同接3人のダンジョン配信者だったけど、その視聴者は女神と魔女とインフルエンサーでした。 ~大手配信者に底辺配信者ってバカにされて落ち込んだ俺を励まそうとリスナーがオフ会を開いくれるらしい~

プリントを後ろに回して!!

第1話 酷い仕打ち

 「今日はこのダンジョンを探索して行こうと思います!」


20××年、日本の全国各地に突如謎の洞窟が出現した。


その洞窟はいわゆる異世界のダンジョンへと繋がっていて、そこには沢山のモンスターが居る。


それと同時期に人間にも突如として魔法を使える者が現れた。


俺、笹壁 あまり も魔法を使える人間の1人だ。


しかし、俺の魔力はEランク。


魔力のない人間と同じと言っていいレベルである。


それ故に俺が探索できるダンジョンは既に攻略済みの、安心安全なダンジョンのみだ。


魔力ランクが高い人達は高レベルのダンジョンの攻略をしており、名誉と栄光を手にしている。



「あ、ゴン太さん。 今日も見に来てくれてありがとうございます!」


ネット配信が流行している現代ではダンジョンの中で配信する人も多い。


俺こと活動名【レイ】もその1人である。


ただ、モンスターと戦っている所を配信するのは刺激が強いため、ダンジョン攻略時は配信することを禁止されている。


探索する人は配信をし、攻略する人はその成果を出すことで注目を集めている。


俺は攻略し尽くされたダンジョンの経路や、人間には害をなさないモンスターとの交流を配信し、異世界の存在は人類の敵というだけではないことを伝えている。


そんな俺の配信はいわゆる過疎っており、いつも見に来てくれるのはゴン太さん含めた3人だけである。


〝こんにちは〜〟


〝こん〜〟


「あ、マジカルOLさん、かまぼこさん、こんにちは〜」


これがいつものメンツだ。


マジカルOL〝お誕生日おめでとう〟


「あ、覚えていてくれたんですね! 嬉しいです」


かまぼこ〝あ、先越されたぁ。 オタオメ!〟


「順番とか気にしないですよ! ありがとうございます」


ゴン太〝え、今日誕生日なの!?〟


「そうなんですよ、一昨日そんな話をしててその時、ゴン太さんいなかったですもんね」


ゴン太〝くっ……〟


マジカルOL〝ドンマイ、ゴン太さんw〟


かまぼこ〝誕生日は家から雑談配信っていってたくない?〟


「あぁ、そうしようと思ってたんですけどこのダンジョン昨日探索許可でたばかりなので、どうしても探索したくて」


――こんなふうに少ない人数ながらも俺は彼らと楽しく交流しながら、配信をしている。


「どーもー、キミこの低級ダンジョンの探索組?」


突然後ろから話しかけられて、俺は思わずビクついてしまった。


「は、はい」


振り返るとそこには若い男女数人が立っていた。


「俺たちレーナルズ。 知ってる?」


知ってるも何も、ネット界隈で知らない人は居ないほどの超人気グループじゃないか!


「し、知ってます!」


レーナルズは全員が高い魔力適正をもった上で、トップクラスの攻略速度で次々にダンジョン攻略を果たしている人達だ。


それに加え最近はプライベートでの仲のいい動画が、凄い人達なのに親近感が湧くということで、大好評なのである。


俺に話しかけてきたのはリーダーのリュウトだ。


「キミ今配信してるの?」


「はぃ」


「ふーん」


そういうとリュウトは俺の携帯の画面を覗き込む。


「3人……」


「あ、そうなんですよ。まだ駆け出し配信者で……」


卑屈な笑みを浮かべる俺に、リュウトはほほ笑みかける。


「いや、全然大丈夫だ。 伸びしろしかないよなぁ」


すごい、いい人だ。


「俺らさ、最近攻略だけじゃなくて探索もやろうかなって思ってるんだよね。だから探索組の人に色々教えて貰いたくてさ。レクチャー動画にでてくれないかな?」


これは、これはビックチャンスだ!!


「はい、是非!」


そう即答して、すぐ俺は小声でみんなに話しかける。


「みなさん聞いて! あのレーナルズの動画に俺を出してくれるってさ!!」


かまぼこ〝???〟


マジカルOL〝だれ?〟


ゴン太〝あー…〟


予想外のドライな反応に一瞬思考が止まってしまったが、俺は3人に事の重大さを説明する。


「これは異世界が危険な存在というだけではないことを多くの人に知ってもらうチャンスだ!」


鼻息荒く語る俺に対してあまりピン来ていない3人、ここまですれ違ったのは配信やって来て初めての経験だった。


しかし、これは紛れもない大チャンス!


