ゴッド・オブ・ザ・ワールドメイカー ~ひとつ願いが叶うなら~
小人侍
第零話 愛は与えるもの
「ひとつ願いが叶うなら――」
黒く染まりゆくひとりの少年を、
伸びた影。
いつもは虫の声だけの
「ねぇ、ウチの話し聞いてる!?お兄ちゃはどんな世界を創りたいのっ?」
「いや、いきなりそんなこと聞かれてもな~……」
困り顔で眉を
まだ幼さを残した少女は、
「んんっ、じゃあお兄ちゃは何で生きてるの?嫌な事はない?何が楽しい?夢ってあるの?笑って死ねる?……ねぇっ!」
無邪気で容赦ない
その捌ききれない問題を放り投げる
「もうっ!この手の解に正しいも間違いもないの!人の心それぞれなんだから。お兄ちゃの思ったことを言ってよぉ!」
少女は、
「それなら分からないというのがボクの答えさ。悪しからず。ところで、何で急にそんな事を聞くのさ?」
小指を左右に振りながら舌を鳴らした少女は、兄へ向かって
「無論、生まれ変わっても一緒になる為よ!世界神様にそうして貰う予定なの!」
何を当たり前なことを聞いてるの?とでも言いたげな妹に、兄である少年は
「変化を
世界神デザイアとは、世界を創造した唯一神の名前だ。
デザイアは変化そのものであると考えられており、生命に宇宙、時間や思想に至るまでもが変化する存在――概念も含めて、万物の全てがデザイアであり、彼の創造物なのである。
そんな変化の
「その世界神様の望みこそが不変。永遠を
つまり、世界神が望みを叶えてくれる条件が、不変を提出しろ――という事だ。
しかし、その説は早くも
現状、人類が確認している唯一無二の不変とは、変化という
「神でさえ到達できない事でしょ?んなもん本当にあんのっ――ワァッ!?」
悲鳴のような金属音が
「死してなお変わらぬ願い!その心ある限り、それは決して
「だからとびきりの願いがなくちゃお話にならないわ。ウチには
少年は、考えようとして……すぐやめた。
数々の過去の失敗談から、これは当たり障りのない事を唱えると、
「ちなみに、そのプランって何さ?」
しかし、少年の口から出たのはそんな言葉だった。
待ってましたと
「
着くや
「ボクゥ!?そんなの誰も興味無いさ!もっと別の凄い人のが良っ――ぐへェッ!?」
言い終わるより先に突進を
「良くないッ!他人の評価なんて知ったこっちゃないわ!本当に自分がしたいことに、他人が
心中を激烈に
「お兄ちゃがウチの全て。死ぬ時を選べたら……今、ここで終わってもいい。ほんとに、そう思うんだよ?」
ひと
「そっか。でもボクは大人になった姿も見たいからなぁ〜」
少年にそっと涙を
倒れた兄を置いてけぼりにして、滑り台を駆け上がった妹は一番上の更に上、手すりを足場にした規格外の所まで登り詰めた。
「だから示すの!本物の愛をッ!」
「はぁ……
仰向けに見る夕日に舞う桜の花びらが、黒髪が
「あれを見て!散歩をしている犬と飼い主。あれが模範解答の一つよ」
「主人は
「て……
「なんで?お兄ちゃはそんな必要ないじゃない」
影が顔を
「絶望に暮れた
初めて会ったこの少女はどこまでも
それが今ではこんなにも色んな表情を見せてくれる妹が、兄にとっては例えようもなく嬉しかったのだ。
「それで、お兄ちゃは?」
滑り台から飛び降りて着地した
それを
「ひとつ願いが叶うなら……何を願うの?」
ドクンッ――
「……願い…………」
逆光のせいか、神々しいまでに
願いなんて――と、妹が押し付けた赤錆で汚れた手のひらに触れながら、
「ぁ……た……旅……かな」
「いろんな絶景を見ながら食べ歩きしながら、移動中にはウトウト居眠りしてさ。ご不満?」
「う~、違うのぉ!そういう事じゃないの!まただよ!嘘じゃないけど本当の事も言わないお兄ちゃの悪い
「でも、確かに悪くないわ。旅は
妹は喋りながら草むらに分け入って一度しゃがむと、
「人は夢を見たいのよ。望みの形は色々あるけど、お兄ちゃは、何をして見たいの?」
これまた独特な
願いと聞けば、普通は金持ちとか
だが、要求されてる
すると、少年は自然に妹を見つめていた。
この
焼け
だけど、だとしても……ボクは……。
「…………た……」
その時、無機質な電子音が短く鳴った。
音に二人が意識を向けると、すぐに鳴り止んだ。
一方的な着信履歴が何を意味するかを知っている二人は……
「……時間だ。暗くなる前に、戻ろ?」
虫の死骸を砂場に埋めた少年は、腰を落として、少女と同じ目線で語りかける。
「ぃや……いやだ、ここがウチの帰る場所なの!」
俯いて表情は読み取れないが、勢いよく左右に揺れる髪が、少女の頬を打ち付ける。
「ほら、我がまま言わないで行くよ!」
少年は心を鬼にして、拒絶する妹を置いて出口へと向かおうと背を向けたが、妹は両手を広げて静止した。
「……ったく、まだまだ甘ちゃんだね」
少しの間をおいて観念して振り返った少年は、ぴょんと飛び跳ねて催促する姿の妹に破顔した。心に滲む恥ずかしさを押し殺す少年は妹を優しく迎え入れた。
「よいっしょっ……ととっ⁉」
昔より重い、その成長の証を嚙み締める少年は、だがそのせいで鋭い痛みが腹部に走り、不覚にも僅かに体勢を崩した。
「……やっぱり降りる。早く下ろして!」
抜け目のない少女はその一瞬を見逃してくれることはなかった。
少し暴れて強引に地面に降りると、少年の脇に滑り込んで肩を無理やり貸し付けてきた。
「今日はこうやって、くっついて帰るの!」
少年との隙間を埋めるようにして、少女は小さな公園から出た。
冷たくなっていく手を大事に抱えた妹は、満面の笑みで言った。
「ウチ、お兄ちゃのこと大好き!死がウチらを繋いだら――また逢おうね!」
「あぁ。何があっても、絶対、一人にさせない」
ぎゅっと強く手を繋ぐ少年と少女の寄り添った影が、暗闇に溶けて消えていく。
穏やかな時間が流れる中、笑顔の少女と対照的に無表情となった少年。
その脳裏には先の問いかけが、何かを必死に訴えているようで……焼き付いて離れなかった。
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