第10話 鍛冶屋のブロディ

「さぁ、今から鍛冶屋に行くわけだが、アレグリアは槍を買うお金を持っているのか?」


「まあ…安いものだったら買えると思うけど、正直あんまりお金は持ってないわ」



 俺はマリア様からもらったバッグから麻袋を取り出し、入っている金貨をテーブルの上に出してみた。



「そういえば…食堂で金貨を持っていた事には驚いたけど、この百万エン金貨はどうしたの?」


「創造神様からもらったんだけど…そんなに大金なの?」


「…百万エン金貨が50枚、五千万エン…この辺の土地付きの家が買えるくらいだよ」



(五千万エンで土地付きの家か…昨日の食事の値段を考えると、物価は前世とあまり変わらないのかもしれないな。…それにしてもマリア様…金銭感覚、大丈夫ですか?)



「じゃあ、このお金を使って、なるべく質のいい槍を買う事にしよう!!」


「!?」



 アレグリアは驚きの表情をして



「いや…ダメだから!!これはハヤトのお金だし…理由もなく買ってもらう訳にはいかないわ」


「………じゃあ、俺はアレグリアに投資をする。これでどうだ?」


「投資って…?」


「俺は自分のお金で最上級の槍を買ってアレグリアに渡す。アレグリアはその槍を使って実力を上げて稼いでいく。そして将来的に大金を稼げるようになったら、そうだなぁ…槍の金額の10倍のお金を俺に対して、成功報酬という形で払ってもらう。どうだ?」


「S級冒険者になれると考えれば安いものだけど。…もし…成功しなかったら?成功しても、お金を返さずに姿を消す事だってあり得るわよ」


「アレグリアは気にしなくてもいいよ。その時は俺の鑑定スキルが不完全で、俺が人を見る目が無かったという事だから、素直に諦めるよ」


「…わかったわ。その投資に良い結果を出して応えて見せる」



 俺とアレグリアは握手を交わし、交渉は成立した。






 俺とアレグリアは鍛冶屋に向かう為に宿を出発するが、俺があちこちの店に興味を示し、ぜんぜん鍛冶屋に到着しなかった。昨日は夕暮れ時で、店も閉まりかけていたので分からなかったが、見た事もない物や食べ物が一杯に並んでいる。



「おっ、これは凄いな。うわ!?この食べ物は気持ち悪い」


「………ハヤト、後にしない。全然鍛冶屋に到着しないんだけど…」


「ごめん、ごめん。珍しすぎて…。あっ、あの服なかなかいいな!!」


「………ちょっと…ハヤト、待ってよ!!」



 俺はテンションが上がりすぎて、アレグリアの話も耳に入ってこない。そんな俺の姿を見て、アレグリアは次第に無表情になっていき、疲れ果てた表情になってお店の椅子に座りこんでしまっていた。



「アレグリア、座ってないで鍛冶屋に行くよ」


「………誰のせいで疲れていると思っているのよ」


「はい。これ、アレグリアに似合うと思って…」


「えっ!?」



 俺はアレグリアの銀髪に似合う髪飾りをプレゼントした。



「これを一目見た時から、アレグリアの綺麗な銀髪に似合うと思って…」


「…私に…あ、ありがとう。嬉しい!!」



 突然のプレゼントに驚き、そして満面の笑みを浮かべるアレグリア。今までハヤトに振り回されて疲れていたのだが、その疲れも一瞬で吹っ飛んでしまったようだった。



「さあ、鍛冶屋に向かうわよ」


「わかった」



 ここからは寄り道をせずに、無事に鍛冶屋に到着したのだった。






 アレグリアは鍛冶屋と言ったが、見た目は鍛冶屋ではなく、鍛冶工房といったほうが正解で、商品の剣や槍のディスプレイなどは一切なかった。



「こんにちは!!ブロディさんいますか~」



 入口のドアを開け、アレグリアが大きな声で挨拶をする。



「……………」



 反応が無い。



「こんにちは!!こんにちは!!こんにちは!!!!!」



 いつもの事なのだろう。アレグリアは気にせずに、大きな声で挨拶を繰り返す。



「うるさいんじゃ!!」



 奥から髭もじゃな、厳ついおじいさんが怒鳴りながら出てきた。



「アレグリアか…」



 髭もじゃのドワーフは一言呟くと、俺のほうを一瞬だけ見て、面倒くさそうに頑丈そうな椅子に腰を下ろした。



「こんにちは!!今日は槍を見せてもらいに来ました」


「…槍だぁ~!?」


「剣から槍に得物を変えようと思って…槍を見せてください!!」



 アレグリアは頭を下げて頼む。



「剣がダメなら次は槍か…。大けがする前に引退して宿を継げばいいんじゃ…」



 などと毒舌を吐きながら、一旦工房の奥に下がって槍を取りに行こうとする。


 俺はこのドワーフに



「この工房で一番質の良い槍を持ってきてください」



 と、声をかけるが、一瞬だけ俺のほうを見て、無言で工房の奥に槍を取りに行った。


 アレグリアは俺のほうを見て



「ブロディさんは愛想がないけど、とてもいい人なのよ」



 と、苦笑しながら言った。


 俺は店主が戻ってくる間に鑑定結果を確認する。鍛冶屋さんにはこれからもお世話になると思うので、一応鑑定して確認させてもらった。



 ブロディ 236歳 身長146㎝ 体重76㎏


 戦闘 062/100 政治 026/100 内政 046/100 感性 062/100


 魔法 000/100 家事 003/100 信用 090/100 生産 088/100


 農業 047/100 商業 041/100 建築 077/100 魅力 046/100


 外交 056/100 交渉 041/100 鍛冶 091/100 採掘 081/100


 感覚 087/100 研究 072/100 狩猟 009/100 解体 058/100



 などなど、かなり鍛冶の能力が高い事がわかった。それに鍛冶だけではなく、物作り全般に対して高い能力を持っているようだ。






【アレグリア視点】


(鍛冶屋に着かない…)



 アレグリアはハヤトがあちらこちらの店に入って品物を見て回っているので、正直疲れていた。



(異世界から来て、珍しい事は分かるけど…)



 目の前に椅子が見えたので無意識のうちに座って休んでいた。『ぼう~』として目だけでハヤトを追っていると、何かを買ったようだった。



(もう…買い物をしてる場合じゃないのに…。早く鍛冶屋に行って槍を見たいのに…)



 そう思いながら、ハヤトがこちらに来たので立ち上がろうとすると



「はい。これ、アレグリアに似合うと思って…」



 そう言って、ハヤトが髪飾りをプレゼントしてくれた。両親以外から初めてもらったプレゼントだった。アレグリアは一気に疲れが吹き飛び、足取りも軽やかに鍛冶屋に向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る