母子
普通に恋愛をして、普通に結婚をして、普通に出産をして、これが普通の幸せだと信じて疑わなかった。
子供の頃から特に大きな夢が有る訳では無かった。地元の高校に通い、短大は5つ先の駅まで通学していた。地元の小さな会社に就職し、短大の時に友達に紹介されて付き合った同い年の彼氏と結婚する為、4年目で会社を辞めた。
結婚してすぐに妊娠して子供を産んだ。
これを機にとマイホームを購入しようと夫は言った。
絵に描いた様な幸せな生活だ。
夫は今まで以上に仕事に打ち込んだ。比例して私は子供と2人で過ごす時間が多くなった。贅沢な思いだと言う事は理解している。
ただ、私が気を抜けば死んでしまうような小さな命と二人だけの生活は、行き場の無い私の心を押し潰す。
車窓の外をぼんやりと眺めていた。大船駅を過ぎた辺りだろうか、子供が大きな声で泣き出した。同時に周りの視線が私に突き刺さる。
「お願い、泣かないで」
必死に子供をあやすが私の感情が伝わるのか、泣き止む気配は無い。時間が止まっているように感じる。
なんで、なんで、なんで!お願い、お願い、お願いだから!
「かわいいですね」
聞こえた声の方に顔を向ける。私の目の前には若い女性が立っていた。爽やかな笑顔で私と子供を見ている。吸い込まれそうな黒い瞳に映っている私の酷い形相が少し緩む。
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