偽りの星は追憶の調べとともに

有満なのはな

プロローグ

「ふざけんな!!」

 ホールに響き渡る怒声に、多くの人々の視線が突き刺さる。

 声の主は周りなんて全く気にするそぶりも見せず、怒り任せに胸ぐらを掴まれる。

「同情してるのか? それとも馬鹿にしてるのか?」

 顔を赤くして睨んでくる大きな瞳を見つめる。怒りとともに滲む敗北の色。憎しみのこもった眼差しに耐えきれず、思わず視線をそらす。

「こんな勝ち方をして、本当に俺が喜ぶとでも思ったのか?」

 襟を掴まれる力が強くなる。苦しい。

「何とか言ったらどうなんだ!」

 襟から手が勢いよく離される。反動で足元がよろけるが、なんとか踏みとどまる。

 怒るのも当然だ。自分はひどいことをした。だから弁解の余地もないし、するつもりもない。

 でも、だったら自分はどうすべきだったのだろう?

 一生懸命向き合っても苦しめてしまうし、そうでなくても苦しめることになってしまう。一体、どうすればこの悪夢から抜け出せるのか。

 もはや、それすら叶わないのか……。

 目に熱いものが込み上げる。喉が渇いて、目頭が熱い。

 もうどうしたらいいか分からない。

「おい、どこへ行く! まだ話は……」

 背後から呼び止める声を振り切り、外へ駆け出す。

 ピンと尖った冷気がほてった頬に突き刺さりピリリと痛む。剥き出しの手がどんどん冷たくなっていく。空に厚く覆い被さる灰色の雲は、今にも泣き出しそうだ。

 こんなこと、望んでない。どうしてこんなことになってしまったんだ。

 僕はただ、君と一緒にいたいだけなのに……。

 どうして……。

「――――――っ!」

 誰かに呼ばれた気がした。

 振り返ろうとした瞬間、瞼の裏で激しい光の爆発が起こった。

 散りばめられた光はまるで夢色を灯した蛍のようで……僕は誘われるがまま、いつまでとも知れない深い眠りについた。

 

 

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