第4話 晒されてますやーん
「ヨル、回復まいといて」
「おっけおっけ、あんま焦らせないで」
回復効果のあるアイテムを使用した瞬間、安全地帯を狭めるためのガスが移動を開始するアナウンスが流れた。
「はっ、アンチ収縮始またっ!?」
「落ち着けって」
一緒にゲームをやっている友人、桜庭コスケが笑いながらそう言う。
今俺とコスケがやっているのはFPSゲームの『ティタニティ』。ティタニティと言う星に集められた兵士が、生き残りをかけて戦うというバトルロワイアル系のゲームだ。
今はデュオモードをプレイしており、チャンピオン目前の最終局面を迎えている。
「今いる位置強いから焦らず行くぞ〜」
「分かってる、分かってるよ!」
「だから落ち着けって」
何回もコスケとティタニティで遊んではいるが、毎回この最終局面は心臓がバクバクしてしまう。慣れ親しんだRSFでは好き勝手やれるのに、このゲームでの俺は産まれたての子鹿みたいなもんだ。
俺の横で冷静に戦況を確認しているコスケは小学校からの幼馴染で、ゲーム全般が上手いタイプ。
地頭の良さからくる理解力はゲーム以外にも活かされており、中学生の頃、俺はコイツが理解力という概念がそのまま人間の形をしているのではと本気で思っていた。
「最初にあの岩場にいる敵がガスに押し出されて、そこから戦況が一気に動く感じね。最後まで待ってれば勝手に潰し合ってくれるからこれはイージーウィンです」
「とりあえず待てば良いのね?」
「そゆこと。あと落ち着いてね」
弾がマガジンいっぱいに入ってるのにも関わらず、リロードモーションを繰り返す俺に対して、コスケは背中をさすってそう言った。
その後、コスケの予言通りに事が進んだのだが、焦った俺が足を踏み外し一瞬でダウン。一人になったコスケがなんやかんやでチャンピオンを取ってしまった。
「……これ俺いる?」
「友達とゲームやるのが楽しいんだよ」
リザルトを見つつ、そう問いかけるのだが、その返しは正解なのか不正解なのかわからんぞコスケ。
「あのさ、聞いても良いかな?」
「なに?」
「RSFで理想のキャラが出来上がったって言ってたじゃん」
「うん、闇医者フクロウね」
ティタニティのロビー画面でコスケが何やら質問してきた。準備中となったコスケのアイコンと、準備完了をデカデカとアピールする俺のアイコン。落差がすごい。
「うーん、自分で気付いた方が良いとも思ったんだけど、ヨルってあんまγ見ないもんね」
「そういや全然見ないな」
「単刀直入に言うと、お前昨日の夜にトレンド入りしてたよ。闇医者で」
「うぇ……?」
************
事の発端は一つの動画だった。
ルナと言う最近ノリに乗ってる配信者がγに載せた動画が、どうやらバズったらしい。
10分弱程の動画は、グリフォンにボロボロにされたルナと、医者を名乗るプレイヤーのやり取りが記録されたもので、まるでコントのような会話が面白いという理由でγを中心に広がったらしい。
ルナはこの動画と共に『闇医者に遭遇しました。皆さんも気をつけてね(笑)』とコメントを残しており、この『闇医者』がトレンドに入ったという事のようだ。
俺が確認した頃にはもうトレンドには闇医者のやの字もなかったが、検索にかければそれなりに盛り上がってたんだろうなとわかる痕跡が見つかる。
これは、あれだ。
「晒されてますやーん」
「あはは、どこまで想定してたのさ」
「相手が配信してるってのはわかってたんだけど、相手がちゃんと視聴者集めてる人だとは思わなかった」
「ルナちゃんは最近出てきた子だけど、もう8万人近いからね。これからもっと増えるんじゃないかな。これからどうするの?」
コスケが準備完了したため、マッチ開始の合図音が大きく鳴る。
「どうって?」
「ん? これからも闇医者ムーブはするの?」
「そりゃするよ。晒されても関係ないね。取り敢えずは自分の気が済むまでやろうとは思ってる。小さい頃からの夢だからね」
「ネタに走ったくせに〜」
「うるせぇ! そっちの方が相手側も楽しいと思ったんだよ!」
俺が憧れた闇医者は、確かに医療費をぼったくるような詐欺師じゃなかったが、今となっては後悔もしてない。
ルナとのやり取りが何より楽しかったのだ。あれが毎回出来るとは思ってないが、一度大成功を経験してしまうと、やめるのは難しい。ギャンブルと一緒だ。
「そっか。俺もRSF始めたら言うよ。一緒にやろうぜ」
「闇医者ムーブをか?」
「ふっ、助手としてかな」
「はははっ。あ、このマッチ終わったらバイトで抜けるわ」
「りょうか〜い」
俺たちはまた宇宙船から、危険蔓延るティタニティへと、チャンピオンを目指して飛び降りた。
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