Sid.107 少しだけ芽生えた恋心のようだ

 急に点数が上がれば、まずは疑って掛かる。

 疑うのは教員の習性みたいなものだから、気にしなくていいそうだ。


「何にしても成績向上があって良かったよ」


 全然成績が上がらないから、自分の指導じゃ駄目なのかと思っていたそうだ。

 結果が出たことでボーナスも期待できるかな、とか言ってるよ。


「ボーナスですか」

「そう。元々は最難関校突破の実力を付ける、って契約だったし」


 実態は遊び半分、授業半分。これでいいはずはない、と思っていたが、肝心要の俺にやる気が一切無かった。どこかでやる気を出してくれれば、と思っていたらしい。

 何があったかは聞かないが、以前と異なり前向きになったから、結果も付いて来たのだろうと。


「予想は付くけどね」

「翔真先輩は継母さんとやり捲って」

「アホか、そんなわけ無いだろ」

「嘘ですぅ。雰囲気違うんですぅ」


 数学の先生は笑ってるし「確かに、それはありそうだ」とか言って「いいじゃん。成績と引き換えでいい思いしたんでしょ」じゃねえっての。

 この二人、妙に鼻が利きやがる。


「俺もあやかりたいけど」

「先生が抱いて良さを教えればいいんです」

「だよねえ」

「先生も心愛もいい加減にしてくれ」


 全く。こうして授業を潰してると、少しは自覚して欲しいものだ。

 それでも先生も安堵したみたいだ。少しは気にしてたのか。


 授業を終え数学の先生が帰ると心愛が迫ってくる。


「忘れさせるんです」

「気にしてないっての」

「駄目です。心に深い傷を負ってるんです」

「負ってねえ」


 結局、心愛に風呂場に引き摺り込まれ、掴まれ洗われ繋がってしまった。意思が弱すぎるな、俺って。

 部屋に戻るとベッドに潜り込み「今日は泊まるんです」とか言ってるし。

 嬉しそうな顔しやがって。

 隣に潜り込むと抱き着いてきて「あたしが心の支えになるんです」とか言ってるが、残念だったな。真に支えになってるのは絢佳さんだ。人生経験の差は如何ともし難いぞ。

 それでも気が楽になるのはあるな。


「心愛」

「なんです? するんですか?」

「しない。でもな」


 耳元でありがとう、と言うと、なあ、泣くほど嬉しいのかよ。

 絡まる腕に力が篭もり「あたしが頑張るんです」って、殊勝なことを言う。だがな、腕に力を込めすぎるとな、痛いんだよ、俺が。

 同じ学校の生徒とは思えないな。惚れたからってのもあるだろうけど、気遣う気持ちは人一倍強そうだ。

 一見するとバカにしか見えないが、成績優秀な生徒より賢いと思う。


 俺には勿体無くないか?

 それを言ったら絢佳さんも同じだけど。絢佳さんとは結婚できないから、一時的な火遊びみたいなもので済む。心愛はなあ。今から結婚を意識する程だ。何がそうさせるのやら。


 目覚めると隣に平らな心愛が居る。

 つい触れると柔さはあるんだよな。そのまま先端を捏ねていると、起きたようで「遠慮要らないんです、抱くんです」とか言ってるし。朝からやってたら遅刻するっての。


「起きろ」

「起きてます」

「だから登校するんだよ」


 こんな関係も悪くない。と、最近では思う。

 身支度を整え朝食を済ませるが、ションベンガキが心愛に声を掛けてる。以前、心愛に怒られて臍曲げたままと思ったんだが。


「あの、今日、学校終わったら少し、話が」


 にこっと笑顔になって「いいよ」だそうだ。また来るってことか。そうなると泊まり込む可能性もあるな。

 二日続けてなんて親がゆる、しそうだ。心愛の両親も背中を押し捲ってるからな。

 ずるずるとココアリジゴクに嵌まってる気がする。

 絢佳さんを見ると微笑んでるから、悪いことは起きそうにないのか。少しはションベンガキも譲るってことを覚えたかもな。

 ただし、俺は除外されてるだろうけど、俺も除外してるからお互い様だ。


 朝食が済むと心愛と一緒に登校する。

 腕を絡めべったり寄り添う心愛だな。


「妹さんですけど」

「ああ、話があるってか」

「何を話したいんですかね」

「分からん」


 興味無い。

 絢佳さんからの話だと少し時間をくれ、って言っていたらしいが、あれが俺に折れることなど無いだろうに。一生嫌ってくれてていい。俺から歩み寄る気は今更無いし。歩み寄られても無理だな。互いに不干渉を徹底した方がいいと思う。

