある依頼を受けたことがあったのだが、それが今のところユニーククエストがSNSの前に現れた最初で最後だ。


流星群スターレインもユニーククエストをクリアするために結成されたクランだしな」


「……公表するんですか?」


「いや、しないよ。まだユニーククエストだと決まったわけでもないしな」


 このまま公表すると、どうやってもバルクハムについて説明しなければならなくなる。


 ユニーククエストを求めってやってくるプレイヤーや、野次馬精神旺盛なプレイヤーが絶えず集まってくるようになるだろう。


 それは避けたい。これ以上バルクハムに迷惑をかけるのは個人的に嫌だからな…。


「なら私も秘密にします」


「…うん、助かるよ」


 さっさとこの重いソファを届けよう。今日は情報量が多すぎてもう頭が痛いよ…。

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