「そろそろ撮影するけど、まず質問いくつかしていくからぁ〜」


「はい、お願いします!」


ダンジョン探索の目的や、配信活動に関する質問にいくつか答えたあと、具体的にダンジョンで何をしているのかを見せた。


「君の職業はなに?」


唐突なその質問に少し狼狽してしまう。


職業というのは剣士やら賢者だったりのことだ。


「一応……召喚士です」


鑑定ではそう言われた。


「召喚士! レアじゃないか! 何か召喚して見せてくれよ」


リュウトに興奮気味で促されたが、実は大きな欠点がある。


「あの、実は…………」


やって見せた方がいいか。


「いでよ! 我が召喚獣!」


そう唱えるが、そこには召喚獣どころか魔法陣も現れない。


「召喚してもなにも出てこないんです」


レーナルズのメンバーは苦笑いを浮かべる。


気まずい。




「さっきから気になってたんだけどいつもスライムに話しかけてるの?」


気まずい空気を察し、レーナルズの紅一点であるアカネが尋ねてくる。


「そうです、この子はピートって名前です! 低級のスライムはとても臆病なだけで、友好的に接していれば仲良くなれるんです!」


俺はブルースライムの冷たくて柔らかい頭を撫でる。


俺の発言に対してレーナルズのメンバーは凄く賛同してくれた。


「君の活動は素晴らしいね! モンスターと人間が友好関係を築けるって人はたまにいるけど、本当に築けている人を見るのは初めてだよ」


リュウトは満面の笑みで俺と握手をしてくれた。


こんな感じで終始いい雰囲気で撮影は終わった。


「いやぁ、協力してくれて本当にありがとう! この動画は1週間後くらいに投稿されるから楽しみに待っててくれ」


俺は自分の配信を見てくれている3人に向けてガッツポーズをみせた。


これで俺の活動を知ってくれる人が少しでも増えたらいいな。





「――よし、じゃあ始めるか」


リュウトが突然そう呟くと、レーナルズの1人、ゴウという筋骨隆々の男が配信していた俺の携帯を奪い取り、配信を切ってしまった。


「何を?」


急すぎる展開に思考が止まってしまう。


「じゃあ今から、その何とかっていうブルースライムと戦ってもらうね」


「は?」


にこやかだったレーナルズメンバーの顔つきが、変わった。


「モンスターと戦う所ってのはさ、配信したり動画にしたりしちゃいけねぇんだけどよ、闇サイトじゃそういうのウケんだよね」


噂には聞いたことがある。


闇サイトではモンスターを酷いやり方で討伐したり、逆に人間が襲われていたりする所をお金を出してまで見たいって人もいるとか。


「――でさ、君がそのスライムと戦うことになったっていう動画とったら、結構ウケると思うんだよね」


「そんなこと、許されていないと思うんですけど」


「そんなこと分かってるよ、レイ君。いや、草壁 あまり君」


その一言に心臓を握られた感覚を覚えるほど、緊張が走る。


「何で本名を……」


「これは俺のチート能力ってやつかな。【盗視】つって相手のステータスを見れんの」


ステータスは魔法使用者にしか見えないもので、個人情報が沢山のっている。


「そんな、ふざけないでください! 俺はピートと戦うことなんて出来ませんし、ピートも人を襲ったりはしません」


俺はピートを抱きかかえ、彼らから距離をとる。


リュウトは冷たい目でそんな俺を暫く見つめた後、アカネにアイコンタクトする。


「チャーム」


アカネがそう言うとピートの体に一瞬ピンク色のモヤのようなものが見えた気がした。


「あなたとそのスライムにどんな絆があってもね、私のチャームにかかればその子はもう、私の虜なの」


ピートは俺の腕の中でじっと動かない。


「彼を襲いなさい」


アカネは俺を指さしてそう命令する。


するとピートは俺の腕を振りほどき、体当たりをしてきた。


「そ、そんな……ピート! 俺だ、俺だよ!!」


そんな呼びかけ虚しく、ピートの攻撃で俺の体は軋む。


レーナルズのメンバーは全員携帯を俺の方に向けてその様子を撮影していた。


「ほらほら、早く反撃しないとそのスライムに殺されちまうぞ」


携帯の後ろから見える薄気味悪い笑顔からは、嘲笑混じりの言葉が紡がれている。


――反撃、そんなことするわけないだろ。


モンスターと接してきて、初めて心を通わせた友達を傷つけるわけが無い。


俺は幾度となく放たれるピートの攻撃を全て受け、説得し続けた。




「ちっ、つまんねーな結局1度も反撃しないのかよ」


20分くらいの猛攻の後、ピートの体力が尽きたようでその場から動かなくなった。


「まぁ、でも攻撃されながらモンスターを説得しようとしてるのは面白い画だったよね。 モンスターがチャームされてるって見てる側はわかんないわけだし、変態のタグ付ければ話題になりそう」


レーナルズは倒れている俺のことなど気にも留めず、去っていった。


「――あ、分かってると思うけど、このこと誰かに言ったらお前の個人情報、全部闇サイトに流すから」


去り際のそのセリフには出会った頃の温かさを微塵も感じなかった。


俺は地面を這いずりながらピートの元に行き、弱々しく拍動するその体を暗いダンジョンの中で抱きしめる。


誰かからのメッセージが届いたのか、携帯の画面が点滅していた。




【あとがき】

メインで書いている作品のあいまに思いつきで書き始めましたので、投稿頻度は不定期です。

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