 ただ、心愛とはまあ、友だちみたいな関係でもいい。


「あれだ、仲直りじゃないのか」

「そうなんです?」

「他に何がある」

「翔真先輩との間を取り持つとか」


 ねえだろ。心愛をだしにして、何とかしたいなんて絶対に考えないはず。


「話しをすれば分かることだ」

「ですね」


 学校に着くと各々の教室に向かう。

 帰りは待ち合わせってことに。


 午前の授業を終え食堂に行くと、心愛も来て情けない表情を見せてるし。


「どうした?」

「お金ないです」

「は?」


 昨日自宅に帰って昼飯代を受け取り、学校に来るはずだったと思い出したらしい。

 だが泊まってしまったために昼飯代が無いと。アホだ。


「貸しておいてやる」

「明日返しますぅ」

「明日? まあ返せるんならな」

「返すんです!」


 そうか。今夜泊まったら明後日になるぞ。いいけど。

 昼飯代を貸し二人並んで学食で飯を食う。


「翔真先輩、文化祭は何かやるんですか」

「喜ばしいことに予定の一切は無い」

「ぼっちの面目躍如ですぅ」

「あのなあ。まあ、そうなんだが」


 じゃあ一緒にサボろう、とか言ってるし。

 どうせ居ても居なくても一緒だからな。俺の場合だけど。心愛は違うんじゃないのか?


「あたしも予定が無いです」

「準備は?」

「無いですぅ」


 こいつもかよ。この学校の生徒って、ひとり残らず頭いかれてんじゃねえのか?

 各学年に存在しない生徒が最低ひとり、居るってことかよ。その状態であっても誰も気にも留めないのか。狂ってる。

 最早人の心すら持ち合わせていないな。


「じゃあ、デートでもするか」

「行きたいです!」

「とは言っても近場だけどな」

「なんでもいいです」


 嬉しそうだ。

 でもあれだ、俺が居なくなると、本当にひとりになるのか。二年間、そんな状況に耐え続ける必要があるってことだよな。辛いかもしれん。心愛と出会った時のことを思い出せばな。背中を丸めて寂しげに歩いていた。

 俺は中学からずっとだから、そんなものと割り切って来たが。心愛は中学は公立だった。ぼっちが初だとすれば、途中で心が折れるかもしれん。


「あのな」

「なんです?」

「俺が卒業したら」


 家に毎晩でも来ればいいと言ってみた。なんなら親の許可を得て、泊まってもいいと。


「絶対行きます!」


 やたら嬉しそうだけど同情してる面はある。俺もそうだが心愛はこれからも、寂しい学校生活になる。三年間フルで寂しいってのもな。不登校になられてもあれだし。

 せめて夜だけでも俺が傍に居てやれれば、学校でのぼっちも耐えられるかもしれん。

 そんな気はなかったんだがなあ。今気付いたよ。


 高校三年になって絢佳さんに支えられた。心の拠り所ってのは大切だし。

 だったら俺は心愛を支えてやればいい。

 俺の気持ちに少なからず心愛を好き、ってのがあるからな。


 なんか以前より更に可愛いと思えてきた。男心と秋の空、か。変わるもんだな。


 いよいよ文化祭が近付くと、準備に余念のない生徒が多数。

 蚊帳の外の俺はそれを横目に帰宅するわけで。当然だが心愛も一緒だ。学校自体にハブられてる二人ってことで、互いに傷の舐め合いをする気はないが、この学校の生徒に打ち解けるのは不可能だからな。

 高卒の資格を得るためと割り切って、通ってもらうためにも俺が支える。


「勉強するぞ」

「するんです?」

「しないと卒業も危うくなるぞ」

「じゃあします」


 じゃあ、じゃねえ。そんなんだと俺と同じく苦労するぞ。

 もし今後、成績が向上し学年で中位にでもなれば、まず教師が目を掛けてくる可能性はある。

 俺は間に合わなかったが、心愛はまだ一年だからな。

 そうなれば周囲も変わるかもしれん。

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