Scene F 「木陰浴」
いびき虫
2024/07/12
大人になった今でも、さらさらと木漏れ日に浸って絵本を読む時間が一番好きだ。
いつか誰かに聞かれた。
「なんで好きなの?」
答えられなかった。僕はそんなこと考えたこともない。
正直、それ以外のことも含めて、自分のことはよくわからない。好きな時間や場所はあれど好きな理由はわからない。「ただ好き」なのだ。ただ一つ明確にわかっていることがある。それは僕がどうも「他人」という存在を苦手だと感じていることだ。
自分のことすらわからないのに、他人という存在は異質でしかないのだ。そしれ彼らの多くは他人に対して過干渉なのだ。
僕だって生きていく中で、少なからず他人と共に歩む時間もあった。彼らの多くは私に内在する何かを掘り出そうとする作業に多くの時間を使った。
「君は何が好きなの?」
「どうして好きなの?」
「いつから好きなの?」
「これからどうしたい?」
何もわからない。わからないけれど、ただ一つわかるのは他人に干渉される日々はどうも鬱屈としていたということ。
「貴方もそうあるべきだ」と言われている気さえしてくる。好きなものの好きな理由が答えられないことがさも悪であるかのように、ごく自然に悪びれることなく彼らは彼らの価値観で僕を支配しようとする。
おそらく、彼らにとって人生とは、他人と関わり合う中で自己を削ぎ落とし、隣の人とぴったり形を合わせる作業なのだろう。きっとこのパズルの名前は「社会」とかそんな感じだろう。
生まれ落ちたとき、丸くて歪な形をした僕たちは自然とその環境に適合してくのだろう。時間をかけながら自己を変容させて、自己を知るために他社を知り、社会の一部として正常に機能するために。
もはや誰かに伝えようとは思わないけれど、僕はこのお気に入りの木陰で木漏れ日を浴びながら絵本を読むのが好き。
世間一般的に言うと、僕の年齢でそんな行いに勤しむのはきっと歪なのだろう。それでも僕はこの時間が好きだ。理由はわからない。でも心が喜んでいる。それがとてつもなく幸せであるということはわかる。
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